3、修行じゃ~!
【パンチを鍛えろ~!】
えいっ、えいっ、えいっ、えいっ、
感謝の正拳突き一万回。
これ、老境の空手家がやるような修行ですよね。赤ちゃんがやって大丈夫なんですか?
【キックを鍛えろ~!】
シャー、シャー、シャー、シャー、(シャーは止めろーっ!)
こちらもミット一万回。
ご丁寧に乳児用のシューティングシューズまで用意して、何かが間違ってるような気がするんですが。
【心を鍛えろ~】
ふぃよ~ん。
ざーざーと流れる滝に打たれ、滝行をする。
心は既に明鏡止水。
いや、やっぱり何かが間違ってるような気がする。
【まぁ、実際何の意味も無いのじゃがな】
やっぱりかいっ!
【そも、乳児の姿で修行しても、実際現世に出る時にはおぬしの体はもっと成長しちょるじゃろ】
そりゃそうだ。
【だから、おぬしの姿をすこーし成長させてからチュートリアルダンジョンへ潜ってもらうのじゃ】
だんじょん。嗚呼、何と甘美な響きであろう。上から読むとダンジョン。下から読むとンョジンダ。
【何の意味があるんじゃ? その台詞】
いえ別に。それはともかく、ダンジョンに潜るんですね?
【その通りじゃ! チュートリアルとはいえ、油断してたら、死ぬぞえ!】
マジで?
【チョーマジじゃ! だから、身体年齢は18に合わせてやる。ソロ攻略は可能じゃが殺意は高いから覚悟しとくのじゃぞ。うひひ】
やめます。
【今更遅い。クーリングオフはなしじゃ!】
「あ~れ~」
くるくるくるくる。
今、素で悲鳴をあげたな。基本神様との交信は言葉とかいらないから。しかし、生まれて初めての言葉が「あ~れ~」かよ。つくづく普通に出来ないのな。
そんな事を落ちながら考える。余裕あるな。我ながら。
すっとん。
一部のちっぱいマニア垂涎の音を立てて俺は大地に立ち上がった。
「ステータスオープン!」
ジローラモ(18仮)
LV1
職 未設定
称号 「十界制覇」
力 :1
素早さ :1
器用さ :4
体力 :1
魔力 :22
精神力 :25
運 :256
スキル
「鑑定」
「遠話」
「感知」
「感覚強化」
「精神力強化」
「身体能力強化」
「頑強」
「大幸運」
「限界突破」
「人たらし」
・・・俺の本名ジローラモ。なんかチャラい。
【とりあえず、闘えるスキルが生えてないのじゃ。これは実際闘ってみるしかないのじゃが、覚悟はいいか?】
「スキルはともかく、武器は無いんすか?」
しゃべれる。人間になった気分。やっぱいいもんだ~な~。
【ふむ。とりあえず、こんなものでどうじゃ?】
ぱらぱらっぱっぱっぱ~
ジローは聖剣「カラドボルグ」を手に入れた。
・
・
・
「……これだけっすか?」
【防具は意味無いからの。くらったら、一撃死必至じゃ!】
「うわーん! おうちかえる~!」
【あきらめろ】
「人生を?」
【・・・】
「何か言ってぇ――っ!」
スライムがあらわれた。
「うわーん!」
むちゃくちゃ振りまわしたら一撃死でした。敵が。
「あれ?」
ぱらぱらっぱっぱっぱ~!
ジローはレベルがあがった。
ちからがあがった。
すばやさがあがった。
HPがあがった。
スキル「だだっこパンチ」をおぼえた。
スキル「剣技LV1」をおぼえた。
けいけんちを2かくとくした。
1ゴールドをかくとくした。
「……微妙に凝ってやがる」
まあ、気を取り直して進むことにした。幸い、ダンジョンはほぼ一本道なので、迷う事も無い。それなりの数エンカウントしているが、武器の性能か、どれも一撃で仕留めている為、緊張感も当初より大分弛緩してきた。
【それがまさか、あんなことになるなんて・・・】
「やめてくださいって!」
心の底から懇願した。




