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無限幻想 -灰と忘却のパヴァーヌ-  作者: 支倉文度
第一章 
9/32

#8 胎動

「手短に頼むぞ?」


「ふん、俺とてアンタと長話なんざ、願い下げだ馬鹿め」


 悪態もほどほどに、話題を変える。

 名殻出雄は、古今東西あらゆる英雄を調べ上ている。

 だが、目の前にいる"史上最強の英雄"、リョドー・アナコンデルの情報は極めて少ない。

 単に彼が、必要以上に目立ちすぎるのが嫌で、情報操作をしているのかもしれない。

 若しくは、多すぎる謎が、彼の経歴に尾ひれをつけたものなのか。 

 出雄はそれを見極めたいのと同時に、"ある真実"が知りたかった。

 

「アンタ、いつもそんな感じか?」


「だいたいこんな感じだ」


「……そうは見えないがな」

 

 こういった時の聞き出し方がわからない。

 直情的で不器用な人間である出雄には、難しいやり口だった。

 自分から切り出したにも関わらず、気まずさを覚える出雄であった。


 リョドーは、そんな空気すら、気にもとめず酒を飲んでは紫煙をくゆらせる。


「お前が聞きたいことはなんだ?」


「なに……?」


「俺に目的があって来たんだろう? だったらそのまま聞けばいい。脈絡とかそういうのは気にするな。聞きたいことを聞け」


 出雄は、なにも言えなかった。

 なにより、自分の目的が見抜かれていたということに、バツが悪そうな顔をする。

 そして、こうも簡単に自分のことを話そうというのだ。

 予想の斜め上をゆく展開に、動揺を隠せない。


「やっぱり、最近のガキは諜報が下手だな。ま、学園暮らしならそれは無理もないが」


「ぐ…ッ」


「正直言えば、俺はお前の事が嫌で仕方がない。だが、こうやって話し合いの機会を持ちかけた以上、それに応じるのが大人と言うもんだ」


「そうか……では聞くぞ?」


 リョドーは目を伏せながら、出雄の言葉に耳を傾ける。

 その姿勢に、どこか安心感を得た出雄だった。


「アンタの最後の旅。そう、10年前の破滅の女神との戦い。アンタはその戦いの後前線から引いた。なぜだ? アンタだったらもっと英雄として上の格までいけただろう」


「……グラビスにも聞かれたな、それ」


 ため息交じりに、リョドーは答える。


「その戦いは、俺にとって大切なものを失った戦いだったからだ。なんとしてでも守らなければならなかった……だが、俺はそれを守れなかった。むしろ……」


 出雄の隣で、拳を握る。

 普段見ないリョドーの姿に、出雄は怪訝な表情を向けた。


「……すまない、答えると言っておいてこのザマだ。お前にもいつか必ず話そう。約束する」


「わ、わかった……あと、もう1つある」


「なんだ?」


 出雄の表情が、少し険しかった。

 風に揺れる髪が、どこか悲しげにも映る。


「――――何故、親父を殺した?」


「……なに?」


 リョドーの顔が、一瞬引きつる。

 自分が名殻出雄の父親を、――――殺した?


「ふん、まぁ仕方あるまい。隠し事の多い奴だったらしいからな親父は。きっとアンタにも俺の事を黙っていたのだろう。……アンタのこれまでの旅の中に、倭ノ本出身の男がいたはずだ」


「あ、あぁいた。胡散臭い奴だったよ。……だが待て、そいつの苗字は名殻ではなかったぞ?」


「……やはりか」


 偽名。

 確かにその男は、いくつも偽名を持っていた。

 本名もわからぬ為、リョドーは"キツネ"と呼んでいた。

 そのキツネが出雄の父親だったとは、死んでも尚驚かせてくれる男だ。


「勘違いするな、俺は別に復讐なんぞ望んじゃあいない。そんなことをせずとも俺はアンタを超えて見せる。だが、1番に気になるのは動機だ。――――なぜだ? あの男は殺されるに値するほどのことをしたのか?」


「それは……」


 リョドーは、答えられなかった。

 自分が殺した。

 結果的に殺してしまっ(・・・・・・・・・・)()のだとしても、これは取り返しのつかないことだった。

 今、出雄に話して理解してもらえるかどうかだ。


「答えられない、か。ふん、まぁそれでもかまわん。……はぁ、折角聞きに来たが無駄足だったか」


「……すまん」


「謝るな。俺はまだ、諦めちゃいない。……俺は必ずアンタやグラビスを超える。……必ずな」


 そう言って、立ち去っていってしまった。

 

 

 昼休みも終わる頃、生徒達の大半は教室に戻り、次の授業への準備に取り掛かっている。

 廊下の賑わいは、嘘の様に、教室へと集中していた。

 欠伸をしながら、昼からの仕事をどうサボるか思案していると、昨日出会った2人組、クァヌムと沙耶に出会う。


「よう、授業の準備は出来てるのか? 早めにした方がいいぞ」


「あ、リョドーはんも、お変わりうて結構ですね。うん、ウチ等ぁはいつでも抜かりありません」


「ミスター・リョドーは相変わらず暇そうですね。」


「暇とはなんだ暇とは。大人はいつだって忙しいんだ」


 だが、どうせサボる気だろうと2人にたやすく看破されてしまった。

 ボリボリとバツが悪そうに頭を掻く。


「あ、リョドーはん聞きましたえ? グラビスちゃんに誘われてんのやろ? 確か……神殿探索やったかな?」


「ん? ということはお前等も?」


「はい、私達もアナタ方に同行させていただきます」


 流石グラビスだ、行動が早い。

 彼女等も、相応の実力者だ。

 これなら安心だろう。


「……そういえばミスターリョドー」


「ん? なんだ」


「先ほど修練場で、グラビスとムィール・フィーユ双教師が、異能戦から殴り合いに移行し今尚激戦の最中にいるのですが……どういうことですか?」


「どういうことって……なにが?」


「なぜ、彼女等は争っているのです?」


「……知らない」


「ホントに?」


「ホントに知らない。アレだろ? 3人とも己を高めるために張り切っているんだ。うん、青春だ……」


「……そうですか」



 チャイムが鳴りだすや、口笛を吹きながら去っていくリョドーを背に2人はどこか遠い目をしていた。


「ほんに……罪な御人やな」


「アナタはああなってはいけませんよ沙耶」


「うふふ、大丈夫や。……ウチの勘やけどあの人、絶対これまでに女絡みで危ない目ぇに何度もうてはるで」


「ソレで生きているなんて……やはり"英雄"は格が違いますね」


「英雄色を好む言うけど、あれじゃ体に毒やろに……。ほな行こか、ホンマに遅れてしまいます」

 


 その後、生徒達は授業を終えて帰宅していく。

 グラビスも休日である明日に備え早く帰っていった。



「……やべ、寝すぎた」


 リョドーが起きた時には外はすでに暗く静まり返っていた。


 


 翌日未明。

 仄暗さを残す時間帯。

 旧校舎の地下にある巨大な柱の前で4人が集まっていた。

 

 白のオフショルダーと、黒のタンクトップに、薄ピンクのスカート。

 そこから伸びるサイハイソックスと、白のパンプスに包まれた両足を、交互に動かし歩くグラビスの姿は、休日にウィンドウショッピングを楽しむ普通の女子に映る。

 

 クァヌム・サンクトぺナムと沙耶は、それぞれの衣装に身を包み、扉が開かれるその時を待っていた。

 そして急遽参加を表明した名殻出雄は、黒い道士服に、呪印らしき白文字が掘られた黒の軽装甲(ライトアーマー)を取り付けた姿で、旧校舎地下の壁に寄り掛かっている。


「私とクァヌム、沙耶、そして出雄君……あとはおじさんなんだけど……」


「なんや遅刻? この時間に集合いうんは事前に伝えはったんやろ?」


「そうなんだけど……、あ、足音…おじさんかな」


 ガチャガチャという重装備の音と、靴音が地下にまで響く。

 そして現れたのは……。


「遅くなった、俺がみっちり守ってやるから安心するといいガキ共」


 迷彩柄の軽装甲と、ズッシリとしたリュックサック。

 右の手には対魔導兵器用散弾銃ショットガンを握りしめ、肌が露出した部分や顔には、何かのペイントが施されている。

 自慢げに微笑むリョドーに全員が戦慄した。


(おかしいな、ここでこいつらはあまりの素晴らしさに歓喜し、尊敬の念と共にむせび泣くという予定だったんだが……どうやら俺の入念な準備そして遅れてやってくる、という最高のパフォーマンスにより声も出なくなってしまったらしい)


「HAHAHA、すまないな。おめかしに時間がかかっちまった」


「え、あ、……うん…大丈夫だよ皆さっき来たばかりだから……」


(リョドーはん気づいたげて、流石のグラビスちゃんもドン引きしてるで……)


(こ、これがリョドー・アナコンデル……、底がしれん……。だが、今回の探索でお前を調べつくしてやるぞ……)



 全員が揃い、いざ、グラビスが扉を開く準備を始める。





    あします導きは忘却の彼方へ


    黄昏に軍靴を鳴らし、喉を潰し、痰を吐き出す


    されど我は汝の黒馬車に寄り添い

   

    最果ての園への旅立ちを待つ者なり


    開け、我が願いよ 


    真実の扉となりて古えよりの沈黙を具現せよ

 

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