ネガティブ・ニューカマー(2)
始業式を終えると、クラスごとにバラバラに教室に戻って行くのですが、
何となく達也さんを探していると、イケメン織田さんが横にきて、
イケメンスマイルを飛ばしながら話しかけてきました。
「落合恒太だっけ?なんて呼んだらいいかな?」
「豚とかゴミとか……あ、いや、何でも大丈夫ですよ。」
「それじゃ、恒太だ。俺の事も直樹で良いぜ。」
「あ、はい……」
日陰者の僕には、織田さんの笑顔はいちいちまぶしすぎます。
彼はまたスマイルを飛ばしながら、矢継ぎ早に聞いてきました。
「その敬語っぽい喋り方は何なの?クラスメイトだから気にすんなよ。」
「あ、この敬語はただの癖ですので、大丈夫です……」
「そうなの?ま、いいけど。」
さ、最近の子ってこんな感じですぐ打ち解けられるんですね。
挙動不審になってる暇もなく、織田さん改め直樹さんにペースに奪われます。
「この学校ってやたら男子多いよな。男子校だったんじゃないだろ?」
「よく分からないんですけど、男女比7:1らしいですよ。」
「なんかバランス崩壊してるな。」
「……まあ、学校名も「BL学園」ですからね……多くの人はバルガクって言ってますけど。」
「ん?それがどうかしたの?」
……もしかして「BL」を知らないのでしょうか?
真っ直ぐに顔を見つめ返されて、僕は慌ててしまいました。
「えっとその……なんか、不思議な恋愛をする人が多いみたいですよ?」
「不思議な恋愛って?」
「ええ、あの……ど、同性同士の。」
「ああ、いろんな奴が居るんだな。」
……うん、えっと……。
こういうことを真面目に話すのが恥ずかしいのって、僕だけですか?
そんな時、ぼんやりと前の方を見ると、
達也さんが前後の席で一緒だった方とお話をしながら歩いてました。
自称ぼっちという割には、普通に人と話せるんだ、と思うと同時に、
なんとなく……モヤモヤしました。
達也さんともっと話したいですが、同じクラスになったとはいえ、
そう簡単にいくわけじゃないんですね……なんか納得しました。
それに、今隣にいる直樹さんにも悪いですし……、
と思っていると、直樹さんは僕の方をじっと見ていました。驚いたわ。
「え、あ、なんか黙ってすみません。」
「いや、ボーっとしてたから。」
「すみません、えっと何の話でしたっけ……?」
「恋愛の話だって。恒太は好きな人居るの?」
ド直球すぎて吹きました。いや吹くほどの事でもないですね。
でも今達也さんの事を見ていたので、なんか急に熱が上がってきて、
顔が真っ赤になるのが自分でもわかりました。ごまかさねば。
「えっと、い、いませんよ?み、みんなのアイドルなので……」
「ふーん。」
よしごまかせた……あれ!?
とっさの行動が苦手な僕は、ごまかすのもとっても苦手なんですが、
今ごまかせたんですかね?直樹さんはそれ以上聞いてきませんでした。
それとも僕を思いやってくれたんですかね?その思いやりが辛いわ。
急にいたたまれなくなったので、僕も無理矢理聞いてみます。
「直樹さんは居ますか?……っていうか、転校してきたから……前の学校に居ましたか?」
「いや、俺は居ないよ。」
ちょっと意外でした。彼女の一人や二人いそうなイケメンですが、
人は見かけによらないって事なんですかね?
さて、教室に着いて、とりあえず座ったわけですが、
それからも直樹さんは教室の場所とか新しくできた食堂の事とか、
先生が来るまでの間とにかく質問攻めを続けて来て、
僕はぶっちゃけ疲れました。この質問コーナーつらすぎ。
ここまで話してみて何となく分かりましたが、この人純粋かつ奔放です。
達也さんとうのぽんの要素をそれぞれちょっとずつ取った感じですね。
なんか割とすぐ打ち解けたのもそのせいですかね?
先生が教室にやって来て、簡単にHRを済ませて、
僕らはすぐに解散になりました。明日は休み明けテストです……。
直樹さんと別れた後、すぐに達也さんを探したのですが、もう帰っていて、
僕はしょんぼりしながら、部活へ向かいました。
僕の所属している野球部は明日行われる入学式の準備に駆り出され、
体育館を掃除して椅子やシートを設置した後、
今度は自分たちの新入生歓迎会の打合せをしました。
僕はただでさえ万年ベンチ(どころかそれにも入れない)男なんですが、
新入生のホープが入って来たら余計肩身が狭くなるわけですね。
それから自主練になったものの、なんだか練習に身が入らず、
疲れだけが体にたまっていく気がして、年を取ったな……と感じたので、
他のチームメイトが徐々に練習を切り上げ始めたのを見計らって、
僕も逃げるように寮へと帰りました。
寮の部屋割りは変わって、新入生と同じ部屋になったんですが、
(新入生の寮生は、入学式より先に入寮している場合がほとんどです。)
同じ部屋になった一年生は180cmを超える背の高い男で、
ガタイも良い一方、無口で愛想が悪く、
去年同じ部屋だった某先輩を思い出しながら、
僕はとりあえず春休みの宿題をもとに勉強してみました。
夕方になり、今日一日で疲れたなあと思いながら食堂へ行くと、
いつもと変わらない席でうのぽんがラーメンをすすってました。
僕に気づいたうのぽんは合図を送って来ました。相変わらず食べ方汚い。
ラーメンが顔中に飛び散ってます。どうやったらこうなるの。
「恒太ハロハロー。新生活楽しんでるじゃん。」
「どこがですか?なんか疲れましたよ……」
「それが楽しんでるって事じゃね?とりまお疲れ。」
……変わらないのはうのぽんだけですね。なんかホッとしました。
寮でこうしてうのぽんと顔を合わせると、なんとなく落ち着きます。
「そういやうちのクラス、神様以外に洋次君とヒデも居たよ。」
「ああ、そうなんですか……」
「恒太んとこはどーなの?達也以外に誰かいた?」
「……しいて言うなら転校生が居ました。イケメンスマイルが眩しくて、なんか名前が近くてすごく話しかけられました。」
「へー。こっちも転校生居たけど女子だよ。で、そのイケメンに惚れたの?」
「僕のことなんだと思ってんですか。……僕には……その、達也さんが居るので……」
「頑張れー。」
「あれ、なんで冷めてるのかな?本気で応援して?」
「いやいや、冗談じゃん。」
「はあ……ただでさえ今日ほとんど喋れなかったんですよ?イケメンに邪魔されたせいで……」
……何となく沈黙が出来ました。
邪魔された、なんて言いすぎかもしれませんね。
「まーでも最初だけじゃね?イケメン君も恒太みたいなイモに、そんな興味もないんじゃね?」
「なんか普通に傷つくんですけど……そうですよね、そう信じてます。」
「グッドラック。」
うのぽん、ほんと適当です。
……明日には達也さんとちゃんと話せるかな?
正直、不安は残ったままです。