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姫騎士物語  作者: くるー
第四章 崩してまた積み重ねて
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それはやむを得ずにその3

「君がいて、注意を惹き付けてくれたからこそ反撃の機会に恵まれた。そもそも、1人倒したのは君だろう? 十分役に立ってくれたよ」


「……ありがとうございます。でも、そういう言葉はもっとあの2人に掛けてあげればいいのに」


「必要であれば、そうしているつもりだが?」


「それでは足りないと言っているんです。でも……ありがとうございました。こんな時にも係わらず、言って欲しい言葉を押し付けてしまいましたね。これでは、さっきの男達と変わらない」


「ハハッ。君も普通の女性のように落ち込んだりするんだな。少しホッとしたよ」


 余りにも普段と様子が違うロザリアの態度に、こんな状況にも関わらずに声を出しながら笑ってしまうマテウス。そんな彼を見て、ようやくロザリアも調子を取り戻してきたような、冷たいジト目を返した。


「……私をなんだと思っているんですか?」


「男を惑わす事を生業なりわいとしている魔女。見ないで……か。あんな場面で迫真の演技が出来るだけ、大したもんだと俺は思うんだがな」


「あれは貴方がなにかをしようとしているのが分かったから、少しでも男達の気を引けるように……それにしても、本当に酷い言い草。こんな事態になっても、緊張感もデリカシーも持ち合わせていないんですね。貴方って人は」


「普段から持ち合わせていない物を、緊急時に要求されても無理な話だろう? だから俺は、君がああなってしまうのも仕方がないと思ってるし、そんな状態でも機転を利かせて注意を惹き付けてくれた君を、頼もしい女だと思っているよ」


 そうして手を差し伸べるマテウス。無言のままその手を掴んで立ち上がったロザリアの表情は、マテウスの発言に対して、呆れたような感情を浮かべているようだったが、顔色の方は先程より十分マシになったと、マテウスはそれ以上の言及をしないでおいた。


「私の方はもういいです。貴方の方こそ、大分痛めつけられていたようですが、大丈夫なんですか?」


「少し他人ひとより頑丈に出来ているからな。見ての通りだよ。まだ少し痛みが残っている部分もあるが……」


 そう言いながらマテウスは視線を股間へと下ろす。つられて、ロザリアの視線もその部分へと移動する。


「無事にここから帰る事が出来たなら、使い物になるかどうか試してみるのもいいかもな?」


「……はいはい。その時は喜んでお付き合いしますよ。それで、まずは皆さんと合流ですよね?」


「そうしたい所だが、その前にやる事が1つあった」


 そう零しながらマテウスが取り出したのは、女王特権。これも着物少女の指示通りに武器を取り上げる為のボディーチェックを行われていたら取り上げられていたのだろうが、相手が油断してくれたのが幸いして、無事にマテウスの手元に残った。


 慣れた所作でそれを開いて理力解放インゲージするマテウスの姿を、ロザリアは不思議な想いで見詰める。地方出身者である彼女には、エウレシア王家の薔薇の紋章は知っていても、女王特権がどのようなモノかまで知らなかったので、マテウスがなにをしているかピンと来てないようだった。


 だからホログラムのように女王ゼノヴィアの姿が映し出された瞬間は、少し驚いて身を引いた。


「義兄さん。連絡は嬉しいのですが、お昼間は私も色々と用件がありまして……」


「悪いな。しかし、緊急だ。今は予定通りに理力付与技術エンチャントテクノロジー研究所にいるんだが、襲撃を受けている」


「……本気で言っているんですか?」


「冗談の質は選ぶさ。相手の名前も目的も確かな事は分かっていない。ただ、服装や装備から王宮に忍び込もうとしていた奴等と同じ連中ではないかと予想している。確か名前は暁の血盟団といって……あぁ、そうだ。分かっている事が1つあった。アイリを誘拐した連中が、今回の件にも関わっている」


「そんな……アイリは、アイリは無事なんですか?」


「すまない。今は訳あって安否を確認出来ていない。すぐに探し出して合流する」


「お願いします。頼りにしていますからね」


「全力は尽くす。しかし、その様子だとこの件についてはなにも知らないようだな。奴等が本当にこの場所の占拠を目的としたテロリストなら、声明なり要求なりが君の所に届いているじゃないかと思って、連絡したんだが」


「それがなに1つ。もしかしたら、どこかで情報が途切れている可能性もありますが……なんにせよ、急いで治安局に対処を要請します。それまで、どうかご無事で」


「あぁ。これから先は戦闘中である場合が多いだろうから、そちらからの連絡は控えてくれると助かる。新しい情報が入り次第、こちらから連絡する」


「分かりました。それと……あの、そんな場合でないのは分かっているのですが……」


 通信を切ろうとしたマテウスを止める、ゼノヴィアの言葉。その顔が余りにも思いつめた様子だったので、大人しく彼女の次の言葉を待つマテウス。


「そちらの女性は誰なんですか?」


「女性? あぁ……彼女か。君に調べてもらったカラヴァーニ姉妹の長女。ロザリア・カラヴァーニだ」


 マテウスとゼノヴィアとの会話中、いつの間にかマテウスの腕に両腕を絡ませながら身を寄せて、ゼノヴィアの胸像を覗き込んでいたロザリア。その様子の一部始終を、ゼノヴィアは視界の端に捉えていたのだ。


「お初にお目にかかります、女王陛下。紹介していただいた、ロザリアでございます。マテウスさんには大変良くしてもらっています」


「大変良く……ね」


「もういいだろう。少し離れてくれないか?」


「そんな、酷い。女王陛下への挨拶の途中ですし、渦中の私にも会話の内容を聞かせてくれてもいいじゃありませんか」


 マテウスとロザリアが2人でもみ合うようにしてやり取りしている最中、ゼノヴィアはなにかを堪えるように顔をうつむかせて体を震わせていたが、その後マテウスを見上げる顔は、まるで雲間から覗いた青空のように晴れやかな笑顔で、そんな表情のままマテウスへとにこやかに告げる。


「義兄さん。今回の件、無事に収めましたら色々と話がありますので。以上です」


「オイ、待っ……冗談キツイぜ」


 ゼノヴィアの方から一方的に通信が切られる。なにかフォローした方がいいのだろうが、肝心な場面で理力切れを起こして通信が出来ない、なんて事態を考えると、迂闊うかつにそれを選択できないマテウス。


 深いため息を落とす彼の横で、ロザリアは普段通りの悪戯な笑みを浮かべてた。


「厳格な方だと伺っていましたが……案外、可愛らしい人ですね。女王陛下。アイリさんと似てて揶揄からかいがいがありそう。ふふっ……義兄さんと呼ばせているんですか?」


「彼女がエウレシア王家に嫁ぐ前、ベネディクト公爵家時代の名残だ。公の場では控える分別ぐらいお互いにあるさ。そこら辺は説明しなくても、少しは知っているんだろう?」


「えぇ、本当に少しですけれど。出来ればゆっくりと、マテウスさんから直接話を聞きたいです」


「ここから生きて帰る事が出来たら、考えておこう」


 話は以上だと言わんばかりに、マテウスはさっさと部屋の外へと歩き出す。ロザリアも離されないように足早に追いかけるが、部屋を出てまもなく、倒した襲撃者と同じ格好をした男達がく手とは反対側の方から姿を現した。


「次から次へと……一体、何人連れなんだ?」


 拾い直しておいた武器を構え、迎え撃つように通路中央に立ち止まると、相手もマテウスの事を敵だと認識したようで、勢いを増して駆け寄ってくる。


「ここで食い止める。君だけで先に合流しておいてくれ」


「分かりました。必ず生きて帰って……約束、守ってくださいね?」


 ロザリアはマテウスの背後から手を伸ばして、そっと自分の右小指をマテウスの右小指に絡めて告げて、素早くきびすを返して走り始める。ロザリアを庇いながら戦う状況を避けたいという、マテウスの意図を汲んで、それ以上の反論はしなかった。


「気乗りしないが、仕方なし……か」


 もう1度武器を持ち直すマテウスには、一方的なロザリアとの約束を果たす義理などはなはだ持ち合わせてなかったが、だからといって、ここで大人しく殺されてやるつもりなど、それ以上になかった。

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