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無限幻想 -灰と忘却のパヴァーヌ-  作者: 支倉文度
第三章
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#25 撤退 その②

「アフター……」


「先生! 無事だったんですね」


 コートにまとわりつく砂をはらいながら、こちらに手をヒラヒラと振るアフター。

 砂に巻き込まれた以外は何事もなかったように陽気な表情で皆を迎える。


「この方が……。お初にお目にかかります、クァヌム・サンクトぺナムです」


「ウチは久瀬波羅沙耶。よろしゅう、おっさん」


「お……っさん、か……う、うむ、よろしく」


 アフターは、沙耶の悪意も容赦もない挨拶に、一瞬戸惑った。

 だがすぐに気を取り直す。


「どうやら仲間というのが見つかったようだね、いや結構結構」


「……もう1人いるんだ。この娘らと同い年の黒衣をまとった男なんだが……」


「うぅむ、その様子だと1層から3層は探したようだね」


 この調子だと、心当たりはなさそうだ。

 ようやくここまでそろったのに、出雄だけ見つからない。

 更に下の階層だろうか。

 もしそこにいるとすれば、手詰まりだ。


「もしあいつが下にいるってんなら、どこから下の層入ればいい?」


 アフターに聞く。

 難しそうな表情から出た言葉は、驚くべきものだった。


「下の層に行くには……ここを飛び降りるしかない」


 アフターは舞台の下を指さす。

 風の音が不気味な唸り声となって響いていた。

 どこまでも続く虚空に、皆は冷や汗を流す。


「ここをか? というかまた落ちるのか」


「仕方がないじゃあないか。ここしか道はないんだ」


 アフターは肩をすくめてみせる。

 魔術を行使すれば安全に降りることは可能だろう。

 だが、この先にどんな危険が待っているかもわからない。


「ここは、あの侍が飛び降りた場所や」


「……沙耶?」


 沙耶が小さくつぶやく。

 だが、その声にはわずかだが怒気が含まれていた。


「ウチは行く。他はおらんのか?」


 沙耶の目は血走り、今にも刀を抜きそうな勢いだ。

 クァヌムは心配そうな顔をするだけで、なにもできないでいる。


「頼む、行かせて。行かせてくれ……ウチはあいつを叩っ斬らなあかんのや」


「待て沙耶。お前になにがあったかは知らんが……それは危険だ」


「ほなどうせいって言うんや!? 出雄があいつに斬られてるかもしれへんねんで!?」


 普段の彼女からは想像もできないほどの剣幕だ。

 恐らく、沙耶にとって、その身を裂くほどの悔しさだったに違いない。

 

「沙耶、いいから落ち着け。いいか、ここから先は危険だ。実戦経験の少ないお前等じゃすぐにやられるのがオチだ」


「な、なんでそんなことがわかるんや!」


「自分が今冷静さを欠いていることを、忘れるな」


 リョドーの指摘に、口をつぐむ沙耶。

 怒りを抑え、1歩後ろに下がる。

 その様を見て、胸を撫で下ろすクァヌム。

 

「でも、おじさん」


「なんだ?」


「それじゃあ、出雄君はどうするの? このままじゃ……」


 グラビスが心配そうな顔を向ける。

 もう、仲間を失いたくないと言っているかのように。


「誰もほっとくなんて言ってないだろ。……ここから先は俺1人でいく」


 アフター以外のメンバーが目を丸くする。

 その間に、リョドーは舞台の下へ降りる準備をし始めていた。

 風の属性の魔術。

 その呪文と魔力を練りながら、徐々に顕現していく。


「ちょっと待っておじさん! どうして1人で行くのよ!」


「言ったろ、実戦経験の少ないお前等には危険すぎる。俺はこういうことには慣れてる」


「だ、だったらリョドー。私達を同行すべきよ」


「フィーユの言う通りだ。私達だって、アナタの同志よ!」


 しかし、リョドーは皆の言葉に聞く耳を持たなかった。

 あえてそうした。

 もしここでいつものように耳を貸していたら、きっと彼女等を巻き込んでしまう。

 彼女等の好意に甘えてしまうだろう。

 そう考えた上での、苦肉の策だった。


「なら……私が同行しよう。君はこの神殿について知らないことが多いだろう? 私はある程度ここの地形は把握している」


「アフター……わかった。道案内を頼む」


 舞台の下、すなわちその下の階層に降りるにあたり、グラビス達に指示を出しておいた。

 元来た道を辿って帰ること。

 決して自分達を追わないこと。

 

「出雄は必ず助け出す。お前達は各自戻って、待機だ。……今回のことは誰にも言うな? 面倒事は嫌いだからな」


「……わかった」


「ミスター……御無事で」


「気ぃつけや」


「絶対生きて帰ってきて」


「私達は……待っています、ずっと」


 魔術で練りあげた風の結界を操り、アフターと共に下へと降りていく。


「随分と、慕われているじゃあないか」


「さぁね」


 葉巻の咥え、紫煙をくゆらすリョドー。


「……それもまた、"幸福"なのかもしれないなぁ」


「あん? なんの話だ」


「別に」


 下へ下へ。

 ゆっくりと舞い降りる中、うっすらと地面が見えてくる。


「第4層のお出まし、か」


「ふふふ、ここも楽しいぞぉ?」


 2人の男が、靴音を鳴らし、足をつける。

 

「さぁ行くか」


「いいとも」

 


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