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ネガティブな僕と、中二病っぽい彼。  作者: ホワイト大河
第一章 変わること、変わらないこと
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ネガティブ・ニューカマー(7)

「ハッ!織田直樹?聞かん名だな。」

「転校生らしーよ。恒太のいる三組の。」


カツカレーを食べ終わりかけているうのぽんが、

神様とは目を合わせないまま、僕の代わりに答えてくれました。


「ハッ!ではその織田直樹とやらが、奇跡を引き起こすとでも言うのか?」


神様は眼鏡をクイクイと上げています。

面倒な事になかなか席についてくれず、僕らを見下ろしています。

なんか席に座ると、他の人に見下されるのが嫌だとか何とか。


「はたまた神に取って代わろうとするとでも言うのか!?」

「そこまでは言ってないんじゃね?」

「……でも、すごいのは本当ですよ……何をしてもほぼ完璧に出来てしまうので、テストとかでも全部百点ですし……」

「ハッ!……全部百点、だと?」


神様の目の色が変わりました。余計な事を言ったかもしれません。

見ての通り負けず嫌いな神様は、特に勉強面に自信を持っています。

現に、神様の成績はトップクラスなのです。優等生に名を連ねてます。


「……ふはははははっ!面白い、全部百点か……また一つ、神統記に記すべき戦いが始まるか!」

「でも全部百点なら勝ち目なくね?」

「ハッ!奇跡であろうと人は人……いずれミスを呼ぶものだ。神である神とは決定的に違う種類の生物なのだ!」

「神様も人間じゃね?」

「……直樹さんは本当に『奇跡』の人なので、ミスをするかどうか……」


「ハッ!面白いではないか、早くその顔を拝みたいと言うものだ!」



「俺のこと、呼んだ?」


その声と姿に、呼吸が止まるかと思うほど、僕は驚きました。

僕らの前に、噂の「奇跡」、イケメンスマイル直樹さんが姿を現したのです。

でもここは寮で、いつもは教室でしか会わなかったんですけど、あれ?


「恒太も寮生だったのか。改めてよろしくな!」


……いやいやいや。そんな軽い感じで言われてもですよ。

しかしよく考えたら、なんとか省から送り込まれている直樹さんは、

この寮から通う方が都合良いですよね。寮に居るのも納得です。


さて僕は、突然の来訪者をじっと観察しているうのぽんと、

急に押し黙って様子をうかがっている神様の二人に、彼を紹介しました。

僕の反応などを見て、この人が誰か言わなくても分かったようですけど。


「俺はいつも夕飯遅いから、タイミングが偶然合わなかったのかもな。剛司、大樹、よろしくな。」

「よろしくじゃん。」


そう返事した時には、うのぽんがカツカレーをちょうど食べ終わってました。

気付けば時間も経ち、周りに他の生徒はほとんど居なくなってました。

という事は、直樹さんはずっと、こうして人が少なくなった時間に、

やっと夕飯に取り掛かっていたという事でしょうか……。


直樹さんが僕らの事はお構いなしに注文を取りに行って、

ついでに僕らも自分の食器を片づけて、テーブルへ戻ると、

一人取り残された神様が何やらピクピク震えていました。


「……ハッ!そちらから出向いてくれるとは好都合!これほどまで早く対決が実現するとは思わなかったがな!」

「ん、何が?」

「神が神たるためには、須らく敵と戦い続けるべし!織田直樹よ、神が勝った暁には、落合君や宇野君、長瀬君同様、神徒の一人に加えてくれよう!」


神様のセリフ、初見さんバイバイで困ります★

それから当然のように僕らが「神徒」なる集団に加えられてるのも困ります。


「戦うって、如何にして戦う?」

「ハッ!……それは……ふむ……」

「仮に一定の基準を設けたとして、評価するのは誰?ここに居合わせた二人が確実な公平性を示せるとは思えないな。」

「ハッ!……はっ?」

「それに『神様』だっけ?自分の事を神だと思ってるって事か?それとも神の代行者とか預言者とか、一般的な宗教と同じ位置付けか?」

「い、いや……神は自らが神だと……一応……」

「それなら戦う必要ないよ。代行者なら気に入らない『敵』を排除する為に行動する必要があるが、神自体なら全ての必然性さえも自由に出来るから、不都合自体が起きないならば、戦うという行動に意味を見いだせないぞ。」

「は……えっと……」

「抑々前提として全を一にする事は不可能だ。『神』だって一でないのだから、エントロピー増大の法則に則れば、戦いに依って秩序を生み出す事自体非常に原始的だ。神様は戦いでカタルシスを得られるのか?」

「えーっと……それは……」

「ならば神様の思う『神』とは……(以下略)」



はい、皆さんお疲れ様でした。僕らも大変でした。作者も大変でした。

結果は言わなくても分かると思いますが、神様の不戦敗でした★

あ、神様ならいま足元に倒れています。ひゅーひゅー息をしてます。


「なんだ、対決するって言うからどんなものかと思ったが、戦う前から元気無くしちゃあ駄目だよな。」


直樹さんはイケメンスマイルを見せてくるものの、もはや恐怖すら覚えます。

要約すると、前提条件などを聞き出す段階で神様が力尽きたのです。

地に這いつくばった神様はげっそりしてます。僕もげっそりしてます。


「な、直樹さんはケンカとかも強そうですね……」

「……実際には、喧嘩をする前に離れていくものだけどな。」


目の前でラーメンをすする直樹さんは、どこか寂しげな表情をしています。

感情が無いと言っていましたが、僕には直樹さんの感情のようなものが見えて、

それが存在するとしたら、そのほとんどが「悲しみ」だと思います。


「で、なんか困ってんの?」


これまで黙って見ていたうのぽんが、直樹さんに聞きました。

直樹さんは無表情のまま、食事をする片手間の様に答えます。


「別に?ただ俺という存在は、周りにとっては迷惑なんだろうと思う。」

「いーじゃん。俺は最強だ、ってふんぞり返ってれば良いんじゃね?」


……また、何というかうのぽんは他人事というか……。

直樹さんも目が点になってます。


「俺はそれでも良いが、周りは「そういうの」嫌いなんだろ?よく分からないけどさ。」

「それで嫌われたとしても、別に気にならなくね?分かんないんならね。」

「…………」


あ、あの、初対面の人にビシバシ言うのやめて下さい……。

ほんと、うのぽんは物怖じしないっていうか何というか……


「まーともかく、周りはそこまで気にしてないんじゃん?深刻に考えてるのは、直樹くんぐらいだと思うけどね。」


……少なくとも僕は気にしてるんですが。

直樹さんは目線を下げたまま、ラーメンを食べ続けています。

慌て気味に口に入れた分だけ飲み込むと、イケメンスマイルを向けてきました。


「希望的観測だな。まあ、俺自身そうなる事を願ってるよ。」

「ま、応援はするからガンバレ。」


うのぽんが立ち上がったので、何となく居づらくて僕も立ち上がりました。

直樹さんにもうのぽんにも、思う事はあるようですね……。

あと誰かここに倒れてる神様片づけてくれませんか?あ、僕は嫌です。


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