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姫騎士物語  作者: くるー
第四章 崩してまた積み重ねて
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それぞれの前線その2

―――同時刻、理力付与技術エンチャントテクノロジー研究所アンバルシア支部、4階会議室前


「ちょっとエステル。もう少し加減しないと、危ないんじゃない?」


「これ、下手すると床が抜けてしまいそーやね」


 粉塵が晴れた先、襲撃者達を前にして、自分達を守るように立ちはだかるエステルに向かって、ヴィヴィアナとフィオナが声を掛ける。頭を低くして殲滅の蒼盾(グラナシルト)の衝撃に備えていた2人は、粉砕した壁の破片や、振動で砕けたガラスの破片に気を付けながら辺りを見渡して、ゆっくりと立ち上がる。


「その辺は加減しているから、大丈夫であろう。それに、これだけ派手に音を出した方が、この場の異変を周知させる事が出来るからな」


「エステルのわりに意外に考えてたのか」


「でもこれ……後で請求が来たりせんかなぁ」


「……そっ……しょ、しょれは……その、奴等を捕えれば問題ない筈だっ」


((考えてなかったんだ……))


 建造物の被害はさておき、エステルが殲滅の蒼盾(グラナシルト)理力解放インゲージさせた結果、襲撃者は迂闊うかつに近づけなくなっていた。誰もがあの爆発には巻き込まれたくないだろうから、当然の反応である。だから、エステルへと各々が銃型装具を向けて発砲するのだが……


「皆、私の後ろにっ!」


 エステルの理力解放が、大盾の倍以上に広がった理力の障壁を作り上げる。次々と打ち込まれる火球のことごとくを、立ちはだかる理力の障壁の前にして無情にはばみ続ける。


 その様子から襲撃者達は自身らの装具であの壁を越えるのは不可能だと悟るが、かといって、エステルに近づくような選択は出来ずに、場は膠着こうちゃく状態に陥った。


「このまま私が近づいて、奴等を全て切り捨ててくれようかっ」


「止めときなって。そうなったら、アイツらもラインを下げるだけでしょ。それに、ここを動くと姉さんやアイリやパメラ。あと……ナンシーさんと合流しにくくなるだろうし、私達はここを死守するだけで十分だって」


「頑なにマテウスさんの事を挙げないのは置いとくとして、このままじゃエステルちゃんの装具が理力切れを先に起こしたりせーへん? 少しはこっちからも反撃せんと」


「それはそうだけど……」


 エステルの背中と背中合わせに、姿勢を低くして方針の相談を続けるフィオナとヴィヴィアナ。だが、結局どうするのか最善か分からず、会話が途切れてしまう。そうしてヴィヴィアナは、自らが手にする真紅の一閃(シュトラルージュ)に視線を落とした。


 本来の自分なら、この弓を使って理力の壁の上から襲撃者達を倒す事ぐらい出来たのだろうが、人に向けてこの弓を使おうと考えるだけで、手が少し震えるのを覚える今の自分では、どれ程の事が出来るかどうか……ヴィヴィアナは自信が持てなかった。


「あ……あのっ、レスリーも……」


 そうしている間に、会議室に隠れていた筈のレスリーが中から顔を出す。制止の言葉を掛ける前に放たれる、襲撃者達からの一斉射撃。慌ててヴィヴィアナはレスリーの手を掴んで、エステルの背後、理力の壁の加護下へと引きずり込んだ。


「あっぶないなぁ。ちょっと、レスリー。貴女は部屋に隠れてなさいって言ったでしょっ?」


「す、すいません。すいませんっ。でも、レスリーも……そのなにかお手伝いをっ」


「レスリーちゃん、まだマトモにそれの理力解放、出来ひん……やなくて、出来ないんでしょう? 隠れておいた方がえぇ……いいって」


「すっ、すいません……」


 ますます身動きが取れなくなってしまって、頭を抱えるヴィヴィアナ。そうしている内に、襲撃者達の一部が背後の階段へと姿を消す。増援を呼ぶ気だろうか? それとも……


「ヴィヴィ殿っ。奴等、戦力を分散させ始めたぞっ。もしかして、背後を取りに来たのではないのか?」


「分かってる。でもあそこから階段降りてだと、1度別館へ入らないと背後は取られないから、まだ余裕はあるよ。今の内にこっちから仕掛ける事が出来れば……」


「つまり、この理力の壁の外からあの人達をやっつければええんよね?」


「それを今から考える……って、フィオナ。出来るの?」


 フィオナはヴィヴィアナの問いに、言葉ではなく行動で答えを返す。左腰に差していた金剛なる鋭刃(ダイヤレイザー)を引き抜き、理力解放。すると、さやのように石の塊がレイピアの剣先だけを覆った。


 更に彼女は、片手を理力の壁の外へと伸ばし、剣先を襲撃者達へと向けると再び理力解放。そうする事によって、鋭く尖った石の塊が放たれた弾丸のような速さで襲撃者の肩口に食い込み、1人を倒してみせた。


「流石、フィオナ殿っ。その装具にはそんな使い方があったのかっ!」


「手順が必要やから連続って訳には、いか……いけないんだけどね。続けて……わっ!?」


 続けてフィオナが立ち上がろうと瞬間、彼女目掛けて激しい火球が一斉に放たれる。その全てをエステルが作り出した理力の障壁が防ぎきるのだが、そんな光景を前に堂々と仁王立ち出来るほどの胆力はフィオナにはなく、尻餅を着きながら大盾の影へと身を隠す。


「ちょっと激しすぎひん? これじゃあ手も足もでーへん」


「でも、こうやって相手の装具の理力を消費させれば、背後を取られる前にあっちの理力層カートリッジ切れを狙えるから、顔を出すだけで十分だから続け……てっ!?」


 ヴィヴィアナがフィオナに向けて声を掛けている最中に、急にレスリーが飛び掛かって来て言葉を遮られる。覆いかぶさってきたレスリーを見上げて、なんでこんな事を……と、問いかけようとした時、レスリーの視線が自身ではなく、壁を見詰めている事に気付いてその視線の先を追った。


「痛っ……ちょっと、こんな時になによ、レスリー。なにかあったの?」


「あっ、あのっ、すいませんっ、でも……そのっ、なにかが、ヴィヴィ様の後ろを通って、それでっ」


「なにかがって……えぇ? 幽霊とかそういう話?」


「そうでなくて、その、あ……あれですっ」


 そうしてレスリーが指差す先をもう1度注意深く見ると、ヴィヴィアナは壁に指先程度の大きさの小さな窪みが出来ている事に気付いた。そしてハッとなってそちらとは逆の方向、中庭を見渡す事が出来る窓側へと顔を向けると、割れたガラスの向こう側から、見えない何かが風を切って自身の横顔を通り過ぎるのに気づく。


 同時に彼女の背後の壁に、小さな窪みの数が増えたのを確認すると、ようやくなにが起こったのかを理解した。


「エステルッ、壁の影まで下がろうっ! 多分これ、外から狙撃されてるっ」


「下がるのかっ? やはり、このまま押し切ってしまった方がいいのでは?」


「もうっ、どうして貴女はそんなに突っ込みたがるのっ? この部屋からはなるべく離れないって言ったでしょ、ほらっ、早くっ。エステルがやられちゃうと、私達皆がやられちゃうんだからっ」


 ヴィヴィアナはどこから狙撃されているのか、その場所までハッキリと理解している訳ではなかったが、壁に残った痕からある程度の予測を付けていた。中庭の時計塔……その場所から見えない角度へとエステルの首根っこを引きずって移動させて、自らもその傍にもう1度膝を落とす。


「……狙撃って……ホンマにそんな事されてるん?」


「ほら、アソコの窓ガラス。小さな穴が2つ開いてる。アイツ等の一斉射撃に紛れて撃たれてたんだ。全然気づかなかった」


「ふむ。しかし、威力は大した事はなさそうではないか? 私の力で全て防ぎきれるであろうなっ」


「そうやって理力を使いすぎると、こっちが先に理力層切れを起こしちゃうでしょ? もう……なるべく無駄使いは避けてよ? 頼りにはしてるんだから」


「まぁまぁ、とりあえず被害が出る前に気付けて良かったやん?」


 この状況のなにが良かったのかは一先ず置いておくとして、本当にね……と、溜め息交じりの言葉を返して、同時に1番最初に狙撃に気付いた、レスリーへと視線を配る。


 隣で黒閃槍シュバルディウスにしがみ付く様な体勢で膝を着く彼女は、何故あの狙撃に気付けたのか? 小さな疑問が残ったが、その追及はこの状況を乗り切ってからにしようと、ヴィヴィアナは気合を入れ直した。

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