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3 勇者ルドミラ

 脳裏に浮かぶのは、魔王ユリーシャとの最終決戦だった。


 ライルは奇蹟兵装『レーヴァテイン』を振るい、魔王とフリードを一気に焼き払った。


 これで人間界に戻れば、自分が魔王殺しの英雄として賞賛されるだろう。

 世界一の勇者として、未来永劫に名を残すだろう。


 ──だが、次の瞬間、彼は闇の中にいた。


 意識すらあいまいな中で、何日もさ迷い、やがて少しずつ自分を取り戻していった。

 今では記憶は完全に戻ったものの、未だここから出ることが叶わない。


「戻ら……ないと……」


 ライルは半ば無意識につぶやいた。

 ふらふらと歩き続ける。


「僕はこんな場所で終われない……勇者として……栄光をつかむんだ……もっと……もっと……!」


 胸の奥でたぎるものがあった。


 野心。

 権力欲。

 支配欲。

 それらへの渇望が──。


「っ……!?」


 ふいに、右手に痺れが走った。

 なんだ──訝しんだ次の瞬間、目の前に光が見えてくる。


「出口だ……!」


 直感した。


 ライルは足早に進む。

 光はまばゆさを増し、そして──。




 気が付けば、大通りの真ん中に立っていた。




「戻れた……のか?」


 周囲を見回す。


 レムフィール王国──その王都。

 ライルがフリードとともに拠点にしていた場所だ。


「ライル……くん?」


 大通りを進んでいると、声をかけられた。


 振り返ると、快活そうな顔立ちの美少女が立っている。

 ツインテールにした青い髪に黄色いリボン。

 スラリとした長身に銀の軽装甲冑をまとい、翡翠色をした長弓を背負っていた。


「ルドミラ──」


 ライルは息を飲んだ。


 ルドミラ・ディール。

 勇者たちの中で最強と呼ばれる『四天聖剣(セイクリッドエッジ)』の一人である。


 ライルより一つ年上の十七歳。

 勇者としての任務で一緒になったことがある。


 そのときに、年齢が近いこともあって仲良くなったのだ。


「久しぶりね。ラムドの森以来じゃない?」

「ええ、半年ぶりですね」


 師匠のフリードとは別行動で参加した、大規模魔族討伐戦だ。


 魔王すら凌ぐと言われる、ルドミラのすさまじい戦いぶりを思い出す。

 彼女が操る熾天使(セラフ)級奇蹟兵装『ラファエル』が数百の魔族を一瞬で消し飛ばす場面は圧巻だった。


 どんなときでも強く、凛々しく、まっすぐで──そして、美しい。


「また会えて、嬉しいです」


 ライルは微笑みを浮かべた。


 気持ちが自然と高揚する。

 胸が甘く高鳴った。




 ライルはルドミラとともに勇者ギルドの王都支部へ向かった。

 ギルドは、各国の勇者を束ねる世界規模の組織だ。


 ライルは魔界での戦いのことを報告に、ルドミラはギルドから新たな任務を受けるそうだ。


「百の勇者による魔界への決死行──そのメンバーに君も選ばれたって聞いていたけど、無事に戻ってこられたのね」

「ええ、なんとか……」


 言葉を濁すライル。


 魔王とフリードはどうしたのだろう。

 あの一撃で殺すことができたんだろうか。


 もし仮にフリードが生存して人間界に戻っていたら──。

 自分は裏切り者の勇者として厳罰は免れない。

 極刑も十分にあり得るだろう。


「その、勇者フリードは戻っていますか?」

「フリード──っていうと、君の師匠ね。いえ、こっちには戻っていないわ」


 首を振るルドミラ。

 ホッと安堵した。


「君と一緒じゃなかったの?」

「実は、師匠は魔王の手にかかって……」


 ライルがうつむく。


「僕をかばって瀕死の重傷を負ったんです。ただ、その最期は確認できず……もしかしたら、こっちに戻ってきているんじゃないかと思ったんですが……」


 事実と嘘を交えた答えを返しておいた。

 体を震わせ、唇を噛みしめる。


『師匠を失って悲しみに暮れる弟子』の態度としては、これくらいでいいだろうか。


 あまりにも過剰だと演技くさく、だからといって淡々としすぎるのも情がないように見えるかもしれない。


「……そう」


 ルドミラは短くうなずいた。


「他の勇者は何人か戻ってきているけど、大半は殺されたそうよ」

「師匠の仇は、僕が討ちます。そして師匠のように魔族から大勢の人を救ってみせる──」

「そうね。残された者は散っていた者の意志を継がなければ」


 ルドミラが神妙な顔でうなずいた。


「でも、あまり気張らないでね。悲しいときは素直に悲しみなさい」

「……ありがとうございます」




「帰還したか、勇者ライル。よく無事で戻って来てくれた。四天聖剣のルドミラも、呼び出してすまない」


 ギルドの支部長──恰幅のよい壮年の男が笑顔でライルたちを迎えた。


 ライルは魔界でのことを報告する。


 ギルドからも情報を教えてもらった。

 ライル以外にも数名の勇者が魔界から戻っていて、彼らによると、魔王はまだ生きているらしい。


 ただ、その魔王はユリーシャとは姿が違うそうだ。


 あの戦いで傷を負って代役でも立てているのか。

 あるいは、すでに新たな魔王に代替わりしたのか。


 どちらにせよ『魔王殺しの英雄として帰還する』というライルの野望は叶わなかった格好だ。


(ちっ、英雄になりそこねたか)


 小さく舌打ちする。


「……どうかしたか、ライル?」

「い、いえ、なんでもありません」


 訝しげな支部長に、ライルは慌てて首を振った。


「それから──君が魔界にいる間に、この東部大陸で三つの王国があいついで攻め滅ぼされた」

「三つも、ですか」

「ああ、魔王の側近──『不死王(ロードアンデッド)』リーガルによってな」


 苦々しく顔をしかめる支部長。


「現在はリーガル配下の『魔霊衆』たちが各王国を支配しているそうよ。アンデッドの軍団によって三つの国はさながら地獄絵図だとか」


 ルドミラが険しい表情で告げた。


「君を呼び出したのは、まさにそれが理由だ。勇者ルドミラ」


 支部長が彼女を見つめる。


「どうか三つの王国を魔族の手から救ってほしい」

「討伐任務なら望むところよ。あたしの手で魔族を一人残らず滅ぼしてやる──」


 ルドミラが闘志をむき出しにして言い放った。


 ──どくん。


 ふいに、ライルの胸の芯で何かが鳴動した。

 それが何かは、彼にも分からなかった。


(僕も、行かなきゃ)


 突然湧き上がった不思議な衝動に突き動かされ、ライルは告げた。


「その討伐任務に、僕も連れていってもらえませんか? きっと役に立ってみせます」

「ふむ、君が来てくれるなら心強いが……大丈夫なのか? 魔界から戻ったばかりなのだろう?」

「大勢の人々が苦しめられている。それを見過ごすことなどできません」


 ライルが告げる。


「さっきルドミラに言った通りです。師匠の意志を継ぐためにも。僕が魔族を倒す──これは僕の、勇者としての意志であり誓いです」

「よく言った。それでこそ勇者だ」

「じゃあ、一緒にがんばりましょう。ライルくん」

「はい」


 ルドミラに言われ、気持ちが高揚する。


「……?」


 ふと右手に違和感を覚えた。

 闇の中から出る直前にも感じた、妙な痺れ──。


(なんだ……?)


 握りしめた手をゆっくりと開く。


 手の中に、黒い金属片があった。


「いつの間にこんなものを……」


 バチッ、と金属片から紫色の火花が散った。


    ※


 ユリーシャが両手を高々と掲げると、中空に一本の剣が浮かび上がった。


 闇を映し出したような漆黒の刀身。

 金の装飾がされた美しい(つば)と柄。


「これが煉獄魔王剣(ラーディス)。魔王の象徴であり、すべての魔族を服従させる魔具でもある」

「魔族を服従……?」

「お主のステータスを見ると『魔軍服従』のレベルが低いじゃろう? それは煉獄魔王剣(ラーディス)を継承していないからじゃ」


 つまりこの剣を受け継ぐことで、魔族たちを従える能力が増すってことか?

 俺はあらためて宙に浮かぶ剣を見た。


「……しかし、随分とボロボロだな。魔王の象徴にしては」


 あらためて見ると、刀身にあちこち亀裂が入っている。

 刃こぼれしている箇所もいくつかあった。


「かつての神々との戦いで壊れたそうじゃからのう」


 ユリーシャはため息をついた。


「……ん、傷が一つ増えておるの」

「えっ」

「この剣が欠けた部分は全部で六つ。今までの戦いの中で剣の一部が砕け、その破片は魔界や人間界、あるいは天界に散ったようじゃが──」


 ユリーシャが眉根を寄せてうなる。


「その損傷部が七つに増えておる。新たな欠片が敵対者の手に渡っていなければよいが……」

今までは台詞ごとに空行入れてたんですが、今回から連続した台詞は詰めてみることにしました。

こっちの方が見やすいかな……?

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