#24 撤退 その①
一方、第2層では女性陣が男性陣を見つけるための探索を行っていた。
しかし当ても手がかりもない状況で、疲弊が表情に出始めているのがわかる。
「おじさん……どこなのぉ」
「ほんま男共はこんな時にどこでぶらついてんねや……」
「各階層に囚われているのかもしれません……心配です」
疲労ゆえに心に余裕の持てない3人。
「おじさん……うぅ」
「出雄ぉお!! 出てこいコラァア!! 男そろってウチら心配させよってからに……、まずはオドレからいてもうたるわぁあ!!」
「沙耶、名殻出雄への当てつけはやめてください。……彼だって、きっと苦労しているはずです」
クァヌムの一言に口ごもり静かになる沙耶。
苛立ちや不安から叫びたくなる気持ちはわかる。
だが、そのために仲間に矛先を向けることをしてほしくなかったのだ。
そんな光景を見たグラビスは、ここでくじけてはならないと、強い決意を秘めた。
「……大丈夫だよ」
「…グラビスちゃん?」
「おじさんたちは大丈夫だよ。こんなヘンテコなダンジョンでくたばるほどヤワじゃあないよ」
「……はい、その通りです。彼等もまた名うての実力者なのですから」
グラビスの言葉で、3人の表情に活力が戻った。
絶望の最中に陥ったとき、ふと舞い降りてくる一筋の輝き。
3人はまさに今、それを感じ取っていた。
しかして希望せよ、と。
「でも、何処探しはります? この2層は粗方探したし……今度は3層探してみる?」
「うんそうだね。じゃあ、一休みしてから下へ降りよう?」
「そうですね……きっとそれがよろしいかと」
そこはグラビスが謎の神、セト神との激戦を繰り広げた空間だった。
広くひんやりした石室の空気は、噴き出る汗を包み込み、肌と心に安らぎをあたえる。
「……ほぇ~ここに固有界理区域が……、神様相手にしてよう生きてたな」
「うん、正直怖かった……でも、皆が頑張ってるのに、負けてられないよ」
3人並び壁に寄り掛かる。
壁の冷たさが背中から心地よさが伝わってきた。
「そういえば、沙耶達は剣士と戦ったんだって?」
「せや、正直言うて手も足も出んかったよ。目ぇなんてズバッと1回斬られたでな」
「油断ならない相手でした。剣術で沙耶を圧倒するだなんて」
3人は各階層で起きたことを話し合った。
神や剣士、そしてアフターという魔術作家のこと。
「アフター……ですか。私も彼の作品はいくつか読んだことがあります。内容はアクが強いと言いますか、一種の殿方が好きそうなものが多いですね」
「私はあの人の作品は好きだなぁ。性格に難ありだけど割とイケメンだし」
「そもそも本読まん、教科書で手一杯や」
いつの間にか流れるひと時の安らぎに、3人はほんのちょっとだけ時間を忘れた。
放課後の会話の楽しさを満喫するように、心に余裕が生まれた。
その直後。
「うごぉお!?」
「ぐぅう!」
「やん!」
天井の一部が勢いよく砕けた。
轟音と共に、3つの人影が声を上げグラビス達の前に落ちてくる。
沙耶はいつでも抜刀できるよう、グラビスは魔杖を構え、クァヌムは掌に魔力を練り戦闘態勢に入った。
じっと目を凝らし見てみると、見覚えのあるシルエットだ。
すぐさま警戒をとく。
「……お、おじ、さん?」
「んあ? ……あぁ、グラビス。よかった2人もいたのか。探したよ……」
「ミスターリョドー! それに、先生方まで」
「なんやどないなってんの、え? これは……斬ったらあかんの?」
リョドーは上に乗っているムィールとフィーユをどかし、埃を払いながら立ち上がる。
「よかった……心配したんだよ。おじさんに何かあったら……私」
「そりゃこっちのセリフだ。……よかった、よく生きててくれた。本当に……よかった」
グラビスに歩み寄りそっと頭を撫でてやる姿は、まるで父親のようにも見えた。
沙耶もクァヌムも、自然と笑みがこぼれている。
「ねぇちょっとアバズレ。なにリョドーのナデナデを堪能してんのよ」
「ムィールの言う通りよ。なんてうらやま……ゲフンゲフン! ハレンチな」
双子教師からのブーイング。
しかし、グラビスはシカトしている。
「ミスターリョドー……名殻出雄の姿が見えませんが、その様子だと彼はまだ……」
クァヌムの発言に場がくもる。
だが、リョドーはつとめて笑顔でいた。
「大丈夫だ、必ず見つかる。……きっと無事だ、アイツがこんなところでくたばるタマかよ」
「……そうだよ、仲間を信じよう! 出雄君、ちょっとマヌケなとことあるけど強いんだよ? だから大丈夫大丈夫!」
「へ? 出雄ってそんな強いん? あの龍の山の噂はガセやなかったってことか……」
「……なんでしょう、彼は普段どういった目で見られているのか少し気になります」
「ぶぇえああっくしッッッ!!」
『うわぁあ! 汚ねぇーッ!?』
リョドー、ムィール、フィーユ、グラビス、沙耶、クァヌムの6人は出雄の探索のため第3層まで進むことにした。
戦力的に見ればこれ以上ないともいえる布陣。
たとえまた化け物が出てきても、余裕をもって対応できるであろう人数に皆安心感を抱いていた。
階段を何事もなく降り、進んでいくと沙耶達が例の侍と対決したあの舞台が見えてきた。
そこに立っていたのは……
「……やぁグラビス、そしてリョドー。さっきぶりだね」
魔術作家、アフターが笑みを浮かべ立っていた。




