表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネガティブな僕と、中二病っぽい彼。  作者: ホワイト大河
第一章 変わること、変わらないこと
15/155

光と影(5)

明るい日だった。けれど、僕の心の影までは、照らしてくれなくて。



「おっすテル!そんじゃ、行くか!」


玄関先で僕が出てくるのを待っていた洋次は、元気よく笑っていた。

春になったばかりなのに、もう日に焼け始めている肌が、

太陽の日差しを浴びて、いっそう輝いていた。


電車に揺られて少し離れた動物公園に向かう。

足を組み、窓の外を眺める洋次の目は、どこか冷たく映って、

会話のない時間が、やけに長く感じた。


「……軽音部、どんな感じなんだ?」


僕の方を見ないまま、洋次がそう尋ねた。

一瞬、僕の頭に奥野の顔が浮かぶ。


「……そこそこ頑張ってるよ~。」

「でも、転校生中心の部活によく入ろうと思ったよな!」

「う~ん、それはなんとなくかな~。」


交差している僕の指の隙間から、少し汗がにじむ。

吹奏楽部は、女子がそれなりに多い場所だったからか、

たいして洋次も興味を示さなかったものだけれど、

軽音楽部は男子中心の社会だから、雰囲気は変わって、

そして洋次も、洋次の知らない男子に僕が囲まれている事に、

少なからず違和感のようなものを覚えているらしかった。


洋次の目は電車の窓の外を追い続けていて、どこか上の空で、

僕をちゃんと捉えることはなかった。

……思っていることがあるなら、言ってくれたって良いのに。


そんなことを考えるのが間違っているのだろうか。

洋次はそんな風に考えていなくて、ただこのデートを楽しんでくれていて、

僕のためを思って、色んなことを思いめぐらせてくれているのかもしれない。

……疑心暗鬼で、掴みどころのない僕の影が、嫌になる。



「テル、あんまり動物好きじゃなかったよな?」

「……まあ、どっちかというとね~。」

「そしたら遊園地の方行こうぜ!お化け屋敷とかさ!」


僕らが訪れた動物公園は、動物園と遊園地が一体になったテーマパークで、

混んでいるという程ではないものの、客はそれなりに入っており、

見たところ、家族連れが多いようだった。


洋次が先々進むので、導かれるままに洋次の後をついていく。

……そんな自分は、客観的にはどう映っているのだろう。

周りに男二人の客は居ないようだ。

こんな時、自分が女だったら、何も考えずに洋次と一緒に居られるのか。



「テル、なんか今日元気ないか?」

「えっ……、そんな事ないよ~。」

「そうか?軽音楽部でもし何かあったなら、言えよ?」

「いや、そんなんじゃないってば~。」


やはり洋次の口から軽音楽部、というキーワードが度々登場するのは、

きっと僕の気のせいでは無いのだろうけれど、

洋次の言葉を僕がさらに追及する事は出来ないから、

その先に踏み込んでこない洋次の事を気遣って、僕も言わないでおく。

……良助いわく図々しい部分もあるらしい洋次だけど、

そんな彼は僕を質問攻めにする事は、決してなかった。


遊園地の中へと足を踏み入れた途端に、洋次がまっすぐ前を指さした。


「とりあえず、あれだろ!」


ジェットコースター。僕はあまり得意ではないけれど、

どうしても無理、という程には苦手ではないから、

僕はちょっと困った顔をしてうなずいた。


あまり会話の無いまま、順路をたどって乗り場へ向かう。

……こうしてひたすら歩いていると、文化祭の時の催しを思い出す。

僕たちはお互いの関係を模索するのに一生懸命で、

あまり催しに意識が向かず、心から楽しむことは出来なかった。


……僕らの関係は、あの時から何か変わったのだろうか。



「日曜なのにそんなに客が居ないよな!」

「……そうだね~。」

「あんまり並ばずに済むからラッキーだろ!」


そんな会話をしながら、コースターに乗り込んだ僕らは、

少しずつ胸が高鳴るのを確認しつつ、座り込んで安全バーを下ろす。

いつしかコースターは高い坂道を上がり始め、僕らに高揚感をもたらす。


「この瞬間が一番楽しいよな!」


いつもと同じテンションで洋次が笑う。

徐々に最高点へと近づくコースター。それは恋愛に似ていた。

――片思いの純粋なドキドキする気持ち。

僕には無かったけれど、それが一番楽しいのかもしれない。

……だから、いま僕は恋愛を楽しめていないのかもしれない。


コースターが角度を変える。勢いを伴って降下し、

それから縦横無尽に宙を駆け巡る。

最初の勢い以外は正直拍子抜けで、進む先の見えている「恐怖」に、

僕は笑い出したくなる気持ちでいっぱいだった。

……僕が恐れている「恐怖」は、先の見えない「それ」だから。



「ま、子供にも楽しんでもらえるくらいのレベル、って感じだったな!」

「……そうだね~。あんまり怖くなかったかな~。」

「お、じゃあ今度はもっと怖い所行ってみようぜ!」


ジェットコースターから降りた洋次が、元気なまま僕に話しかける。

「今度」を作ってくれるのは嬉しいけれど、

きちんと僕がそれに、楽しさを伴って応えられるかは分からなくて、

それがまた僕を、少しずつ苦しませていた。



それからお化け屋敷や迷路、とひと通り回ったけれど、

カップルが楽しめそうなアトラクションだったにも関わらず、

僕はあまりそれを楽しむことが出来なかった。

洋次にも僕の憂うつは多少伝わったのかもしれなくて、

彼の口から、ちょっとずつ僕を気遣う言葉が増えてきた。


遊園地内で夕飯を食べ、少し夜景を楽しんだ後で、

僕らは帰る電車へと乗り込んだ。

夜の光は淡くて、今にも消えそうで、僕はその儚さが好きだった。


「……なあテル。」


あまり元気のない声で洋次が僕を呼んだ。

僕は精一杯の笑顔を作って、彼の横顔を見つめ返した。


「なんか知らんけど、あんまり抱え込むなよ!」

「……気を遣わせちゃって、ごめんね~。」

「何でも相談しろよ!そのために俺が居るんだからな!」


結局、我を忘れて盛り上がる、なんてことは出来なかった僕は、

洋次とちゃんとデートを楽しめた自信が全くない。

もうさすがに時間も遅いし、どちらかに家に行くことなく、

このままそれぞれの帰路へと着くのだろう。


肌を重ねることでしか、気持ちを実感できないという僕の悩みは、

きっと洋次には永遠に伝えられないな、と思った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ