反逆礼賛
そこには闘技場があった。
オークなどの魔族が人間を使役し、戦わせ観客をわかせる。
魔族も闘技場に入り戦うが、人間の事はパートナーなどと見てはいない。
魔法も使えない人間を前衛に出し、もし主たる自分にかすり傷でも付きようものなら、すぐに暴行、果ては殺す。
だが、自分は違った。
主たるミノタウロスにはない知性で「貨幣」の重要性を訴え、今まで組んだ人間とは違い重用されている。
闘技場は賭博場でもあった。
何て事はない。適度に負ける試合を決めておき、協力者に、対戦者側に大金を賭けさせるだけである。
「今日もいつも通りだ。」
対戦者は人間。女だ。
かわいそうに、さんざん弄ばれたあげく、闘技場で使い捨てられるのであろう。
女は前に出てくる。主はフードを被ったメイジゴブリンか。当然人間は前、メイジならなおさら後ろだ。
女は前に出てくる。
勇ましく。
女は手を伸ばせば届く距離にまで近づいた。
ほどなく試合開始の鐘。今日は勝つ試合。
作戦はこうだ。
自分は全力で後退して不意をつき、主たるミノタウロスの豪腕で支えられた戦斧で薙ぎ払う。
気の毒だが、生きたかったから仕方がない。
「今日もいつも通りだ。」
作戦通り、私は女に背を向け後退。
主たるミノタウロスは猛突進し、戦斧を振りかぶる。
…ほどなく、空気の入った皮袋を押し潰したような音の断末魔が聞こえた。
躊躇いながらも振り向いた。半ば贖罪の気持ちで毎度死に際は見るようにしていた。
牛の頭が落ちていた。