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2 集結、四天聖剣

 ルドミラの記憶は、一面の炎から始まる。


 目の前に広がる炎。

 家々を焼く炎。

 魔族たちが吐き出す、炎。


 故郷の町は──魔族の軍団に焼き払われた。


 屈強な猟師だった父は、貪り食われた。

 優しく美しかった母は、いたぶり殺された。


 明るく楽しかった隣家の家族も、一緒に遊んだ近所の子供たちも、道端でいつも挨拶をしていた大人たちも──一人一人むごたらしく、まるでゲームでも楽しむように殺されていった。


 家の地下室に隠れていた五歳のルドミラの元にも、魔族はやって来た。


 殺される──。

 恐怖と絶望で心が壊れそうになったそのとき、彼女の元に翡翠色の光の柱が降り立った。


 熾天使(セラフ)級奇蹟兵装『ラファエル』。

 神に選ばれし者──勇者だけが手にすることのできる、聖なる神の武具。


 圧倒的なその力を手にしたルドミラは、魔族を皆殺しにした。


『あたしは、魔族を許さない』


 小さな体を返り血に染めながら、心の奥底から激しい怒りが燃え盛るのを感じた。


 大切な者を失った悲しみよりも、深く。

 大切な場所をなくした虚無感よりも、深く。


 ただ魔族に対する怒りだけが、彼女の心を支配していた。


 ゆえに、ルドミラの魔族に対する心情は一つだけだ。


 滅ぼす──。


 シンプルな、たった一つのその衝動が勇者ルドミラを今も突き動かしている。




「魔王など、我ら四天聖剣(セイクリッドエッジ)の力をもってすれば敵ではない──そう言って飛び出したアナタが、手ひどくやられたものですネ」


『地』の四天聖剣──全身鎧の騎士が淡々と告げた。


「いや、それだけ今の魔王が強いということだろう。違うかい、ルドミラ?」


『水』の四天聖剣──魔法使いを思わせるローブ姿の青年が慰めるように言った。


「あたしは魔軍長クラスにだって引けを取らない自信があるわ。でも魔王は──」


 ルドミラが唇を噛みしめる。


「まるで歯が立たなかった。戦闘能力の次元そのものが違う」

「弱気だナ。それなら、ワタシたちもさらなる力を手に入れればいいだけ。違うかナ?」

「さらなる力……?」


 眉を寄せるルドミラ。


「『神託』があったのだヨ」

「神が、我らに新たな力を授ける、と」

「わたくしたちとともに『大聖堂(カテドラル)』へ行きましょう、ルドミラさん」


 フィオーレが気品のある笑みを浮かべた。


 大聖堂──それは勇者ギルドの上層部だけが入ることを許された聖域中の聖域だ。

 四天聖剣と呼ばれるルドミラでさえ、そこに入ったことはない。


「『大聖堂』……に?」


 ごくりと喉を鳴らす。


「戦いは新たな領域へと移る──そのために、俺たち四人はさらなる力を手にする必要がある」

「そして、ワタシたちこそが魔王を討つ真の勇者となるでショウ」

熾天使(セラフ)級の奇蹟兵装を持っていると、魔界には入れない──その対策も進めるそうですわ」


(さらなる力……か)


 ルドミラは拳を握りしめた。


 完敗した屈辱は、必ず晴らす。

 魔族は、すべて滅ぼす。


 そう、あの日の誓いを果たすために。

 あの日から、ずっと消えない怒りの衝動のために。


「あたしも行くわ。もっと強くなってみせる──」


    ※


 その後も、俺はステラに実験に付き合ってもらった。

 だけど結局、魔王剣の欠片についてはよく分からないままだった。


 ……帰ったら、ユリーシャにでも聞いてみるとしよう。


「じゃあ、リーガル配下の魔族を探そう。と、その前に──ステラはどの程度回復しているんだ?」


 あらためて確認しておく。


「もうかなり戻っているはずです。試してみますね」


 ステラは先の戦い──百の勇者が魔界に決死行をかけたときの戦闘だ──で魔力を大きく消耗している。


 千里眼を使う分には問題ないそうだが、戦闘に関しては十分に力を振るえない、と聞いていた。

 その後、少しずつ回復しているらしく、今はどの程度まで戻っているのか。


「──ふぅっ」


 小さく気合を入れるステラ。


 その全身が青白いオーラに包まれた。

 長い銀色の髪がはためき、額に現れた第三の瞳が黄金の輝きを放つ。


 なるほど、以前よりもかなり魔力が上がってるな。


 俺の魔力感知能力はそこまで高くないが、それでもはっきりと分かる。

 並の魔族をはるかに凌ぐ魔力量だ、と。


 さすがは魔軍長といったところか。


「七割、というところでしょうか」


 これでも七割なのか。


 ステラは全身を覆うオーラを消した。


「先ほどのような四天聖剣クラスならともかく、並レベルの勇者が相手なら問題なく戦えます」

「分かった。俺もできるかぎりフォローするけど、いざというときは最低限自分の身を守ってくれ」

「申し訳ありません。本来なら私がフリード様をお守りしなければいけないのに……」

「謝ることはない。お前を同行者に選んだのは俺だ。それに千里眼で十分役に立ってもらってるからな」


 すまなさそうなステラに、俺はにっこり笑ってみせた。


「──こちらに近づく気配があります。敵ではありません」


 ふいに、彼女が表情を引き締めた。


 俺は魔王の仮面をつけて、接近する者たちに備えた。


 ほどなくして、背後の茂みに気配が生まれる。


 振り返ると、闇の中に赤い輝きがいくつも浮かんでいた。

 彼らの、眼光だ。


「リーガル配下の魔族か?」


 俺は闇に向かって声をかけた。


「先王ユリーシャは討たれた。俺はその後を継いだ新たな魔王。名をフリードと言う」


 俺は彼らに見えるように右手を掲げた。

 手の甲に魔王紋を浮かび上がらせる。


「おお、魔王様だ!」

「魔王フリード様!」


 歓喜の声が唱和する。


 闇の中から二十ほどの魔族が現れた。

 骸骨型の者、不定形の幽霊のような姿、ゾンビタイプ……いずれもアンデッド系の魔族だ。


 傷を負っている者も少なくなかった。


 アンデッドは物理的なダメージで死ぬことはない。

 だがコアを砕かれたり、聖属性や浄化系統の攻撃を受けると脆い。


「ステラ、傷を負っている者の手当てはどうすればいい?」


 アンデッドって回復呪文を受けると、逆にダメージを負うって聞いたことがある。


「アンデッドの場合、エネルギー源である闇の魔力を直接与えるのが一番早いかと思います」

「なるほど、闇の魔力か……」


 俺は集中して魔力を高めた。


「傷を負った者は、これで補給してくれ」


 と、黒い豆粒のような光を放った。


 闇の魔力を凝縮したものだ。

 彼らにとっては一種の栄養剤といったところか。、


「おお……」


 それを受け取ったアンデッドたちは、いちように歓喜の声を上げた。


「力が……みなぎる……!」

「この魔力……濃厚で、コクがあって……美味い」

「極上だ……極上の味だ……」


 そうなのか?

 アンデッドの感覚はよく分からない。


「ありがとうございました、魔王様」


 回復したらしいアンデッドたちがいっせいに頭を下げた。


「さすがは魔王様です!」

「さすまお! さすまお!」

「さすまお! さすまお!」


 ……お前らもするのか、さすまおコール。


 もしかして以前から魔界で流行ってたんだろうか、これ。

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