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姫騎士物語  作者: くるー
第四章 崩してまた積み重ねて
121/321

それはやむを得ずにその1

「あぁっ……お願いしますっ、乱暴に……しないでっ」


「へっ、なんだ? お前の男の前で、優しく可愛がって欲しいのか? ノリ気かよ? あっ?」


 縄を解かれたロザリアは、引きずられるように腕を引かれてベットへと移動すると、無理矢理に上半身と下半身を2人の男に組み敷かれて、衣服をむしり取られるようにして脱がされていく。マテウスはその光景を、縄で後ろ手に拘束されたまま、土下座のような姿勢で男に踏みつけにされながら見せつけられていた。


「せんぱーい。ソイツに目を反らさせるような事させないでくださいよ? やっぱ、見られてると思うと燃えるんだよなぁ……ひょうっ、良い身体っ」


「分かってるよっ。良い趣味してるぜ、お前ら。そんで俺だけジャンケンで負けて貧乏くじとか、本当にツイてないぜ。おらっ、もっと顔上げろっ!」


 マテウスの背中を椅子にして腰掛けている男が、彼の頭を鷲掴わしづかんで視線を上げさせる。そうする事でマテウスの視線と、ロザリアの視線が交差した。


 少なくともマテウスには、今のロザリアの表情からは、普段の余裕は読み取れなかった。怯え、恐れ、羞恥、戸惑い……そういう負の感情が入り混じった青ざめた顔を、マテウスの視線から背けるようにして隠す。


「お願いっ、見ないで……くださいっ」


「ハハハッ。お姉さんのさっきの台詞。人生で聞きたかった奴、ベスト3に入る奴だわっ」


「おらぁっ、俺達がお前の女をすーぐ気持ちよくしてやっからよっ! 目を離さずに、学んでけよっ? ハハッ」


 そんな状況を前にして、マテウスは冷めた感情で次に移すべき行動のタイミングを見計らっていた。部屋には3人。外にはこの行為に批判的で、しかし止めようともせずに外の見張り役を買って出た男が2人。両手は拘束されてしまってるがこの人数なら、やりようはある。


 なぜなら幸い、今は姿のない着物少女が残した言葉……武装を解除しておけという言葉を、ここにいる男達は守らなかったからだ。武器を持っているようには見えないので、気付かなかったという方が正しいかもしれない。


 しかし、タイミングを見誤って無駄に反撃して勝てる数ではないのも確かだ。それに、戦いを長引かせてもいけない。着物少女はリーダーを連れてここへ戻ってくると言っていた。両手を縛られた状態で、彼女と戦うような状況は、マテウスとて生き残れる可能性はないだろう。


 だからこそ、反撃の機会までマテウスは逆らわない。少し前に踏み出せば届きそうな距離で、ロザリアが半裸に剥かれ、唇を強引に奪われ、身体中を男達の両手でけがされていく光景を目の当たりにしながらも、タイミングを見計らい、着物少女と血盟団の男に与えられたダメージを回復する時間にてていた。


 そして、ロザリアに伸ばしていた両手で男達がズボンを脱ぎ始めたその瞬間、マテウスは革靴型装具エアウォーカーを理力解放インゲージさせた。マテウスはカタパルトされたかのような勢いで、彼を踏みつけにしていた男と一緒になって上方へ向けて飛び上がり、背中を使って男を天井へ押し潰す。


 直後にマテウスは両足を使って着地。天井へ押し潰された男は既に意識を失ったようで、床へと大の字になって落下した。


 ベット上の男達2人は、なにが起こったかを理解するのに少しだけ時間を要したが、すぐに武器を取ろうとベットの脇に置いたそれぞれの装具に手を伸ばそうとする。


 だが、ズボンを半分下ろしていた為にもたついてしまった。その僅かな時間を縫うように駆け寄ってきたマテウスが、後ろ手の姿勢とは思えない程の鋭い右ハイキックで、手前の男(軽薄な口調の方)の首を刈り取る。その重い1撃は彼の意識を奪い、体ごとベットからすっ飛ばして床に叩き付けた。


 その間に銃型装具を手にした奥の男(最初からいた威勢のいい方)がマテウスへと狙いを定めるが、右ハイキックで捻った姿勢を利用して、身を反転させながら放たれた左回し蹴りが銃型装具を下から蹴り上げる。鋭い蹴りが理力解放直前の銃型装具を捉えて、男の手から勝機を奪い取った。


 それでも諦め悪く、マテウスに背を向けて片手剣型装具へと手を伸ばそうとする男に向けて、マテウスはとどめの蹴りを放とうと足を上げるが、その前にロザリアの不意を付いた1撃が男の後頭部を捉えた。


 ベット脇に置いてあった花瓶を使い、彼女の全力でもって殴りつけたのだ。花瓶は粉々に割れて、中に入っていた花と水がベット上に飛び散る。酷い惨状だが、男の頭部の中身が飛び散らなかっただけマシだろう。そんな手加減のない1撃だった。


「……筋がいいな」


 行き場をなくした蹴り足を収めながら、マテウスがロザリアに対してそう告げる。しかし、彼女はそれに対して言葉で答えを返す余裕もないようで、青ざめた表情を浮かべるだけだった。


 ロザリアにとって初めての体験に、気が動転しているのだろう。それを察したマテウスはどうフォローしようか言葉を探すが、その間もなく更なる敵が外から入って来る。


「今大きな音がしたが、なにか……」「おいっ! なんだこれはっ?」


 外で見張りをしていた男達が、異質な騒音に気付いて室内の様子を見に入ってきたのだ。男達は眼前に広がる光景の意味を瞬時に理解して、銃型装具と片手剣装具をそれぞれが1つずつ構える。


 それに対してマテウスは、珍しく一瞬の躊躇を見せてしまう。このまま戦えば相手の制圧は出来るだろうが、同じ射線上にいるロザリアにも被害が及ぶ可能性があると考えていたのだ。


 この一瞬の躊躇が、マテウスから先制の機会を奪う。今からの正面突破は間に合わないと踏んだ彼は、見張りの男達へ背を向けると、ロザリアと花瓶で殴られて失神している男が倒れるベットの底を蹴り上げて、盾になるように横倒しにする。


 同時にベットの端を踏み台にして飛び上がったマテウスは、体をギュッと縮めて後ろ手に縛られた両手を足の下から通して、両腕を前へと持って来ながらベットの壁向こうへ着地して、銃型装具の射線から身を隠す。


「痛っ……マテウスさん、なにをっ……」


「伏せていろっ!」


 いきなりベットから転げ落ちたロザリアは何事かと抗議を発するが、マテウスはそれを無視して彼女の上に覆いかぶさりながら、身を伏せる。同時に銃型装具の理力解放。


 次々と鉛弾なまりだま程度の小さな火球がマテウス達に向けて撃ち込まれるが、男は使い手として未熟な為かその威力はマチマチ。ベットの盾に遮られたり、狙いを定められずに上へ反れていったりと、奇跡的に被弾はなかった。


「おいっ、止めるんだっ。アイツにも当たってしまう」


「そ、そうだな……でもよ、もう死んでるかもしれないし、自業自得じゃないか?」


 銃型装具を斉射せいしゃする男の手を、もう1人が掴んで制止させる。ロザリアと一緒にベットの上から転げ落ち、今もマテウス達の横で失神したままの仲間の存在が気がかりなのだ。


 ようやく訪れた反撃の好機。マテウスは周囲を見やり、見張りの男が使うのと同じ片手剣型装具が転がっているのを見つけて、ロザリアへと手渡し声を潜めながら伝える。


「これを使って、俺の縄を切ってくれるか?」


「えっ? は、はい……ちょっと待ってください」


 ロザリアはマテウスから片手剣装具を受け取るが、震えた彼女の手は1度装具を取り落とした。マテウスが再び拾い上げて今度はしっかりと彼女へと握らせるが、彼女の両手の震えは止まらず、その手はまるで死者のように冷え切っていた。


 緊張からか恐怖からか……その冷え切った両手で装具を握りしめながら、ノコギリを扱うように懸命に前後させながら理力解放をしようとするが、今の彼女の精神状態でマトモな理力解放が出来る訳もなく、縄の切断は遅々として進まない。


 そうこうしている内に、見張りの男達は2手に別れて、足音を忍ばせながらベットの脇へと移動し始めていた。

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