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無限幻想 -灰と忘却のパヴァーヌ-  作者: 支倉文度
第三章
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♯26 夜明けとともに……

 リョドーとアフターが降り立った後も、グラビス達は舞台の上でたたずんでいた。

 誰もが心配そうな顔をしている。

 

「リョドー……また、私達を置いていくの」


「リョドーはさ、いつもそうだよ。自分だけ抱え込んで……」


「おじさん……」


 身を案じても、その思いが届くことはない。

 だが、暗闇の中へ入り込んでいった彼に対して祈らずにはいられなかった。


「……はよう行こうや。今はここにいてもしゃあない」


 沙耶は踵を返し、第1層へのルートを進もうとする。

 その後に双子教師が続いた。


「……クァヌム、行こう」


 じっと下を見続けていたクァヌムを呼ぶ。

 だが、彼女はしばらくそこを動かなかった。


「……クァヌム?」


「……すみませんグラビス。少し、考え事をしておりました」


「考え事?」


「えぇ……」


 物思いにふけることは珍しくなかったが、今のクァヌムはいつもより深刻そうな顔をしていた。

 グラビスは怪訝な顔をするが、クァヌムの表情から読み取れるものはない。


「……行きましょう」


「う、うん」


 歩みを進めるクァヌムについていく。

 彼女の後姿は美しくもあり、どこか哀愁を漂わせていた。


(名殻……出雄、どうかご無事で……。アナタの息災を祈っております)


 この中で、ただ1人。

 出雄の無事を願っていた。

 その心を、今は誰も知る由もない。

 2人はすぐに沙耶達に追いつき、足取りを進める。

 地上への脱出は、侵入よりも容易かった。

 一度来た道を魔術などを用いて、辿っていくのだ。

 地上へ出るのに、10分とかからなかった。


「……ねぇ、なにか騒がしくありませんか?」


「ほんまに。なんや、旧校舎の周りに灯りがいっぱいあるで」


「もしかして、人がいっぱい来てるの?」


 時間帯は夜明け間近だった。

 そんな時間帯でも、普段は漆黒に包まれた旧校舎。

 しかし、今は人々の喧騒と灯火で包まれていた。

 こんなことは初めてだ。

 勢いよく旧校舎の扉を開ける。

 そこには、この国の紋章を入れた甲冑をまとう騎士達が跋扈しており、あちらこちらを動き回っていた。


「これは……一体どういうことなの?」


 これは密かに学園長が手配した王立騎士団だった。

 このカリメア大統国における、主力兵団だ。

 近年は武術だけでなく、異能にも卓越した人材を多く取り入れている。

 それゆえに若い人間が多い。


「これは、一体どういうことなの!?」


「まさか……此度のことは私達以外知らないはず……」


皆が騒然とする中、隊長格らしき騎士がこちらに歩いてくる。


「失礼、私の名はバーナード。1番隊を率いている者だ」


 バーナードと名乗る中年の騎士は、隊長の風格に恥じない態度で、グラビス達に一礼する。


「グラビス・アミテージです。……あの、これはなんの騒ぎなんですか?」


「……大統国王の命令です。ただ今より、ここは立ち入り禁止区域となりました」


 バーナードの言葉に、思わず息を詰まらせた。

 学園の敷地にある旧校舎を、差し押さえるためではないだろう。

 恐らくはその地下にある神殿。

 グラビス達には、どこからその情報が漏れたか、わからないでいた。


「……アナタ方がなぜ旧校舎から出てきたのか。……少しの間でかまいません。お話を伺えませんか? コーヒーくらいならお出しできます」


「私達を捕らえると?」


「そうではありません。簡単にいえば、"補導"ですかね? 真夜中の旧校舎でなにをしていたのか……。平和を守る騎士として、聴取する義務があります」


「とか言うて、秘密裏に死んでもらうなんて言うんやないやろな?」


「補導っていうのなら私達教師の役目だ。……まぁ、私達もついていったわけだが……」


「一体、なにをなさるおつもりですか?」


 沙耶や、ムィールとフィーユの冷たい目線に、肩をすくめてみせる。


「……悲しいな、どうやら今の若者には、騎士が外道かなにかに映っているらしい。本当に聴取だけです。それに」


 バーナードはチラリとグラビスを見る。


「人類最強の魔法少女に挑むのは、無謀ですからな」


「あの、わりとソレ恥ずかしいんで言うのやめてください」


 顔を赤らめるグラビス。

 それを見てケラケラと笑うバーナードと、ついでに双子教師。

 不機嫌そうに咳払いをするグラビスに、失礼と詫びを入れる。


「安心してください、我々は味方です。ただ、聴取には事実を答えていただきたい。……この案件はどうもおかしい。いや、長年の騎士の勘というやつなのですがな」


 誠実そうな性格の騎士だ。

 信用したわけではないが、とりあえずはグラビス達は彼の話に乗る。

 だが、どうしても伝えたいことがあった。


「バーナードさん。……旧校舎について他に聞いていらっしゃることはありますか?」


「……ふむ、"地下になにかある、よってそれを調べよ。しかし、世間には公表はするな"という命令だ。その他は聞いていない。実におかしな命令だ、今の今まで、こんな命令は受けたことがない」


「……詳しいことは、聴取でお話します。でも急いでほしいんです。地下におじさ……いえ、リョドー・アナコンデルと生徒1人が取り残されているんです!」


「なに……? リョドーって、あの?」


「そうです、魔術作家の人もいますがあの人は地下の事情に詳しいようでしたので。今はその魔術作家のナビゲートの元、生徒を探してます。至急、救助隊を組織してください!」


 身を乗り出しての訴えにたじろくバーナード。

 目の前の少女の訴え、旧校舎の謎。

 そして、かつての救世の英雄。

 重なり合うワードが騎士の勘を更に鋭くしていく。


「……わかった、私が手配しよう。君達は向こうのテントで待っていてくれ。……オイ、そこの君! 彼女等をあそこのテントまで案内してくれ。あと、人数分のコーヒーだ」


 近くにいた平騎士にグラビス達を案内させる。

 その背中を見送りながら、バーナードは旧校舎をふと見上げた。


「一体、どうなっている……」


 だが、その答えが見つかることは、今はない。



 場所は変わり、第4層。

 リョドーとアフターは薄暗い通路を四苦八苦しながら、歩いていた。


「ここはやけに散らかってるな。整頓ぐらいしとけってんだ」


「ははははは、私自身こう何度もこけるとは思わなかったよ」


「なぁに楽しそうにしてんだガキじゃあるまいに」


 おっさん2人が仲良く何度も転ぶ。

 リョドーは夜目が効き、アフターは土地勘がある。

 だが、それすらも凌駕するほどに、骸骨や岩、宝石が散らばり、行く手を阻む通路。


「ほらリョドーしっかりしろ。もうすぐでこの通路の出口だ。あそこに扉が見えるだろ」


「あ、あぁそうだな。もう散らかった空間はうんざりだ」


 這いずるように扉までたどり着き、力いっぱい石の扉を押し開ける。

 扉の先は散らかってはいないものの、リョドーは思わず顔をしかめた。

 あたり一面に広がる墓。

 あらゆる国や地域で使用される墓石が、所狭しと並んでいる。

 中には首のない聖人像もあった。


「……むごい」


「墓がかね?」


「ありったけの死を象徴しているこの風景が、だ」


「なるほど。私には、石が転がっているようにしか見えない」


「冷たい奴だなお前は……」


「そういう君は情熱的だ。中々好感が持てる。面白いかどうかは別としてだがね」


 ああ言えばこう言うアフターを、ため息交じりに一瞥するリョドー。

 どうやったらこんな捻くれた性格になるのか。

 リョドーは内心思った。

 気分を紛らわすため、葉巻を1本とろうとしたとき。

 暗闇から、女の楚々とした笑い声が聞こえた。

 その声の主がゆっくりと姿を現す。


「あぁ、ごめんよ。君達2人会話が面白くてつい、ね」


 銀色の短い髪の、小柄な体躯の美女だ。

 見るからに艶やかなそうな肌触りの拳法服をまとい、浮き出る体の曲線は、男性はおろか女性すら魅了するであろう美しさを秘めていた。

 更に右手に掲げる青龍偃月刀が、静かな殺気を吐きだすことで、彼女の周りには凍て殺さんばかりのオーラが流れている。


「……さて、ここで出会ったからには、ボクはこの刃を振るわなくちゃあならない。……あ、ねぇ、倭刀持ってる? できればそれを使いたいんだけど」


「あるわけねぇだろ。もしかして、あんたも魔人ってやつか?」


「なぁんだ、知ってたのか。ということは、そうか、マクベスを退かせたのは君か」


 女の妖艶な笑みは、リョドーの心をくすぐった。

 ここまでの美女にはお目にかかれない。

 だが、こちらが一瞬でも気を抜けば、この首はすぐさま叩き落とされるであろう。


「やれやれ、今度の敵は女か。まぁ初めてじゃあないがな。……アフターお前は下がっていろ」


「言われなくても、だ」


「フフフ、お手柔らかに」


 リョドーは短剣と銀銃を。

 敵は青龍偃月刀を軽やかに振り回して見せる。


「――――来なよ、ボクを満足させて、ね?」


 

 

 


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