3 魔王陣営
「……フリードだ」
俺は突然現れた『始まりの魔王』を見据え、名乗った。
『よろしいのですか、フリード様』
ステラの声が頭の中で響いた。
ゼガート戦で使った念話の仕掛けは、まだ有効らしい。
『とりあえず敵じゃなさそうだ。いちおうジュダもいるしな』
念話で答える俺。
『相手が魔王なら色々と情報を聞き出せるかもしれない。ただし、警戒は緩めるな。何か怪しい動きでも感知したら、すぐに俺に知らせてくれ』
『承知いたしました』
ステラが念話で返事し、ヴェルファーに向き直った。
「ステラと申します」
「ふむ、フリードにステラ……か。どっちも聞いたことがない名前だ。力ある魔族はすべて把握していたつもりだったが、まだまだ野には猛者や凄腕がいるらしい。」
「彼の魔力は圧倒的だし、そっちの少女も超一流の瞳術を身に着けているみたいだね」
と、ジュダ。
この世界の彼は俺たちとの面識はないはずだが、初見で俺とステラの能力をすべて見切ったのか。
さっきも俺やステラに気配を感じさせず、背後を取られてしまったし、時代は違えど、やはりジュダはジュダ──ということか。
「ぜひ我が陣営に加わってほしいものだ」
と、ヴェルファー。
にやりと笑ったその顔は、魔王には似つかわしくないほど人懐っこいものだった。
「あんたの陣営……というと?」
「お前たちも魔族なら知っていよう。俺たちは今、強大な敵と戦っている」
ヴェルファーが言った。
「神だ」
「神──」
俺はごくりと息を飲んだ。
ステラも隣で同じような反応をしている。
神と魔王が──この時代で戦っている?
「そして、神が率いる天軍や人間どもの精鋭である勇者軍だ。俺たちとは、もう十数年にわたって戦っているが──どうにも旗色が悪くなってきた」
ヴェルファーの顔から笑みが消えた。
「天軍は最近、人間たちを味方につけたんだ。『勇者』と呼ばれる特殊な素質者たち──彼らは神の武具『奇蹟兵装』を操る手ごわい相手だよ」
説明を補足するジュダ。
「人間自体は、魔族に比べれば大した力を持たない種族なんだがな。勇者たちは例外だ。魔族と渡り合えるほど強い」
ヴェルファーがうなる。
「だが、俺には心強い仲間たちがいる。ジュダはもちろんだし、他にも──」
「然り。我らがいます」
「む!? その者たちはいったい──」
声とともに、四つの影が近づいてきた。
炎のように赤い鱗をした竜。
ぼろぼろのローブをまとったアンデッド。
スライムのような不定形生物。
そして、甲冑姿の若い女。
「彼らは?」
「俺の側近たち──四大魔軍長だ」
俺の問いに、ヴェルファーが嬉しそうに笑った。
「私はシンプルに『四天王』というネーミングを推したんだけどね」
「今は四人だが、将来はもっと増えるかもしれないだろ」
ジュダの言葉に、ヴェルファーが言った。
「四天王の方がそれっぽくていいと思うんだけどね……」
妙にこだわるジュダ。
なるほど、昔は七大魔軍長ではなく四大魔軍長だったのか。
「いずれも一騎当千の猛者たちだ。俺やジュダほどではないが、全員がレベル500を超えている」
『……すごいです、フリード様。私たち魔軍長クラスは通常200前後。歴代の魔王様がだいたい500~700くらいですので』
ステラが念話で補足してくれた。
そういえば、初めて会ったときにそんな説明を受けたな。
つまり、四大魔軍長は魔王に近い──あるいは、同等の実力を持っているわけか。
「それはすごいな」
「だろう?」
俺の感嘆に、ヴェルファーが破顔一笑した。
対照的に、四人の魔軍長たちが色めき立つ。
「貴様、ヴェルファー様に向かって、なんという口のきき方だ!」
「膝もつかず、敬語すら使わず……無礼にもほどがある!」
あ、そうか……彼らにとって『魔王』は俺じゃなくてヴェルファーだからな。
俺はその『魔王様』に傅かない不届き者、というわけだ。
「いや、いい。俺はそういう堅苦しいのは苦手だ」
ヴェルファーが彼らを制した。
「それに彼は俺の臣下ではない。在野の猛者。できれば仲間に加わってほしい、と勧誘中だ」
「仲間……?」
「確かに、すさまじい魔力を感じますな……」
「そっちの女の子も可愛い……萌え……妄想がはかどるわ」
オリヴィエみたいな反応をしている魔軍長の少女がいた。
「俺に免じて、怒りを収めてくれ」
ヴェルファーが四人をなだめた。
「魔王様の仰せとあらば」
魔軍長たちが恭しくうなずいた。
それから俺に向き直り、
「今の言葉は撤回させてもらう。悪かった」
「いや、俺のほうこそ気を遣わせてしまった。すまない」
巨大な体をかがめて頭を下げた竜に、俺は手を振った。
「あんたみたいな魔族が仲間に加わってくれるのは心強い。どうかよろしく頼む」
「一緒に天軍や勇者軍をぶっ飛ばそう!」
「あたしもがんばりますよ~。よろしくね、フリードさん、ステラちゃん」
この辺りの雰囲気は、リリムやイレーネ、あるいは魔軍長たちと話しているときに似た感じがあった。
時代は違えど、彼らもまた魔族なのだと──そんなふうに感じる。
次回は2月17日(日)更新予定です。
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