新聞部の秘密(1)
転校早々、二組の生徒にはおっちょこちょいだと思われ、一組ではきっと、おどおどした奴だと思われ、散々な出だしになってしまった。
後で分かった事だが、校舎の二階は職員室と校長室が並び、ひとつだけ空いている教室を一年一組が使っていて、その上の三階は一年二組から五組が並んでいた。
「清水、あと頼むぞ」
学活を終えた担任の体育教官はそう言うと、俺を教室の前に残したまま出ていった。
清水というのは、婦人警官みたいな雰囲気の女子で、一組の学級委員らしい。俺は一瞬で、こいつには何も敵わないいんだろうな、という気持ちになって、ますます萎縮した。
「実吉君、席はそこ」
普通は転校生は窓際の一番後ろの席とかになりそうなもんだが、俺にあてがわれたのは最前列の真ん中の席だった。
「山田さん、今日一日は実吉君に教科書を見せてあげて。帰りまでに教科書一式と体操服とか上履きとか、教務課で準備することになってるから」
学級委員は何の感情もなく、同級生に指示を出し、無味乾燥に転校生の最低限の世話をしてくれた。
午前中の授業は何の特徴もなく終わり、昼休みになった。
三時間目の終わりに早弁を始めた奴がいたので分かっていたが、この学校は弁当らしい。
「あの、清水さん」
俺は姿勢良く弁当を食べようとしている学級委員に、遠慮がちに声を掛けた。
「昼食を買いに行きたいんだけど、購買部とかはどこにあるのかな」
「無いわよ」
婦人警官の答えは簡潔だった。
「学校の中にあるのはジュースの自動販売機が三台だけ。始業時間から放課後までは門の外に出るのは固く禁じられてます」
「そうですか」
俺は仕方なくジュースでも飲んで空腹を紛らわす事にした。自動販売機は、昇降口付近で朝、見かけていた。
一人だけ違う制服で、しかも上履きでなくスリッパを履いているせいで、廊下でもかなり目立つ。俺はせめて、それくらいの事は気にしてないぞ、という良く分からないアピールをこめて、わざと堂々と歩いた。
缶のコーンスープかお汁粉がないかな、と思っていたが、自動販売機は紙パックのジュースとコーヒーしかなかった。俺は少しでも腹にたまりそうな、バナナジュースを買った。教室に戻る意味も無いので、廊下の窓から外を眺めつつ、俺は果汁70パーセントのバナナを飲んだ。
「実吉君」
すぐ後ろから声を掛けられて、俺はジュースを噴出すところだった。振り向くと美少女が立っていた。
うろ覚えだが、クラスメートにこんな子はいなかった気がする。
「私、二組の境ミツ」
「二組?」
「今朝、実吉君が間違って入った教室」
ああ、そういえは、俺が思いっきり動転した時に、目の前に座ってた子だ。転校早々に、こんなかわいい子の前で恥をかくとは、何とツイてないのか。俺は悲しくなった。
「お昼はもう食べたの?」
「いや、この学校、弁当を持ってこないと昼食を買えないって知らなくてさ」
「バナナジュースがお昼ご飯?」
「そんな感じ」
境ミツと名乗った美少女は、にっこり笑うと「ちょっと付き合わない?」と俺を誘った。