ネガティブ・ニューカマー(3)
朝。静かに目を覚ますと、いきなり憂鬱な気持ちになって、
とりあえず五回吐いてきました。いつもより二回だけ多いです★
今日は入学式に休み明けテスト。勉強も捗らなければ部活も楽しくない。
僕はなぜ生きているんでしょう……と思いながら、
仕方なく学校へ一人で向かいます。孤独感がすごい襲ってきました。
ちなみにうのぽんは、バスケ部の朝練で早く行ってると思います。
「よく眠れた?」
「……あ、はい……それなりに……」
教室に入ると、直樹さんのイケメンスマイルが僕を待ち構えてました。
僕は基本的に人に構ってもらえないタイプの人間なので、
ここまで構われると……結構本気で不安になってきました。
「そういえば直樹さん、休み明けテストの勉強は大丈夫ですか?」
「え?ああ、一応やった。春休みの宿題も渡されてたし。」
「あ、そうなんですか……」
バルガクは自称進学校(笑)なので、それなりに内部のレベルが高く、
劣等生の僕はことあるごとにテストで下位に沈んでいました。
僕が無事進級できたのは、優等生であるうのぽんのご指導と、
僕とほぼ同じレベルの達也さんとの勉強会のおかげだと思ってます。
さて、入学式は特に面白いハプニングが起きるでもなく普通に終わり、
一部の優等生以外にとっては苦痛でしかない休み明けテストが、
しかも国数英三教科フルでどばーっと襲ってきました。
もう僕のHPはゼロです。だれか回復魔法をかけてください……。
テストを終えて僕がへばっていると、前から直樹さんが覗いてきました。
「どうした恒太?元気ないな。」
「え……いや……豚の様に哀れな僕の事は放っておいてください……」
「もう昼休みだし、昨日話した食堂に行ってみようぜ。」
僕は人付き合いの経験が少ないので、すぐには分かりませんでしたが、
どうやら直樹さんに昼飯に誘われたようです。なんでイケメンが僕なんかを?
ちょっと戸惑った僕が横方向を見ると、達也さんの姿はなく、
他の多くの生徒はもう昼飯を食べ始めていました。
「……そうですね、行きましょうか……」
何というか、転校生から声をかけられるなんて貴重な事なので、
断るのも悪いですし、放心気味でしたがオーケーしました。
……達也さんは、うのぽんの所に行ったのでしょうか……?
「おっ、よう恒太。どこか行くのか?」
ドアを出るときに、達也さんと正面衝突しかけました。
口から心臓が飛び出るかと思いました。確実に寿命が縮まり……
「さては食堂だな?寮生は無料なんだってな……まったく、羨ましいぜ。」
「あっ、はい……ちょ、ちょっと行ってみようかと……」
達也さんは達也さんのペースで話すので、僕は冷や汗かきまくりです。
今日は直樹さんと一緒に食べることになってしまったわけですし、
でも達也さんと食べたくないわけじゃないですよ!って事を伝えようと、
何とか足りない頭をフル回転させていたのですが、
「俺も試しに行ってみるか、今日弁当忘れたからな……」
……達也さんの一言であっさり解決してしまいました。
しかし、よくよく考えてみると僕はいま直樹さんを後ろに連れているわけで、
達也さんに事情を説明して、直樹さんにも伝えないと、
とまたパニックになっていると、勝手に二人が話し始めました。
「転校生の織田だったか……?ま、よろしくな。」
「ああ、直樹で良いよ。俺も達也って呼ぶわ。」
「別に構わないが……よく俺の名前覚えてたな。恒太とは大違いだぜ。」
「えっと達也さん?僕ちゃんと名前覚えてるんですけど……」
達也さんと直樹さんの二人が先行し、僕は少し後ろをついて歩く形で、
僕ら三人は別校舎にある食堂へと歩き始めました。
「直樹、転校したてだと大変だろ?良かったら俺が教えてやろうか?」
「ああ、助かるよ。」
「クッ、恒太は冷たいからあんまり教えてくれなかっただろうが、俺はそんな事ないから安心しろよ。」
「えっと達也さん?僕なりに一生懸命教えたんですが……」
達也さんの中での僕の扱いが本当にひどいですが、
何はともあれ、達也さんがナチュラルに溶け込んでくれました。
……やっぱり直樹さんはとっつきやすい性格なんですかね?
「しかし、休み明けテストには心を折られたぜ……」
「あれ、達也さんは学年末テストで猛勉強したから、もう優等生の仲間入りしたんじゃないんですか?」
「それとこれとは話が別だろ、まったく……直樹、こんな感じでテストが怒涛のように襲ってくる学校だから、覚悟しとけよ……」
「まあ、肝に銘じておくよ。」
と、あまり中身のない会話を続けていた僕たちは、食堂に到着しました。
二人が食券販売機でメニューを選んでいる間に、僕は中を見渡しましたが、
今日は食堂オープン日なので、主に二・三年生でかなり混んでいます。
それを気にも留めずに、達也さんは人の波をかき分けて入っていき、
空気の読めない達也さんらしいなと思ったものですが、
その後を直樹さんが、同じく波をかき分けてついて行きました。
……あれ、あの子も空気読めない?
よく考えたら、ちょっとしつこいくらい質問攻めされて……。
あれ僕、問題物件二つ抱えてる?新学期から大変フラグ?
「よーナオキー!珍しく友達連れてんじゃねーか!」
長机の端に座った僕ら三人の所に、すごい勢いで一人の男が飛び込びました。
おかげで僕が食べようとしてたラーメンのスープが、僕の顔中に散りました。
元気な彼、僕は知らない人ですが、どうやら直樹さんの知り合いのようです。
「ああ。そっちも元気でやってる?」
「ナオキにカンケーねーだろ!」
「まあ、そうかもな。」
何でしょうこの人。突然現れて、直樹さんととても親しそうです。
イケメンの直樹さんだから、一瞬で交友関係が広がったのでしょうか?
「おい直樹、こいつ誰だ?」
密かに考えていたら、達也さんがド直球で聞いてくれました★
こういう時に本当、空気が読めないって頼りになります。
「ああ、こいつは奥野正。東京でずっと近所に住んでたんだ。」
「どーもー!コイツとは腐れ縁ってヤツでさー。」
「……転校まで一緒になるとは、腐れ縁にも程があるな。」
達也さんが変な感想を述べてくれました。
僕はさっきから人見知りを発動して、無言です★
「ところで俺、『軽音楽部』設立に燃えてるんだけどー、お前ら興味ないー?」
「おい正、そんな気軽に加わってくれるわけ無いだろ。」
「ナオキの意見は聞いてないからー。現に一人かわいい子獲得したしー!もし興味あったら声かけてくれよー!」
それだけ伝えると、奥野君はすごい勢いで消えていきました。
打って変わって直樹さんは落ち着いて食事に取り掛かってます。
……なんだか正反対で、バルガクにふさわしく変な二人だとは思いましたが、
僕はまだ、彼らの本当の素性を知ってはいなかったのです――。