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ネガティブな僕と、中二病っぽい彼。  作者: ホワイト大河
第一章 変わること、変わらないこと
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光と影(10)


「テル君、また昨日みたいに食べられなくなっちゃうからさ、早くお昼食べた方が良いんじゃない?」

「……綿華さん、何でまた僕の所に~?」

「何となくよ、困ってるんじゃないかなーなんて思ってさ!」


綿華は購買で買ったらしいメロンパンを頬張りながらそう言った。

困ってる、って感じるんだったら、放っておいてくれたらいいのに。

……あんな衝撃的な場面を見せつけられて、

逆に冷静でいられる人が居たならば、僕はその人に会ってみたい。


鈴木美沙子と名乗ったあの女は、

どういうつもりで洋次に近づいたのだろうか……?


「鈴木美沙子に野上結衣、ついでに織田直樹か……」

「……え?」

「いや、変な転校生多いわよね?七人いるんだっけ?」


僕の考えている事を読んだのかという程に、綿華は言った。

ついでにそう言った後、彼女は教室を見渡した。


「うちのクラスの二人は分かりやすいのにね。奥野君に工藤君。どっちも、熱血系でバリバリじゃない?」

「……確かにね~。」


軽音に誘って来た奥野はともかくとして、

工藤というもう一人の転校生も、熱血でうるさいタイプだ。

僕は極力近づかないようにしている。席も離れているし接点もない。


「特に、あの鈴木と野上の二人は得体がしれないわ。こんな時期にこんな学校に転校してくる女子なんて、ロクな奴じゃないわよ。」


そんなロクでもない奴と、どうして洋次は一緒に居るのだろう。

……先ほどの二人の様子が、まだ頭から離れなかった。



「ところでテル君、まったく関係ないんだけどさ、中学の時、あるカップルが居てね?」

「……え、うん~。」

「二人はどっちも、お互いの前で強がって、自分の気持ちとか、相手に望む事とか、そういうのを隠して恋愛してたんだって。」


急にそのカップルが、僕らに起きている事と重なった。

……いや、違うか。洋次には相談しろよ、って言ってもらってるんだし、

勝手に自分の気持ちを隠しているのは、僕だ。


「彼氏の方が他の女の子と一緒にいても、彼女の方が他の男の子と仲が良さそうでも、二人とも特に何も言わなかったんだって。」

「……それで~?」

「結局別れちゃった。お互いの嫌だなって気持ちを隠したままだから、気づけば会うたびに嫌な気持ちになるようになっちゃったみたいでね?」

「……そうなんだ~。」


心がズキッと痛む。でも、僕は洋次に会うたびに嫌な気持ちはしていないし、

むしろ洋次ともっと会いたいとさえ思う。

……僕がそう思っているのに、洋次が「お嬢」にかまけてたなんて、

少し信じられない話だから、僕は自分の目を疑っているんだ。



「ねえテル君、我慢しちゃだめよ?言いたいことがあったら言わないと、後で後悔する事の方が多いんだから。」

「そうだね~。何かあったら、言ってみるよ~。」


前髪のハネを直しながら、僕はちょっぴり笑って答えた。

……言えるわけがない。そんな風に思いながら。

察しがついたのか、綿華は少しため息をついて、

残った他のパンを次々と広げて食べ始めた。

僕も弁当を広げて、少しずつ食べ進める。


その間にも、洋次は離れていく――。



  ○   ○   ○   ○   ○   ○



『転校生の女、か。』


帰りも遅くなって洋次と会えなかった僕は、

この不安をどうにかしたくて、最後の砦、良助に電話をしていた。


「……もちろん洋次の事は信じてる、けど~。」

『分かってる。自分が軽音に集中してる間に、洋次の気持ちが離れないか心配なんだろ。』


余計な説明が無くとも、全部を理解してくれる良助は、

間違いなく、僕にとっては最大の理解者だ。


『お前自身の行動も、洋次から見てどう映ってるかは知らないぞ。』

「……え?」

『あのギターの奥野って奴と、随分親しげらしいな。』

「そんな事ないけど~?」

『見てれば分かる。きっと洋次は俺以上に分かってるさ。』

「……そうかな~?」

『そうだろ。』


少なくとも今僕は、奥野に何かしらの感情を抱いてはいないし、

ただ奥野は、僕が思っていたのよりうっとうしい存在ではなく、

僕のテンションにある程度理解を示してくれる、

あと、遠慮の要らない存在だという事も分かった。それだけだ。


『お前は意外と、自分が許した奴とあっさり仲良くなるからな。』

「……え~?」

『一方で、興味の無い奴とはとことん仲良くならなかったな。』

「何それ~?……慎悟の事~?」

『いや、今はその話はやめておこうか。』


良助と洋次、同じ体育会系で似たタイプの二人の仲を、

引き裂いた「あの事件」。僕はうっすら思い出していた。


『とにかく、もしお前らが幼なじみの延長で付き合ってたんなら、これでおしまいというわけだ。テルには奥野、洋次には鈴木。お似合いの相手が出来たって事だろ。』

「……お似合いって……」

『冗談だ。だが、幼なじみの延長なら、って部分は本当だ。お前らの関係がどう変わるべきなのか、考えた方が良いんじゃないのか。』


カナちゃんの言葉と重なる。

僕と洋次の関係は、幼なじみの延長に過ぎないのだろうか。


『いい加減、ズルズルと引きずるのは終わりにして欲しいな。』

「……僕と、洋次のこと~?」

『それ以外もある。俺も決着をつけなければならねえって事さ。』

「……?」

『じゃ、俺も忙しいからな。後は自分で考えろよ。』

「え、ちょっと良助~。」


非情にも電話は切れた。それから良助にはもう繋がらなかった。

他人に頼ってばかりじゃ、駄目だという事なのだろう。

……良助が何に決着をつけようとしているのかも気になったけれど、

今の僕はそれどころじゃなかった。


洋次の表情や姿が、頭の中で現れては消えていく。

時にはデートの約束をしたり、勉強会を約束したりして、

そのまま洋次の家で体を重ねることだってあったけれど、

一緒に会う機会がなければ、そんな約束だって出来ない。


洋次が踏み込んでくるのを待つのか、僕が踏み込んでいくべきなのか、

何が正解なのかはわからないけれど、

このまま待っていると、何か嫌な事が起きそうな気はしていた。


「軽音部結成!」とペンで上書きされた新しい写真が、

机の上で光を受けて輝いている。

僕は奥野の隣で、少なくとも自然な表情で、笑っていた――。


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