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姫騎士物語  作者: くるー
第三章 抱えゆく選択
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小心翼々とした共有その1

大変不評なエピソードですが、作者の我が儘であえてこのまま掲載を続けます。

忠告させて頂きますと”他の男の存在は不要”みたいな方は、読み飛ばした方がいいかもしれません。ご判断はお任せします。

また、別サイトでは、表現を少しマイルドに改変して、投稿しています。

 ―――数十分後。王都アンバルシア北区、王女親衛隊兵舎改め、赤鳳騎士団寮


 先の襲撃事件でほぼ半壊となった王女親衛隊兵舎は、王女親衛隊が改めて赤鳳騎士団として始動した事、フィオナの加入によってゾフ家という、まともな資金提供者を手に入れた事で、予算にわずかな余裕が生まれて、この1ヶ月近く建て直しに入っていた。


 まだ細かい部分にまで手は届いてないものの、ようやく人が住めるようになったのは、つい先日の事だ。とはいっても、基本的な構造はそのままに、突貫で外装や内装を整えた程度の簡易な改築で、建て直しは終了予定になっている。


 何故なら、ここは彼女達にとっては訓練場、一時的な仮住まいでしかないからである。赤鳳騎士団は親衛隊として背景が強い。本格的に動くようになれば、アイリーンの側近としてこの場所を離れて過ごす事の方が多くなるから、この場所が立派である必要が少ないのである。


 ただ、もしそうなった時に、マテウスは自らの身の振り方が気にならないでもなかったが、(建前上は教官なので、ずっと彼女達の傍にいる訳にいかないので)心に決めた所でその道を進める訳でもなし、今も自らが選んだ道を歩いているとは言い難い。そしてなによりそんな先の事に頭を悩ませるのも馬鹿らしいと考えるような……彼はそんな男であった。


 眠気に晒された頭でボンヤリとそんな事を考えていたマテウスだったが、自室の扉を開こうと手を掛けた所で急に目が覚める。誰もいない筈の自身の部屋に、人の気配を感じたからだ。マテウスはまず、なんらかの敵の可能性を考えるが、兵舎内の気配からそれはなさそうだと否定する。


 では、と、思い浮かべたアイリーンの顔だったが、彼女の訪問予定は来週辺りだった筈と、思い直した。後は騎士団関係者の顔をそれぞれ思い浮かべては並べていって、たった1つだけ……以前にもあった嫌な可能性を覚えながら、音を立てないようにゆっくりと扉を開けた。


 部屋を覗き込んで、マテウスが普段使っているベッドに視線を向けると、燭台の小さな光に照らされたそこには確かな膨らみが……そしてベッド周囲の床には、身に覚えのない男物の服と女物の服が脱ぎ散らかされていた。


 その光景で全てを察したマテウスは、警戒を解いて足音を鳴らしながら近づいて掛布を引っぺがす。ベットには大きく口を開いていびきを掻く見ず知らずの男と、その男に寄り添って猫のように体を丸めて眠るロザリアの姿があった。勿論、2人は裸だ。


「はっ? へっ? ここは……ちょっ! 待て、待ってくれっ! これは違うんだ。俺は誘われてここに……」


 覚えのない天井。酒の入った寝起き。夢のような時間を過ごした後に現れた、2m近い荒事に慣れてそうな厳つい顔のアップ。大体の男はこういった場面に遭遇すれば、こういう反応をするだろう。これで3度目ともなれば、マテウスにもこの反応は予想出来たので、状況を利用する機転も容易い。跳ね起きた男の左肩に右手を置いて、普段よりも1つ低い声で、過剰に険しい表情を浮かべながら話しかける。


「静かにしろ。1度は許してやる。だが、もう1度俺の女とこの場所に近づいたら……分かってるな?」


「イヒッ……は、はいっ! 絶対、ぁ痛っ! すいません、すいませんっ!!」


 マテウスが男の肩を強く掴むと、彼は力の差に愕然として痛みに身を崩しながら何度も平謝りをした。続けてマテウスは彼をベットから引きずり下ろす。そうすると男は、涙目になりながら更に平謝りを繰り返し、散らかった衣服を搔き集めて着替えようとする。


「目障りだ。とっとと失せろ」


「はっ、はいっ!」


「静かにしろ。何時だと思ってんだ」


「ハイ」


 そうマテウスが追い立てると、両手に衣服を抱えたまま、全裸で部屋を飛び出していった。マテウスとてあの男に罪がないのは分かっていた。少々可哀想な事をしている自覚もあったが、これぐらい強く脅しておかないと、ズルズルと関係を断ち切れないのだ。ロザリアはそういった美貌、魅力を兼ね備えた魔性であった。


「おかえりなさい、マテウスさん」


 一仕事終えたマテウスがベッドへと腰かけると、ロザリアは後ろから彼の背中にもたれ掛かり、首に腕を回しながら、その胸板に指先を走らせる。少しの酒気と女の汗とが混ざった色香を放ちながら、肩に顎を乗せて熱い吐息を耳に噴き掛けて、甘えた声で囁き、胸のたおやかな膨らみを必要以上にマテウスの背中へと押し付けるのだ。


「随分遅かったですね。待ちくたびれちゃいました」


「どの口で……まぁいい。いや、良くないか。以前にも伝えたと思うが、君個人が誰とよろしくやろうと構わないが、俺の部屋に男を連れ込むのは勘弁してくれ」


「まぁ、感心しないわ。私が男を連れ込むだなんて。彼が勝手に舞い上がって、いてきたんですよ? 私はこうやって……」


 ロザリアは両手でマテウスの顔を捕まえて、自らの顔へと向ける。そして普段は大きく柔和で少し吊り上った瞳を細め、婀娜あだめいた目付きを作って、瑞々しい唇を開く。


「ちょっとからかっただけです」


 ロザリアのげんは、そのまま真実なのだろう。たったこれだけの仕草でどんな男をも、燃え上がらせる事が出来るのが彼女なのだ。ロザリアがうっすら細めた瞳を再び広げると、泣き黒子ボクロの位置がまた少し下へと下がる。


 マテウスは彼女の瞳の色がエメラルドのような緑であると、今更ながらに知る事になった。そうする事によって、自分が彼女に魅入ってしまっていた事を自覚する。


「……なんにせよだ。前回までの宿舎代わりに使っていた宿屋と、この兵舎では事情が違う。この場所に住む女騎士は、男を連れ込むような女だと、噂が立つような真似は、彼女等にとってもアイリーンにとっても、少々可哀想だとは思わないか?」


「はーい。反省してまーす」


 不貞腐ふてくされた声を上げると共に、ロザリアはベッドへ横になり、布団にくるまってしまう。ここまでの態度を取られれば怒りを覚えそうなモノだが、マテウスはそうなった場合怒りに任せて彼女を襲ったり、傷つけたりしてしまう危険が先立って、そうはならかなった。


 一呼吸を置いて頭を冷やした後、ベッドから腰を上げてロザリアの衣服を手に取り、彼女へと手渡す。しかしロザリアはそれを受け取ろうとはせず、横になったまま布団から顔だけを出して、拗ねた表情を浮かべる。


「ただ一言……俺が抱いてやるから他の男とは寝るなって、どうして言ってくれないんですか?」


「ヴィヴィアナに殺されたくはないからな。それに、嘘は苦手なんだ」


「嘘吐き。俺の女って言った癖に」


「苦手なだけで使わないとは言ってない」


「ふふっ、変な屁理屈っ……ねぇ、マテウスさん。もしかして、なにかありましたか?」


 察しのいい女だと、マテウスは内心で毒吐いた。彼自身は平然と受け答えしているつもりではあったが、どうしてもロザリアと話している間、彼女の経歴が頭をチラついていたのは事実だったからだ。


「どうしてそう思った?」


「今夜は少しだけ、優しい気がします。いまだに私を追い出そうとしませんし」


「今の時間帯に強引に部屋へ返して、君の部屋の隣で眠るヴィヴィアナに気づかれると、面倒だからな」


「……私じゃ、力になれませんか?」


 マテウスは迷っていた。ここで誤魔化す事は可能だが、結局それは問題の先送りでしかないからだ。元々、ロザリアには相談する案も浮かんではいた。そう考えると、邪魔の入らない今のこの時間はベストの選択ではないだろうか? と、思ったのだ。


「今、君をここで抱いたとしても、俺では君を満たす事は出来ないだろう」


「? どういう……」


「力になれないのは、俺の方だ。ロザリア・カラヴァーニ」


 そうしてマテウスは、ヴィヴィアナとロザリア。彼女等2人が隠し通してきた家名を使って呼びかけた。

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