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ネガティブな僕と、中二病っぽい彼。  作者: ホワイト大河
第一章 変わること、変わらないこと
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ネガティブ・ニューカマー(8)

自分達の部屋に戻りながら、僕とうのぽんは特に言葉を交わすことなく、

「お疲れさん」と口にしたうのぽんはさっさと部屋に入っていきました。

……マイペースな所で言うと、直樹さんとうのぽんはそっくりですね。


それから朝を迎えて、寮を出る時に、

いつも直樹さんが先に学校に着いてることを思い出して、

いったいあの人は何時に学校へ向かってるんだろう、あんな時間に一人で……

と色々と考えてしまいましたが、教室に着いたとたんに、


「よく眠れた?」


……三日連続同じセリフを口にする直樹さんを見て、

考えるのもバカらしくなってしまいました。

まるで昨日神様やうのぽんとお喋りした事実も無かったかのようです。


「あの、それなりには……」

「そうか。」

「はい……」


……えーっと、それだけですか?

な、何か話題を探さないと……。


「そ、そういえば直樹さん、寮生なのにこんなに早く学校に来るんですね……」

「ああ、する事もないからな。」

「……そ、そうですよね……」


…………。


「な、直樹さん、夕食食べるの遅いんですね!今まで会わなかったから、寮生だったなんて意外でした……」

「ああ……夕食くらいは一人で食べたいからさ。」

「へえ……」


……うーん、すぐ話題に詰まってしまいます。

直樹さんとの会話が面白くないのは、僕の話がつまらないだけじゃないのか、

って剛司さんに言われたのも、あながち間違いじゃない気がしてきました。

何というか僕も直樹さんも二人して話下手ですよね、きっと。


昼食を直樹さんとご一緒するのも、なんだか悪い気がしてきました。

でもまあ、「心無い」直樹さんの事なので、

そういうつもりで言ったわけじゃないとは思うのですが……。



「よう恒太、直樹。相変わらず揃ってるな。」


達也さんキター!

今の僕らにとっては、話題を次々提供してくれる救世主です。

ふわりとあくびした達也さんですが、会話相手としては心強い方です!


「そういや俺は休み明けテスト三教科70点台と、そこそこ頑張ったんだぜ?……直樹に話題をすべて持っていかれちまったがな、まったく。」

「……直樹さんやっぱりすごいですよね、全教科100点って……」

「ああ、別に難しいことでは無いけどな。答えが一つ決まっているテストならば、それを導く解法と知識を身に着けてさえいれば、100点は取れるさ。」


真顔でそんな事言われると、どうしても引いてしまいますね。

やっぱり、我々普通の人間とはいろいろ違っているようで……。

すると急に直樹さんが、表情を崩さないまま、僕らに言いました。


「お前ら、俺と無理につるむ必要は無いからな?」

「……はい?」

「面倒なら適当に相手して、ハッキリ言ってくれていいよ?俺はそういうの分からないから、無理に話しかけてくれなくても大丈夫だからさ。」


いつも通り直樹さんはあのイケメンスマイルを放っています。

……うーん、僕の場合は直樹さんに話しかけられている側なので、

別にそれについては何とも思っていないのですが、

達也さんがどう思っているかは……



「へ?話しかけたくて話しかけてんだから、別に良いだろ。友達に話しかけるのは普通の事だと思うぞ。そこまで直樹が気にする事なのかよ。」


……達也さんって真っ直ぐ純粋に良いこと言うんですよね。

僕がこんなこと真顔で言われたらますます惚れて……


「そうなのか?なら良いけどさ。」


当の直樹さんはあっさり納得してしまいました。

……うーん、これが「心が無い」っていう事なんですかねえ?

達也さんは別に気にすることなく、話を再開するわけですが、

何を言っても響かないのだとすると、

直樹さんにとって、友達付き合いという物は非常に難しそうですね……。



その日の一・二時間目は体育でした。なぜか僕の苦手なサッカーでした。

直樹さんは超人的な活躍を見せ、クラスのみんなから歓声を浴びる一方で、

僕は春雨でぬかるんだグラウンドに何度も足を取られて倒れました。


三・四時間目の数学はクラスが(学年全体が)文理実力別となって分かれ、

僕も理系の達也さんや、同じ文系でも天才な直樹さんとは別れ、

知ってる人の少ないクラスで挙動不審になりながら授業を受けました。


そして昼の時間がやって来ました。

ただでさえ苦手な数学、精神も頭も使い果たして三組に戻って来ると、

達也さんと直樹さんが、わざわざ僕を待ってくれていました。


「よう恒太、食堂行くぞ。」

「は、はい!」


教室に荷物を置いた僕が、なんだかんだ楽しい一年になりそうだな、

なんて期待の一歩を外へ踏み出したその瞬間に、


「あの……織田君!」


一人の女子生徒が直樹さんを呼び止めました。

手にはハートのシールで止めたベタなラブレター、

赤らめたその表情は、上目づかいで直樹さんの顔をのぞきます。

あ、これは同席しちゃまずい感じ、と一瞬で空気を読んだ僕は、

変な顔をしている達也さんを引っ張って一足先に食堂へと……


「ああ、告白か?悪いけど興味ないから、断らせてもらうよ。」


…………!

見てはいけないと思いつつも、涙目に変わっていく女の子の表情を、

そしてペコリと一礼し、僕達の横を通り過ぎて廊下を走っていく後姿を、

僕と達也さんは見てしまいました。


「行こうか。」


またもや何もなかったかのように歩き出した直樹さんに、

その後ろを追いかけつつ、達也さんが何か言おうとして口を開いたところ、


「ひどいだろ?俺は恋愛が一番よくわからないんだよ。」


と直樹さんは何故かあのイケメンスマイルで、

少し困った顔をしながら僕らに笑いかけます。

そんな直樹さんにどう反応したらいいか困っていると、

ふーむと考えた達也さんが、直樹さんの横に並びながら言いました。


「別に、女がフラれるなんて、バルガクならよく見る光景じゃないか?ゲイも多い学校だし、なあ恒太?」


なあ恒太?なんて言われても、まるで僕がゲイだと言わんばかりで困ります。

まあ実際そうなんですけど、でも達也さんには絶対にバレてないはずで、

もしそうだったら色々と……ごほんごほん、それはともかく。

確かにデリカシーないやり方で女の子をフッたとしても、

それは達也さんでもやりかねない行為ですし(失礼は承知の上ですが)、

「奇跡の子」だからこそ起きてしまうトラブルだとは言えない気がします。


「それなら良いけどさ」とだけ言って先を歩く直樹さんの横顔は、

ただ何も考えていないようには、不思議と見えなかったのでした。


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