表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネガティブな僕と、中二病っぽい彼。  作者: ホワイト大河
第一章 変わること、変わらないこと
16/155

光と影(6)

疲れている僕の身体にムチ打って、僕は鞄を片手に学校へと向かう。

柔らかな朝の日差しは僕にはちょうど良くて、

安らぎを得られなかった自分の身体を、無理にでも動かすことが出来た。


今日はいよいよ「新入生歓迎会」。奥野の待ち望んだ発表の日。

その準備に僕が素直に向かっているのは、一人一人の責任が重いからか、

それとも何となく、あの個人プレーな空間が居心地が良いからか。



「テル君おはよー!キーボード運んでもらえるかー?」

「あ、うん~。」


学校に着くや否や、譜面台を持って渡り廊下を走る奥野の姿が目に入った。

言い出しっぺの彼はやはり準備もいち早く来ているようだ。

かと思えば、織田や野上、なんと達也の姿まで部室にはあって、

時間を守ったはずの僕が軽音楽部の最終到着者だった。


「ようテル……朝からご苦労様だぜ。」

「え、達也もね~。」


達也の前髪が汗で額に張り付いていた。織田と野上も黙々と作業している。

僕もすぐに一団に加わって、まずは自分の担当楽器の運搬から始めた。

徐々に太陽は上がり始め、準備する僕らを照りつけ、

そして校門の辺りが徐々に生徒の声で騒がしくなっていた――。




「新入生歓迎会」の舞台は体育館のステージ。

毎週ホームルームにあてられている月曜の一限を使って行う。

三年生を含む全学年が参加し、多くの生徒は授業が無くなったと喜びつつ、

自分の部活がちゃんとアピール出来るようにと祈っている。

部活を盛り上げるためには、新入生が必要だからなんだろう。

……僕なんかは、面倒にしか思わないけれど。


体育館のステージという限られた場所での部活動紹介、

先に始まった運動部のアピールのほとんどが、

簡単なラリーやパス、キャッチボールをする部員らの前で部長が説明、

という形を取るようで、正直つまらなかった。

野球部、サッカー部、テニス部、バスケ部といずれも退屈だったけれど、

水泳部は、全員水着で肉体美をアピールする作戦で、

ゲイの多いうちの高校はそれだけで盛り上がったようだ。


現二年生であるうちの学年が活躍した場面も多く、

卓球部は、神を名乗る(達也談)上川が現部長と互角のラリーを繰り広げ、

弓道部は、「才女」城崎が見事全ての矢を異なる的の中心に打ち付け、

剣道部は、高校生最強と言われる六道が他を圧倒する戦いぶりを見せた。



「なーテル君!意外と盛り上がってるよなー!」

「そうだね~。あんまり興味ないけどね~。」


話しかけてきた奥野に、率直に答えた。

奥野だって軽音がナンバーワンと思ってるから、今の時間を楽しむよりも、

早く自分たちの出番が来ないかと待ち望んでいるに決まっている。


「そろそろ準備に行くか。」


織田が腰を屈めて近づいてきた。その隣には達也も居た。

くじ引きの関係で、文化部の二番目になった僕らの出番もそろそろだ。

姉和佳子率いる演劇部の、すぐ後にやるのは気に食わないけれど。


舞台袖に着くと、野上がベースを片手に準備を始めていて、

それで僕らを合わせて、軽音部メンバー五人がきちんと揃った。

少し横を見ると豪華なドレスに身をまとった和佳子の姿があって、

僕と目を合わせるなり、ドヤ顔で勝ち誇ったように笑いかけてきた。

はあとため息をつくと、横からポンポンと奥野が肩を叩く。


「姉ちゃんの後って緊張するよなー!」

「え、別に~?」

「あれ、何やんのかなー!テル君の姉さん美人だしなー!」

「何でもいいよ~。自分たちの曲に集中したいし~。」

「おっ、テル君の言う通りだなー!頑張ろうぜー!」


勝手に熱くなる奥野。こういう奴は扱いやすい。

彼と一緒になって、達也も片手を突き上げているのが馬鹿らしかったけれど、

野上は薄笑いし、織田はいつもと変わらない微笑を浮かべて、

二人とも目の前の舞台に、冷めた目線を向ける姿が印象的ではあった。




演劇部がアピールを終えると、舞台が暗いうちに僕らはセッティングを終え、

すぐにライトが点いて、ギターボーカルの奥野が爆音を鳴らした。

ワックスでカチカチに固めた髪を光らせながら、彼は叫ぶ。


「行くぜイチバンボシー!『ファースト★スター』!」


どうやらバンド名らしいその合図とともに、ドラムの織田がスティックを打ち、

先ほどの演劇部が作り上げた優美な雰囲気を打ち壊す。

元々乱暴な音楽は好きじゃない僕ではあるけれど、

僕らを見て、舞台袖で唖然とする和佳子が視界に入ったので心地よかった。


達也はコードを追うのに一生懸命だが、割と様になっている。

野上のベースや織田のドラムは完璧すぎて言うことが無く、

僕もバンドに一体となって、パンクロックのリズムにのめり込んだ。

気づけば数人の生徒は立ち上がっていて、体育館は激しい熱気に包まれ、

次に出てくる吹奏楽部が戦々恐々としている。いい気味だ。


あっという間に曲が終わり、奥野がセンキュー!と叫ぶと、

体育館はワッと盛り上がって、あっという間にライブ会場と化した。

特に話す事を決めていなかった奥野に代わって、織田がマイクを取る。


「軽音楽部は結成したばかりなので、新しい事にチャレンジしたい新入生を待ってます!初心者でも俺たちがサポートするから、どしどし来てくれよな。」


最後にニッと笑った彼の瞳が、何人かの生徒からの甘い歓声を引き出した。

――とりあえず、軽音楽部の「部活動紹介」は大成功に終わった。

部活動紹介が終わった直後から奥野のところに仮入部届が殺到し、

書類の苦手な彼に代わって、織田がそれを次々と処理した。


僕や達也らは、HRの残った時間で舞台上の片づけを始める。

横目で、他の生徒が体育館から次々と撤収し始めていたのを見た時に、

その中に洋次の姿を見つけた。


借りたキーボードは箱に詰めて、後は運ぶだけ。

声を掛けようと思えば、一歩踏み出せばそれが出来る。

毎朝僕らは顔を合わすけれど、今朝は会えなかった。

ちょっとでも良いから、声が聞きたい――。



「なあテル君ー!今日、大成功だったしー!」


それを遮ったのは、ほかならぬ奥野の満面の笑みだった。

僕は少し動揺したけれど、笑顔を作って奥野に答えた。


「……そうだね~。これから忙しくなりそうだね~。」

「確かになー!一緒に頑張っていこうぜー!」


すでに洋次の姿は見えなくなっていたので、僕はそっちに合流するのを諦めて、

奥野や達也らと一緒に楽器を片づけようと、軽音部の部室へと向かった。

……まあ、また洋次と話すチャンスはあるだろうし。


教室に戻ると興奮は冷めて、日常へと戻る。次は理科の教室移動だ。

二年生になって移動が増えたな、なんて勝手に思っていると、

急に後ろから肩を叩かれた。振り返った僕は、不意を突かれた。



「テル君ってあんなロックな音楽も弾けるのね!びっくりしちゃったわ。」

「……え?」


そこに立っていたのは、ふんわりパーマの長髪長身美女。

少しだけ、顔に覚えがあった。……確か、クリスマスに。

彼女は少年っぽい無邪気な笑みを浮かべ、口を開く。



「あ、ごめんね突然。あたし、綿華小百合(わたはなさゆり)。よろしく!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ