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野獣騎士①

 恋に堕ちるということがどういうものなのか身をもって知った。


 生まれて28年間様々な人間に出会ったが誰にも特別な感情を抱くことなどなかった。


 だが、まさかこの年になって初めて人を愛しいと覆える感情が生まれるなどおもってもいなかった。





 俺は帝国騎士団長の父を持ち、幼少より剣の道一筋に生きてきた。


 16歳で戦場に立ち、それなりの武勲をたてた。父が団長の座を引退するとその地位は気づけば俺が引き継ぐことになった。


 鍛え上げられた長身の体。


 百獣の王ライオンのたてがみを思わせるボリュームのある髪。


 右頬に刻まれた大きな傷あと。戦場では狂ったように敵を切り刻むことから近隣の国で「野獣騎士アーダルベルト」と恐れられているらしい。


 センスのないネーミングだと思う。







 任務でトリアを離れ、フーシャで補給作業をしてたときのことだった。


 近くで馬の鳴き声が聞こえ、見てみると馬車の馬が暴走し街中を駆けていた。


 馬を操る者はのっておらず、馬車は要人用の中が見えないタイプのものであるため人が乗っているかは不明だ。


 馬車は通行人を次々薙ぎ払い暴走している。このままでは被害が増大するため俺は作業を中断し馬の所へ向かった。


 自分の愛馬に乗り馬車に追いつく。タイミングをはかり、暴走する馬に飛びのり時間をかけて馬の興奮を収めた。


 馬が落ちつきを取戻し、馬から降りる。


 そこで周囲に集まった町民から拍手が起きた。


 目立ちたいわけではないが、片手をあげ拍手に応える。


 すると馬車から声が聞こえた。


「あの……」


 聞いたこともないような綺麗な声だった。


 馬車の扉がゆっくりと開き小柄な女性が下りてきた。


 そしてその姿に驚愕する。



 馬車に乗っていたせいか膝丈まで伸ばされた長くうねる黒髪はかなり乱れていた。

 白磁の肌は大部分がクラシックな紺色のドレスで隠されているも顔や手のわずかな露出でその美しさを物語っている。

 煌めく空色の瞳はやや潤ん輝きを益し、上気した薔薇色の頬は愛らしさを誇張。形の良い鼻、瑞々しい唇。

 年齢はおそらく成人していないだろうあどけなさがあるものの、妖艶ともいえるその美貌は見る者の心をとらえて離さないだろう。


 一回り以上は年が離れているだろう。


 だが、ひと目みて俺は彼女に……欲情した。


 欲しい、欲しい、欲しい。彼女が欲しい。その肌に触れ貪りたい。この感情を彼女に刻みつけたい。例えどんなに彼女が許しを乞うてもその声までも全部飲み干してしまいたい。



 こんなに強い感情を持ったのは生まれて初めてだ。




「えっと、あのライオンさん? 貴方が助けてくれたのですよね?」


 彼女が俺に話しかけてくる。ライオンさんと可愛らしく訪ねてくる。


 ああ、可愛い、可愛い可愛い可愛い。


 は! 俺は彼女を何と呼べばいいんだ?


 彼女の名前を尋ねなければ。


「ああ、きみは「ミリィィィイイイ!!」



 背後から馬の駆ける音と名前を叫ぶ声が響いた。






つづく

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