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体育教官の秘密

まだ、この学校の上履きも用意して無かった俺は、校舎に入ると来客用のスリッパを履いて、階段を駆け上がった。

三階の廊下に出ると、廊下にはもう誰もいない。授業前の学活が始まってるらしい。一番手前の教室のドアの上に「一年五組」と書かれていた。チクショウ、一組は一番向こうだ!

廊下を走っちゃいけないのは全国共通だろうとは思ったが、小走りした。スリッパが片方脱げて前にすっ飛んでった。俺は面倒なので両方のスリッパを手に持ち、磨きこまれた廊下を端まで走った。

廊下の一番端にあるドアの前ですばやくスリッパを履きなおし、一回だけ深呼吸して堂々とドアを開けて入った。

教壇には白衣を羽織った先生が、メガネの奥で目を丸くして俺の顔を見た。

確か、担任は体育教官と言ってたから、ダサいジャージと竹刀を想像してた俺は、自分の想像の貧しさにちょっと恥ずかしくなった。

「後れて済みません。転校生の実吉勇馬です!よろしくお願いします!」

俺は、転校早々、舐められてはいけないと思って、努めてハキハキと淀みなく言うと、生徒に向かって深々と頭を下げた。

胸を張った俺は、きょとんとしている四十人ばかりとタップリ十秒ほど見つめあった。

(あれ?)

まだ、俺のことは話してなかったのかな、と思って先生の顔を見た。

「あの……君は……」

「転校生の実吉勇馬です!」

「ああ、一年一組に転校してきた……」

「そうです」

(何を寝ぼけてるんだ、この担任は)

俺はちょっと、呆れて先生の姿をまじまじと見た。

特別小柄ということもないけど、色白で首も手首も細い。これで柔道部の顧問が務まるんだろうか?まあ、弱小柔道部なんだろうなあ、と思ったところで、僕の目の前、一番前に座っている、髪の長い美少女が可憐な声で言った。

「ここ、一年二組ですけど……」

「え?」

「一年一組は二階、この真下の教室です……」

俺はどう謝ったのか、それとも謝らなかったのか全く記憶にないが、とにかく逃げるようにその教室を飛び出ると、ドア越しにいつまでも聞こえる爆笑から逃れるように、教室の横の階段を駆け下りた。


「一年一組」というプレートを確認して弱弱しくドアをノックすると、「うおう!」という多分返事の声と共にドアが横に開いた。

改めて教壇の横に立たされた俺は、黒板にあらかじめデカデカと「実吉勇馬」と書かれた前で、オドオドしながら短い自己紹介を終えた。

担任は腹ではちきれそうな水色のジャージ上下を着て、手には竹刀を持っていた。


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