俺の嫌いなお節介野郎(9)
……ってなわけで、ゴールデンウィークはライブもあったり、
さりげなく勉強会もあったり、俺にしては充実な日々を送ったものだが、
やはり何度思い返しても、良助の涙は衝撃的だったわけだ……。
おっと、名乗るのが遅れたな。長瀬達也だ。
短い休日ももう終わり、俺たちはまた学校生活に戻って、
しかも一週間後にはテストが控えてやがる。
まったく、社会はどれだけ高校生を虐めれば気が済むのかね。
「おっすタツヤ!ライブん時はいろいろ大変だったな。」
「ようヨウジ。ケッ、おかげ様でな。」
あのライブの日、幼なじみが打ち解けあった爽快感にはいつまでも浸れず、
俺は慌ててライブ会場に戻って片づけを手伝い、楽器を運んだわけだ。
ライブは、家に帰るまでがライブってか?心底疲れたぜ。
でもって休み明けの今日は、さすがに朝練はお休みになったから、
こうして久々に遅い時間に登校し、洋次と合流したわけだ。
「そういやヨウジ、テルには色々話したのか?」
「ああ、一応な!シンゴが来てる事も知らんかったし、リョウスケとは仲直りしたって伝えたぜ。」
「そうか、まあテルはそんなの興味ないだろうけどな……」
あいつらしい、なんて考えていると、
ちょうどテルが、後ろの方から合流してきた。
「おはよ~。」
「おっすテル!ライブ、色々お疲れだったな!良かったぜ。」
「ありがと~。そっちも大変だったね~?」
まるで自分には関係ない、とでも言うかのような口ぶりで、
テルは少し上目遣いをしながら俺たち二人の顔を見比べていた。
あの時、予想通りと言うべきか俺を追いかけずに、
ライブの控室で一人のんびりしていたらしいテルには、
リョウスケの抱えてたわだかまりなんて関係ないようだ。
ま、気持ちは分かるがね。出来る事なら知りたくはなかったもんだ。
知っちまったからには、俺も色々頑張ったけどな。まったく。
「けど、もう二年生始まってから一か月、あっという間だよな!」
「え~、そんなに経ってるんだ~。意外だね~。」
二人の薄っぺらい会話を聞きながら、俺も一か月を思い返してみる。
直樹がやってきて、ついでに正も加わって、軽音に入ることになり、
ひょんな事から慎悟と再会して、良助とのわだかまりを解消して……、
まあ色々あったが、何はともあれ、上手くいって良かったぜ。
見上げた空も五月晴れ。今日も一日、頑張ってやるか。
○ ○ ○ ○ ○ ○
「良助、おはよう。」
「よお。」
登校してすぐに机に突っ伏している良助に、話しかけた。
あれから何度もメールはしたけど、直接話すのは三日ぶりで、
話しかけるのも少し緊張した。良助にそれが伝わってなければ良いけど。
やがてムクッと体を起こした良助が、ぼんやりと僕の顔を見て、
それでまたゆっくりと、頭を下げた。
「悪かったな、慎悟。」
「え、もう良いって……」
「反省してるよ。余計な気を遣わせたみたいだからな。」
「……大丈夫だよ。ちゃんと話し合えて良かったし、あれからずいぶんスッキリしたんだ。長年のつっかえが取れて、頭が軽くなった感じもするよ。」
周りからどう見えているかなんて分からないけど、
少なくとも僕の中では、すごくスッキリした気持ちになって、
それから良助に、洋次に、もちろん達也にも、
たくさんの感謝の気持ちでいっぱいなんだ。
……軽く聞こえるかも知れないけど、そんな事ないよね?
こっちに戻って来て、バルガクに入れて……良かった。
それを決意して家を出た時、たくさん不安になったけど、
こうして今、こんな清々しい気持ちで居られるんだよって、
昔の自分に言い聞かせてあげたいくらいなんだ。
僕は何となく窓の外を見つめて、澄み渡る青い空を眺めた。
良助も僕の目線を追って、あくびをしながら窓の外を見る。
そして窓の逆、僕の席の方を見て、それから言った。
「おい慎悟、そういや今日はかなり早く学校に来てたよな。」
「え、ああ……そうだね、うん。」
「どうしたんだ。」
「実は、入部届を出してたんだ……サッカー部に。」
少し前に落合と話して、その時はあまりどこの部活に入る気もしなかった。
だけど、達也やテルがライブにのめり込んでるのを見て、
僕もやっぱり何かしたい、せっかくの高校生活を楽しみたいと思ったんだ。
こんな体だから、自信なんて無いけど、
ちょっとずつで良いから、頑張ってみようかな、ってね。
「そうか。小さい頃からサッカーは好きだったからな、慎悟。」
「え……覚えてるの……?」
「ああ。みんな何にも変わってないんだ。覚えてるに決まってるだろ。」
良助はそう言って頬杖を突きながら、僕の方を見た。
目は細いけど、その奥には何か光るものがある。
そんな目で、良助はまっすぐに僕を見つめていたんだ。
「一つ言っておかないといけない事がある。」
「……何、良助?」
「俺は最初から、洋次の全部が好きだったわけじゃない。」
何を言われるのかと少しドキドキしたけど、案外大したことじゃなかった。
……そんなこと、分かってるよ。
僕から見た二人は、最初から大親友って風ではなかったんだから。
「謝った今でも、気にいらない事なんてまだある。あいつの性格自体が、合わないのかもしれないな。」
「あはは……そんなの仕方ないよ。別に二人に一生の親友になってくれ、なんて言うつもりないし。」
僕は思わず苦笑いしていた。
良助のそういう実は真面目な所が、少し垣間見えた気がする。
すると良助が少し表情を変えて、急に言った。
「やっと笑ったな。」
「……え?」
「慎悟、そういう風にずっと笑ってろよ。お前は笑顔の方が似合うんだ。」
「あ、うん……ありがとう……」
良助は口角を上げて、静かに笑っていた。
良助の言葉は、僕の思い出の中で一番輝いている言葉と同じだった。
それで、僕はその場でうつむきざるを得なかった。
……ちょっと不器用だけど、いつも僕を励まして、
僕を笑わせようとしてくれる。
いま僕が笑っていられるのは、きっと良助のおかげだし、
だからこそ……僕は良助に――。
浮かんできた気持ちを、今は、そっとのみこんだ。




