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無限幻想 -灰と忘却のパヴァーヌ-  作者: 支倉文度
第三章
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♯28 仄暗い銃声、アフターの企み

「さてさてさて、さてさて、さぁ~てぇ~?」


 アフターは軽快な足取りで、通路を歩く。

 彼は今、ある人物を探していた。

 この地下神殿の第6層に落ちて、今尚彷徨い歩く人物に。

 ――――名殻出雄だ。


「ふぅむ、我が演算解析・・・・によると、どうやらソフィーと共に行動をしているらしいな。……そしてあのジャンヌ・ダルクを封じたあたり、彼もまた中々の使い手であるようだ」


 額に指をあてながら、にんまりと微笑むアフター。

 彼には、2人の動向が手に取るようにわかる。

 彼の持つ能力チカラの1つだ。

 だが、それだけでなく、アフターはまた別次元の情報まで読み取っていく。


「……いいね、ナイフのように尖った性格やリョドー・アナコンデルに関わる荒んだ生い立ち、なにより出雄という少年の持つ『未熟なるも強い願望』。実に私好みだ。是非とも会って話がしたい!」


 瞳がギラリと光る。

 そのとき、包み込むような風がアフターを優しく撫でた。


「ククク、今宵はなんという日であろうか。こんなにもワープばっかり使うなんてそんなにないぞ? では行こう。待っていろよ? 龍の血を飲んだ男よ」


 一瞬の光と共に、アフターはこの第4層から姿を消した。

 



 一方、馬に乗った銃使いを追うリョドーは、激しい銃撃戦を繰り出していた。

 前方を駆けながら、ライフルで狙撃してくる銃使い。

 銃弾を躱しつつ、少しずつ距離を詰めていくリョドー。

 連続して響く弾音に、耳がおかしくなりそうだ。


「俺から逃げられると思うなよ……ッ!」


 すると、ライフルに弾がなくなったのか、こちらに背を向け、弾を装填し始める。

 チャンスを見出した。

 爆発的な魔力放出で一気に距離を縮め、銃口をしっかりと心臓部に当たるよう向ける。


「終わりだッ!」


 引き金を引くと共に、弾丸が銃使いの背部を撃ち抜いた。

 ガクンと体勢を崩し、馬から体を転げ落ちる。


「……よし」


 ぐったりとして動けない銃使い。

 心臓は撃ち抜いた、奴は死んだ。

 そう思いつつも銃口を向けながら、ゆっくりと近づいた。

 

「これは……女、か?」


 金髪の長い髪の女性だった。

 カリメア大統国の西部にいる、カウボーイ。

 この場合はカウガールか。

 その衣装をまとった若い女だ。

 彼女も魔人であろうかと、1歩を踏み出した。

 

「……飛んで火にいる、バカ男ッ!」


「なに!?」


 突如、女が目を開き、腰に挿していた二挺のリボルバーを引き抜く。

 狸寝入りと連続して火を噴く2つの銃に、一瞬反応が遅れ、肩に1発貰い受けた。


「くそ!」


 銃弾を躱しながら後方へと撤退。

 隠れるに丁度いい柱の陰まで移動し、痛みに耐えながら弾幕をやり過ごす。


「あーあー、綺麗に撃ち抜いてくれちゃって……胸縮んだらどうしてくれんのさこのボケナス!」


「うるせぇ! こちとらテメェのライフルで頭ブチ抜かれそうになるばかりか、肩に1発ぶち込まてたんだ! 魔人の心臓に1発くらいなんだ!」


 互いに言い合いをしながら、弾丸の続く限り撃ち続ける。

 女の方は口角を吊り上げながら、射撃を楽しんでいるかのようだった。

 無論、リョドーにそんな余裕はない。

 銃弾は無限ではない。

 

「くそ……こんなことなら、遠距離魔術ちゃんと覚えときゃよかった……」

 

 そう言うや、防御魔術によるバリアを張り巡らし、弾幕をやり過ごした。

 簡易的な回復魔術を施しながら、肩の銃創に食い込んだ弾丸を引き抜く。

 絶望的な痛みが走るが、そんなことは言っていられない。

 この隙に、リロードを施した女が距離を詰めてくる。

 銃撃戦の真っただ中で近距離に持ち込むなど、正気の沙汰ではない。


「来るなってんだ!」

 

 銀銃が鋼の火を噴く。

 女の腹部を貫いた。

 だが、女は決して進軍を止めない。

 むしろ撃たれる傷みすら楽しんでいるようだった。


「……こんの、化け物どもがッ!」


「銃ってのはこう使うんだ!」


 女の放った弾丸が銀銃を弾く。

 これでこちらの遠距離攻撃の手段は封じられた。

 だが、リョドーは舌打ち交じりに次の行動へと出る。


「うらぁ!!」


「ぬっ!?」


 短剣を手に取り、魔力で自身の速度を上げながら斬りかかる。

 これ以上奴の好きにはさせまいと、一瞬の出来事に狼狽した彼女の胸に突き立てようとした。

 その瞬間、思わぬ邪魔が入る。


「ボクを忘れちゃ嫌だよ?」


 上空からの声。

 視線を上げると、さっき始末したはずの青龍偃月刀を振りかぶった中華風の女がいた。


「ハァッ!」


「なんのぉ!!」


 重鈍な一撃を短剣で受け流し、彼女等から距離をとるように受け身をとった。


「悪いね十三妹。遊んでたら、へましちゃうトコだった」


「ジェーンの悪い癖だよ? ……さ、反撃開始だ」


 中華風の女を『十三妹シイサンメイ

 カウガールの女を『ジェーン』

 魔人達は自分の名を明らかにする。


「……くそ、なんで俺はこう、ガキの頃から女に命狙われたり付きまとわれたりするんだ」


 よっこらせっと体を起こし、短剣を構えた。

 

(独自精巧魔術を使おうにも、詠唱終わるまで待ってくれそうにはないしな。ムィールとフィーユのときみたいに煙幕を使うか? いや、コイツ等にそんな子供だましが効くとは思えない。とすれば……)


「女とはいえ、こちらは2人。しかも、ボク等は人間を超えた存在である"魔人"だ。さて、勝ち目はどれくらいだい? 英雄さん」


「早くやろうよ、アイツ蜂の巣にしたくてさっきから疼いてんのさ」


 おびただしい殺気をリョドーに向ける2人。

 だが、リョドーは、極めて冷静にこう語った。


「俺がガキの頃、こういうタイプの女に出会ったときの対処法はこうだ。――――とりあえず、ぶっ倒す」


 難しいことはいらない。

 殺す気満々の女を相手に説得は最早無効だ。

 なので、捻じ伏せるに限る。


「ふふふ、単純明快な解決策だね。でも、さっきのようにはいかないよ?」


「安心しな、死んだアンタの身体はたっぷりと、仲良く私達が味わってやるから」


「生憎だが、俺はこんなカビ臭い神殿の中を、自分の墓にしたくはないんだ」


 言葉が終わると同時に、新たな火蓋が切られる。

 鋼と鋼のぶつかり合う音と、銃声が同時に響いた。


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