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10、ぼくらは少年探偵団!




 こうして、家の連中が街中へ散って行き情報を探り回っている間、当然ながら俺はベビーベッドの中でお昼寝である。まあ、数えの二歳とはいえ、日本では1歳半である。自力で足を使った調査とか出来ないし、ぶっちゃけコミュ障としてはシティアドベンチャーなんてパパヲと同じ位不得意部門である。


 まぁ、精々前世の記憶を頼りにロッキングチェアー探偵ならぬベビーベッド探偵を目指すかな? 異能でもつかえれば001な人みたいな活躍もありなんだろうが。


 今回の件で一番気合いが入っている子供は当然ながら最年長のストックである。無理もない。何しろパパヲですら苦手とする地道で目立つ事の無い作業を全く気にする事無く継続して行えるのは、ママメを含めても家のメンバーの中で彼だけであろう。彼こそこの世界の小林少年(笑)なのである。


 と、言う訳で、現場の小林さ~ん!




Side:ストック




 昨日のクールモウ氏からの依頼を調べる為、僕、ストックは冒険者ギルドの会館に足を運んだ。僕と一応マリーは先月試験を受けて冒険者として登録済であるからギルドの利用についてはフリーである。


 僕はパパヲさんにお墨付きを頂いていたし、ギルドでもパパヲさんの秘蔵っ子という扱いだったので普通F級から始まるランクもE級からという事になった。この差は結構大きく、F級ならギルド内での講習と訓練が各20時間ずつ義務づけられ、その間討伐依頼や街の外での採集の仕事は受けられないが、E級ならその辺の縛りは無く、討伐や街中での警備の仕事にも着く事ができる。無論、E級なりの仕事のみではあるが。


 意外だったのは、マリーがあっさりとE級の試験に合格した事。特に何を練習してもいなかった筈なのに、僕よりも早い時間で試験官に一撃を入れていた。それも、フライパンで。


「女の家事仕事を舐めたら駄目よ! 場合によっては本当に過酷なんだから」


 との事。うん。再認識しました。マリーには逆らわない。ガクブル!


 それはともかく、調査である。先ずは、予告状の差出人である「怪人2001面相」について、過去の事件を調べてみた。


 


 「怪人2001面相」は、ここ数年の間に国内各所に神出鬼没で現れ、狙ったお宝を盗んで行き、収益を貧しい人々に配るといういわゆる「義賊」という奴である。ある時は謎の老紳士。またある時は、厳格な士官。またある時は美しき令嬢。と、いった具合に多種多様な姿で現れるという。ある時、王都の新聞記者がインタビューに成功しその際にも多数の姿にその場で変化したという。その時の記者が驚きの余り、


「一体どれだけの姿に変化できるのですか?」


 と、尋ねたところ、


「少なくとも2000よりは多いだろうね」


 と、答えたという。その時の会話の内容より、その記者がつけた異名が「怪人2001面相」だったのだ。


 余談ではあるが、その時のインタビューが載った新聞は、今の国王が即位した時の記念号を大幅に更新し、歴史上一番売れた新聞として記録され、また、当時の新聞は今では売値の100倍近いプレミアが付いているとか。


 主な事件として、

「王城潜入、王妃のティアラ強奪事件」

「聖候教会神聖騎士団潜入、武器一切合切盗難事件」

「豪商エティゴ屋超特大金庫盗難事件」

「地下監獄潜入、大泥棒アティスの宝物継承事件」

「三国ダイヤモンドシンジケート壊滅事件」


 などなど、挙げて行けばきりがない位である。


 翻って今回の予告である。


「ハイドライド」号の盗難予告。これまでの潜入不可能な場所からの華麗な盗みというのから考えればむしろ、「難しいが結構誰でも潜入しようとすれば潜入可能な場所」から「御年16歳の白毛の大種牡馬」というやたら目立つ馬を盗むとの予告。とはいえ、盗むもの自体は地味に見える。価値だけで考えれば確かに年間1000万ガメルを稼ぐと言われる馬であるが、盗んでしまえば、その金を生み出す術そのものが無くなってしまうのだ。

 

 例えば仮にどこかで人知れず種付けして子馬を生産して売ろうとしても、その子馬が流通に乗る事は絶対無い。何故なら、種付けから出産まで決められた手順を踏み初めて血統書が発行されるのである。その手順を省けば血統書無しのその子馬は流通に乗らず、たとえ血統が優れていても商品価値としてはゼロになってしまうのである。


 まして、今まで彼の盗みの対象となったものは、社会に悪影響を及ぼさない、又は、有害なものを取り除く、といった大前提があった。しかし、今回の「ハイドライド」号に関して言えば、盗まれる事のデメリットの方が大きいと思う。


 例えば、王都の騎士団、赫竜騎士団、蒼竜騎士団、白竜騎士団、黒竜騎士団、の各団長の愛馬は、それぞれ一頭当たり100万ガメル以上で取引されたアラゥヴ系馬であるが、その父馬は全て「ハイドライド」号である。何と言ってもこの馬の仔はみな、身体能力が高く、馬格も大きく、しかも物怖じしない度胸のある馬に育つので、軍馬としては最適なのだ。少なくとも、今現在国内で流通している軍馬の最高峰であり、戦略上このレベルの馬が欠く事の出来ない重要な兵器でもある。次善の父馬となると、一枚も二枚も格が下がってしまうという。つまり、この「ハイドライド」号が居なくなれば、純軍事的にはこの国の国防が危険な状態となる訳だ。


 これまで、義賊として名を上げてきた「怪人2001面相」が庶民にとっても不利益となるこのような盗みを行うだろうか? 話を聞いていた当初から違和感があったのだが、調べる程に「ありえないだろう?」と感じている。ならば、この事件の裏はなんなのか? もっと調べる必要があると思う。


 と、いうのが僕の考え、という訳ではなく、正直に言えばギルドの受付で僕の担当でもある女性に教えてもらったというのが本当の所である。


「大変勉強になりました。ありがとうございます。マゼンダさん」


 マゼンダさんは歳の頃20歳そこそこの金髪美人さんである。昨年、僕たちとほぼ同じ時期に王都にある冒険者ギルドから移動してきたとのこと。元々パパヲさん達が王都に居た時のギルドの担当者だった人で、ずっと家族ぐるみの付き合いのある人だ。


「お役に立てたのなら何よりです。それにしても、今回の予告状には何か違和感しか感じないわね。あの怪人2001面相がこんな盗みをするメリットがあるのかしら?」


「確かに。馬なんてみんなで分ける訳にもいかないですし、まして売るにしても誰が買えるのか? という気もしますね」


「強いて言えば貧しい馬産家に種付け権を提供する? いえ、それで生まれた子馬も血統が公認されなければ意味が無いし……」


 う~ん、と唸る僕とマゼンダさん。


「あ、そういえば、今年のセレクトセールには隣国の騎士様が参加したいと要請があったそうで、何人かの騎士様が国境を越えてやってくるそうですよ。『金に糸目は着けないから是非ハイドライドの仔が欲しい』と、国王様から命じられているそうですよ」


「確か、隣国マルデアの騎馬といえば我が国の馬と比較しても一回り以上小さい馬が主と聞いていますけど」


「その分足腰は丈夫で山岳地帯の多いマルデアには適していると聞きますが、いざ合戦となると我が国の馬と比較して当たり負けしてしまう程体格で劣るとか」


 ふむ。そう考えると短期間で馬の品種改良をするとなるといっそ種牡馬として当歳の馬を買い付けたいということだろうか? いや、いっそハイドライド号そのものを手に入れたいと考えて? でも、騎士がそんな泥棒なんかしようとするだろうか? いずれにしても、まだまだ情報が不足している。この段階で決めつけるといざという時、間違った結論に引っ張られる事になるかも知れない。パパヲさんも、そういった事は厳に慎むようにとアドバイスしてくれてるし、ここは一旦戻ってみんなと相談してみようかな?


「とりあえず、みんなに相談してみます。もしかすると、別口でいい情報を仕入れて来る子もいるかもですし」


「それがいいと思いますよ。いずれにしても、まだセレクトセールまで一月近くありますからね。焦らずじっくりと調べた方がきっと正解に近づくと思いますよ」


「わかりました。どうもありがとう、マゼンダさん」


 そうして、僕は冒険者ギルドを出てメインストリートをてくてくと歩き出す。すると、向うからノーべがBダッシュで駆けて来る。あの子は町中を駆けまわりメッセンジャーボーイ(ガール?)のバイトをしているのだが、それだけにこの街の事情通でもある。僕やパパヲさんですら知らないような情報を持っていたりするので街の人達からも【走る瓦版】などと呼ばれる事もあるとか。


「よー、ストック! ギルドで何かわかったか~?」


 この子は先生以外には基本敬語というものを使った所を見た事が無い。僕はまだしもパパヲさんに対しても、である。そんな不遜な態度なのに何故か街の人からはとっても好意的に見られている。確かにショートカットの溌剌とした容姿は可愛らしく、街の男共はでれでれで彼女に必要の無い事まで喋ってしまうのだとか。

 まあ、彼女も言っていい事と悪い事は弁えているらしく、決して洩らされたくない秘密などは僕たち家族にも話したりしない為、それなりに信頼を得ているという事なのだろうが。


「今の段階では何も。そっちはどうだ? 最近やって来た他所の人の情報なんかは無いのか?」


「う~ん。今の段階では特に怪しい奴の情報は無いかな? 精々いつも来ているおっちゃんやらおばちゃんが今年も来てるよって位しかないな」


「さもありなん、か。もっとも、まだ一月近く前だしな……」


「でも、予告状が届いたってことは既にこの街に入っているってことじゃないのか?」


「そう言えば、予告状はメール便なんだよな? ノーべ、君あれを配達とかしてないか?」


「それは……分からないな。大体クールモウのおっちゃんとこなんて、一日に何回も配達員が訪ねるんだぜ? この時期は子馬の生育を尋ねる手紙やら、血統書の発行手続きやら毎日数百単位の手紙が出たり入ったりだし、そこに一通へんな手紙が紛れてても俺らが一々覚えてられるはずがないだろう?」


「た、確かに」


「ここまでくると、なんか知り合いが一番怪しく感じちまうぜ。特にストック、お前とかな。悪い事は言わねー、さっさとゲロっちまえよ」


「んなわけあるかーっ!」


 かんらかんらと笑いながらノーべは次の配達先へと走って行ってしまった。失敬な! だが、知り合い、か? 盲点なのかも知れないな。良く知っている人が犯人だった場合、こんな小さな街、みんなが知り合いみたいなものだから、それこそ本質を見誤っていると真実にたどり着けなくなる可能性もある気がするな。


「あら、ストック? そんな往来の真ん中で腕組んで考え事してると馬車に轢かれるわよ?」


「ん? ああ、チノか。いや、例の予告状の事なんだが、どうにも捕えどころが無くてね」


「そ~? 結構ヒントっぽいものはあちこちにあったじゃない」


「へ? 君、なにか気が付いていたのか?」


「たとえば、そもそも何の為にわざわざ人の多くなるこの時期を狙ってきたのか? ってとこが疑問よね。ただ誘拐するだけなら何も人の多い時期を狙う必要は無いでしょ?」


「すると……! そうか。犯人は少なくともこの街の関係者じゃないってことか?」


「あるいは仲間が大勢居るとかね。人の出入りがある時期なら多少胡散臭くてもフリーパスで出入りできちゃうのがこの街のリベラルな所だしね」


 随分と難しい言葉を使うんだなぁ。だが確かにセールの一時この街は出入りの制限が無くなるから、変な連中がいてもおかしくない。


「それにセールの時期は街中はともかく種牡馬の居るスタリオンには最低限の人しか居なくなるしね。パパヲも伯爵様に付きっきりだから少なくともこの街の最強戦力と当たる危険も少ないし」


「せめて『さん』をつけろよ。でも、確かにパパヲさんやガンツさん、バッテンさんはこの時期護衛任務が忙しいのは確かだな。と、いうかこの時期名のある冒険者は皆護衛の仕事してるよなぁ」


「そんな中で暇な冒険者はあんたとマリーの夫婦位じゃない?」


「って! 僕らまだそんな関係じゃないっ!」


「さっさとやってあげたら? 早くしないと誰かにとられちゃうわよ~」


 コロコロと笑いながら去って行くチノ。まったく、おませさんなんだから。


 だが、重要な事に気が付かされた。最悪パパヲさん達の助力が得られないかも知れない。下手をすると僕一人で大怪盗と対峙しなきゃいけないんでしょうか?


 おなかいたい。

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