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1 休息と、策動と

 俺たちは、ライルやルドミラと交戦した森を抜けた。

 湖のほとりまで到着する。

 冷たい風が、気持ちよかった。


「かなり引き離しました。この辺りに勇者や人間の兵の気配はありません」


 ステラが報告した。


「じゃあ、少し休むか」


 俺は魔王の仮面を外す。


「そろそろ日も暮れるし、ステラは千里眼をずっと使ってたから疲れてるんじゃないのか?」

「大丈夫です」


 クールに告げるステラ。


 でも、こいつは性格的に無理しそうだからな。

 消耗していても、顔に出さずに限界までがんばるタイプだ。


 そのとき、ぐう、と俺の腹が鳴った。


「……腹減ったな。すまん、休ませてくれ」


 こういえば、ステラも休んでくれるだろう、たぶん。

 それに人間界に来てから、半日近く何も食べていない。


「ふふ」


 ステラが微笑んだ。

 と、その彼女の腹も、きゅうっ、とかわいらしく鳴った。


「あ、これは、そのっ……」


 たちまち顔を赤くするステラ。

 なんだか微笑ましいな。


「飯にしよう」




 俺とステラは手分けをして食料を確保した。

 近くで木の実を拾ったり、食べられる草を探したり、あるいは湖で魚を釣ったり。


 で、集めた食材はステラが料理してくれた。

 火炎魔法で簡単な炒め物を作ったり、サラダを手早く盛りつけたり……と鮮やかな手つきだ。


「いい匂いだ」


 辺りにただよう香ばしい匂いが、食欲をそそった。

 また、ぐうっ、と腹が鳴る。


「料理は趣味なんです。こういうアウトドアでの素材を使うのもいいですね」


 ステラは料理好きなのか。

 ちょっと意外だ。


「はい、できました。どうぞお召し上がりください」


 俺の前に出てきたメニューは、焼き魚や木の実と草のサラダなど、どれもおいしそうな香りを漂わせていた。

 ステラと並んでディナータイムだ。


「うん、美味い」

「お口に合えば何よりです」


 ステラが嬉しそうだ。


「ありがとう。ステラもどんどん食べてくれ」


 それにしても美味い。


「そんなふうに喜んでいただけると、作った甲斐があります」


 ステラが隣で微笑んだ。


「魔界に帰ったら、また食べたいくらいだ」

「ふふ、お望みならいつでも」

「本当か! じゃあ頼む」

「はい、フリード様」


 ステラはにっこりとうなずいた。




 腹ごしらえを済ませ、俺はステラと今後の行動について相談していた。

 すでに日が沈み、周囲は闇に包まれている。


「リーガル配下の魔族は大半がルドミラによって討たれたはずだ。だけど、まだ生き残っている者もいると思う。彼らと合流したい」

「私が千里眼で探します」


 と、ステラ。


「頼む。後は状況を聞いてからだが……奪還された三王国をふたたび制圧するか、あるいは彼らを伴っていったん魔界に戻るか」


 王国を制圧、という言葉が自分の口から自然に出てきた。

 そのことに、少し驚く。

 心の中で何かが吹っ切れた感じがあった。


「最大戦力である四天聖剣(セイクリッドエッジ)のルドミラは倒した。それ以上の戦力が出てくるかどうか、だな。こちらの残存戦力と勇者たちの出方との兼ね合いになるだろう」

「承知いたしました」

「で、次は──」


 俺は虚空から黒い剣を取り出した。

 煉獄魔王剣(ラーディス)だ。


「こいつを調べないとな」

「魔王様の剣を……?」

「ステラは、この剣についてどこまで知っている?」

「初代の魔王様は、その剣をもって天上の神々すら打ち破ったとか。ですが、今はその力は失われており、魔王様の象徴という儀礼的な用具としての側面が強い──そう認識しています」


 初代魔王と神々の戦い……それは俺もユリーシャから聞いていた。

 ただし彼女自身も断片的なことしか伝わっていないらしく、あまり詳しいことは教えてもらえなかった。


 遠い昔にそういう戦いがあった、ってことくらいだ。


「じゃあ、魔族が神の呪いで弱体化した、って話は?」


 軽々しく話せることじゃないかもしれないが、少なくともステラには話しておくべきだろう。


「……いえ、そのような話は一度も」


 驚いたような顔をするステラ。

 半ば予想通りだったが、彼女は知らなかったらしい。


「事実、なのですか」

「少なくともユリーシャはそう言っていた。だが魔軍長のお前でさえ知らないなら、王以外の魔族には伏せられた情報なのかもしれないな」

「おそらく魔軍長のリーガルやゼガート、フェリアも知らないと思います」

「なるほど……悪いが、当面は他言無用で頼む」

「承知いたしました」

「それから……こいつの欠片を持つライルと戦ったときに、俺の力が抜けてしまった理由が気になる」


 ちょっと実験してみるか。


 あらためて剣を見た。

 ライルから回収した欠片は、刀身の欠損部にはまっているが、ちょっと力を入れると外すことができた。


「ステラ、この欠片を持ってくれ」

「私が……ですか?」

「ライルと戦ったときの状況を再現したいんだ」


 ステラに欠片を渡す。

 黒い表面部から、バチッ、バチッ、と紫色のスパークが弾けた。


「始めるぞ」


 俺は彼女から数メートルの距離を置き、煉獄魔王剣(ラーディス)を構えた。


 ──どくんっ!


 とたんに、胸の鼓動が早鐘を打つ。

 力がすうっと抜けていく感じがした。


 だけど──、


「……あれ、こんなものか?」


 ライルと戦ったときに比べると、その脱力感は大したことがない。

 魔力自体もほとんど減った様子はない。


「どういうことだ……?」


 あのときは、もっと力がどんどん抜けていくような感じだった。

『レーヴァテイン』が放つ炎に、俺の魔法が打ち破られたのも、奴の力が増しているという以上に、俺の力が減っている感じだったからな。


 俺が魔王剣を持ち、相手が欠片を持っている──ライルと戦ったときと同じシチュエーションなんだが。

 欠片には魔王の力を抑えこむような効果があるのかと思ったが、単純にそういうわけでもないらしい。


 じゃあ、ライルとの戦いで起きたあの現象は──。


    ※


 ルドミラは森の中で一人たたずんでいた。

 風が、ツインテールにした青い髪をなびかせる。


「魔王を取り逃がした……か」


 彼女と魔王が戦った後、七名の勇者が五百名の兵とともに魔王退治に向かった。

 が、魔王とその配下は姿を消し、足取りは不明だという。


「あたしが仕留めていれば──」


 込み上げる悔しさに唇をかむ。


 だが、魔王の力は圧倒的だった。

 今まで、どんな魔族が相手でも常に勝利を収めてきたルドミラにとって──生まれて初めて味わう屈辱だった。


 生まれて初めて味わった、絶対的な恐怖だった。


 それと──もう一つ、気になることがある。


「ライルくんが魔王のことを『師匠』と呼んでいたような……? あれはどういうことなの……?」


 意識がもうろうとしていたため、はっきりとは聞き取れなかった。

 だが、魔王の名前である『フリード』は、ライルの師匠の名前と同じだ。

 問いただしたいところだが、肝心のライルは現場から姿を消していた。

 と、


「驚きましたわ。あなたともあろう方がそこまでやられるなんて」


 歩み寄ってきたのは、一人の美女だった。


 年齢は二十代前半くらいか。

 綺麗な金色の髪を結いあげ、気品のある美貌に穏やかな笑みをたたえている。


 戦場にはそぐわない、純白のドレス姿。

 まるで貴族の令嬢のようないでたちだった。


「ですが、大きな怪我はないようですね。わたくし、安堵いたしました」

「フィオーレさん……!」


 彼女と同じく最強と称される勇者──『火』の四天聖剣(セイクリッドエッジ)フィオーレ・クゥエル。

 腰にさげた細剣(レイピア)熾天使(セラフ)級奇蹟兵装『ミカエル』だ。


「無事で何よりだ、ルドミラ」

「新たな魔王とやらは、なかなか手ごわそうだネ」


 さらに、その後ろには二つの影がある。


「君たちまで──」


『水』と『地』の四天聖剣(セイクリッドエッジ)


 最強の勇者四人が、この場に集まっていた。

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