#11 燃えよ魔術 その②
グラビスの咆哮と共に、一斉に襲い掛かる。
まず、一番最初の敵の繰り出す、乱雑な腕ふりをを3寸退きで躱す。
「甘い」
後続の2人は側方からきた。
右舷からの掴みかかりと、それに合わせた左舷からの拳打。
魔状の先端で拳打を弾き、右からの掴みかかりに対しては、強烈な蹴りを顔面に見舞ってやった。
「ぐぇッ!!」
ヒールが頬骨を砕き、貫通する。
それと同時に情けない声を出して、壁に叩きつけられた。
続いて、蹴りの際に発生した運動エネルギーを利用し、体を空中1回転。
振り回した魔杖の先端で2人の首を刈り取る。
その動きは魔術師とは思えないほどの、身のこなしであった。
「……まずは3人」
悲鳴を上げる間もなく倒れた2匹。
その姿を見た残りの敵は、激昂したように唸りを強める。
「まだやる気なの?」
不満げな表情を見せながら槍術の構えをとる。
だが、これ以上時間をかけるわけにはいかない。
一気に片を付けようと、グラビスは目を細めながら思った。
(魔術で一気に吹っ飛ばす。これが1番手っ取り早いわ)
魔術。
術理を紐解き、魔力によって万象の一部を具現化させるもう1つの法則。
あらゆる可能性に、枝葉を伸ばせるのが魔術の利点だ。
それらを扱うのが魔術師。
まずは術理を紐解く、即ち詠唱だ。
詠唱を口にし、自身の魔力と万象の法則とを繋ぎ、技と成す。
技と成せれば、戦闘において威力は御墨付だが、そうもうまくいかないのが世の中だ。
(うわぁ、魔力練ったら滅茶苦茶反応した。詠唱をし始めたらすぐにでも襲い掛かるつもりね)
魔術の規模にもよるが、詠唱には大抵時間がかかる。
このように少しでも魔力を感知されるようなことがあれば、隙を狙われオダブツとなる。
一部の魔術師にとっては、詠唱時こそ死地なのかもしれない。
だが、グラビスはいたって冷静だった。
それどころか、詠唱する気配すらない。
ただ、じっと相手側のほうを睨んだままだ。
そんな状況にしびれを切らし、全員がグラビスに襲い掛かる。
間合いは2・3m。
しかし次の瞬間、魔杖の先端から、爆炎と熱せられた鈍重な大槍が無数に飛び出す。
それもガンマンの早撃ち、神速の剣捌きともとれる動きの中で詠唱や術式一切なしでの強力な魔術であった。
「――――聖痕の串刺王」
本来は、長い大詠唱を必要とするものであり、半径2km圏内に爆炎と共に熱せられた大槍を地面から突き出させる技だ。
炎と闇の属性を組み合わせた上位級魔術であり、今回は空間の広さや神殿へのダメージを考慮に入れ小規模のものへと変換したが、その威力は折り紙付き。
ものの見事に、襲い掛かってきた敵達を串刺しにしていった。
砂ぼこりと炎が舞う中、敵の死体を眺めるグラビス。
これはグラビスの才能とでも言えばよいのか。
グラビスは、『魔術に詠唱を必要としない』
そして、『自分がこの目で見た異能の技は、どんなものでも再現できる』
たとえそれが最上位級魔術であろうと、宇宙の真理に触れるような禁術であろうと。
覚えてしまえば一切合切短縮して、行使することが出来る才能を持つ。
いわゆる天才と言われる部類の人間だ。
何より1番驚くべきは、底なしの魔力である。
生まれた時の才能、若しくは努力次第で、魔術師の魔力容量は上がる。
だが、グラビスの魔力量は、最早無限の域と言っても過言ではなかった。
そんな魔力量で、詠唱無しに魔術を行使する様はまさに、『人類最強』
「よっし、終わり。……そういえばおじさん遅いなぁ。大丈夫かな」
戦闘を終え、軽く伸びをするグラビス。
汗1つかくことなく終わらせ、未だ戻らぬリョドーの身を案じ始める。
しばらく待つと、1人分の駆け足の音が近づいてきた。
「グラビス! 無事だったか!」
ようやくやってきたリョドーに大きく手を振る。
「……これ、お前がやったのか?」
「うん、全然余裕だよ」
「はぁ、無茶しやがって……」
グラビスの強さは知っていたがこれほどとは。
内心ゾッとしたリョドーだった。