表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネガティブな僕と、中二病っぽい彼。  作者: ホワイト大河
第一章 変わること、変わらないこと
19/155

光と影(9)


朝。いつも通りの太陽に呼ばれて、いつも通りの時間に家を出た、

住田洋次は一人、通学路に足を進める。


奇妙に思ったのはすぐだった。達也との合流地点で達也が来ない。

不真面目な達也だが、寝坊したことは恐らくほとんど無かったため、

住田は少し待つことにした。そして携帯を見た。

よく見ると、メールが溜まっている。

疲れて寝てしまった昨日の夜に、二件メールが届いていた。


それぞれ、達也とテルから。そして内容は同じだった。

「朝練があって、一緒に学校に行けない。」


住田洋次は一つため息をついて、ゆっくりと歩き出した。

足を進めながら、空を見上げると、太陽が眩しかった。

しかしその形はしっかり視えた。太陽はいつでも自信たっぷりだ。

……自信たっぷりで、それでいて、孤独だった。



住田はそれからいつもよりも足を速めて、学校へと向かった。

彼はちょっとだけ、テルも達也も没頭する軽音楽部が、

どのようなものか見てみたい、という単純な好奇心に駆られていた。


学校に着いても、自分の教室のある北校舎には向かわず、

新設の東校舎に入っていき、その最上階を目指した。

奥の教室からはバンドの音が響いていて、

隠れて中の様子を覗き見る新入生の姿もいくつかあった。

ガタイが良く、背も高い洋次は、その新入生には紛れられなかったが、

こっそりと開いた戸の隙間から、中の様子を覗き見た。


達也が居た。必死にギターを弾いている。

同じクラスに居た不思議な女子、野上からアドバイスを受けているようだ。

そして反対側にはテルが居て、一生懸命楽譜を見ている。

その彼と顔を近づけるようにして、奥野なる男が立っていた。

二人は一緒に楽譜を読み合わせた後、何か面白い事があったらしく、

顔を見合わせて楽しそうに笑った――。




  ○   ○   ○   ○   ○   ○



太陽が雲に隠れる。いつも見えていた、太陽が見えなくなる。

同じ建物に居るはずなのに、同じ学校に居るはずなのに、

こんなにも遠い。僕の胸は張り裂けそうで、限界だった。


隠れているのは誰だ?洋次か?違う、きっと僕だ。

僕が自分から、洋次のもとから遠ざかろうとしている、

そんな風に思われたって、今の状況では仕方がない。


昼休み、綿華がまた僕の席に近づいてくるのが見えたけれど、

対照的に僕は席を立って、自分の席から離れた。

恥ずかしい事に僕が相当思いつめた顔をしていたのか、

背後の綿華が足を止めたことに、僕は気が付いていたけれど、

そんな事はお構いなしに、僕は隣のクラス、一組へと向かった。


そこにならきっと洋次が居るはず。

でも、大勢の友達に囲まれているかもしれない。

太陽のような彼は、友人を惹きつける光を放っているのだから。

そんな時に僕が、影の中から踏み出していったらどうだろうか?

……やっぱり洋次の邪魔に、なるんじゃないだろうか。


教室の前で、僕は本気で悩んだ。

ここで洋次に一言言いたいがために、洋次の平穏を乱すのか。

「誤解だよ、これからも一緒に居てね。」バカバカしいセリフだった。

メールで言えばいいかもしれない、でもどうやって説明したらいいだろう。

洋次の顔を見れば、目を見れば、言えるかもしれない。

……嘘つきな僕だけど、少なくとも勘違いを解けるかもしれない。


僕は一組のドアに手をかけて、思い切ってそれを開けた――。




「あらん?どなたですの?私の前に立つのは……」


鮮やかな緑色の髪に、派手な青いカチューシャ。

そしてその髪は何重にも結んであり、制服は少しレースを混ぜて崩し、

何もかもを見下して、ゆるやかに笑う、見覚えのない女。


「……え、え~と……」

「とりあえず、どいてくれません?わたくし、自分の前に他の人間が立つことが世界で一番嫌いですのよ?どなたか存じ上げませんが……」


「おい『お嬢』、また勝手に!」


まるで女王のように振る舞う彼女に、

「お嬢」なんて相応しいニックネームをつけて、

慣れた様子でこちらに飛んできた、その男こそ。


見間違えようもなく、洋次だった。


「……て、テル!?」

「よ、洋次……?」

「お前、何でここに……」

「あらん?洋次の知り合いですの?そうならそうと早く言いなさいな。わたくし、何やら逆賊が攻め込んできたのかと勘違いしてしまいましたわ。」


……状況が飲み込めないまま、僕は立ちすくんでいると、

緑色の髪をした「お嬢」が、礼儀正しく頭を下げた。


「わたくし、鈴木美沙子(すずきみさこ)と申しますわ。先日この学校に転校して参りました。洋次のご友人だったとは……私も殿方にはお世話になっておりますわ。今後とも、よろしくお願いいたしますね?」

「おいお嬢、何言ってんだ!」

「……よ、よろしくね~。」


僕はいつもの、作り笑いをするので精いっぱいで、

それから僕を振り切って、廊下へと出て行った彼女の姿を呆然と見送った。


「それで、どうしたんだよテル?何か用か?」


僕の両肩を掴んで、ムリヤリ視線を戻させた洋次が、まっすぐに僕を見た。

……今の僕には、先ほどの衝撃が強すぎて、何も言うことは出来ない。

しかも、僕が黙っていても、洋次も何も言う事はなく、

「お嬢」との怪しげな関係を、自分から説明することも無かった。


「いや、何でもないよ~。……たまたま、前を通りかかっただけ~。」


自分の前髪を掻いて、目元を隠した。

僕は口の筋肉だけしっかり動かして、笑いを作ってみせた。


「そうか……あ、テル朝練やるんだってな。頑張れよ!」

「あ、うん~。……頑張るね~。」


僕の肩をポンと叩いた彼は、そのまま席へと戻って行った。

意外にも男子の輪の中には戻らず、自分の席へと帰った彼は、

そのまま昼食を食べ始めた。そしてその机にはもう一つ弁当があった。

その弁当は……どこか高貴で、派手な人物のものを思わせた。


これ以上それを見ていると、変になってしまう気がした僕は、

慌てて目を背け、それから一組を後にして、

焦って自分のクラスへ、二組へと戻って来た。


僕は黙って席に着く。

……どうしてもあの女の強烈な姿が、頭から離れない。

どうしてあんな女と、洋次は一緒に居るのだろう。

どうしてあんな女と、洋次は一緒にご飯を食べているのだろう。

……どうして、どうしてどうしてどうして?



「……ル君、テル君!」

「……え?」

「どうしたの?ボーッとしちゃって。ほら、お昼食べましょ!」


目の前の綿華が、ちょっぴり不器用に、笑った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ