鉄仮面な義兄
◇鉄仮面な義兄(表向き)
レオン義兄さんはとても優秀だ。22歳という若さですでに領主である父の仕事を手伝っている。
レオン義兄さんは色素の薄いブロンドのストレートな髪にシルバーのモノクルをかけたインテリ美青年である。
ただ、その表情は鉄のように固まっており無表情を貫いている。
鉄仮面ではあるが、白いシャツに薄手のカーディガンを羽織って本を読む姿は若い女性を虜にするほどの魅力的で、年頃のご令嬢方の熱い視線が常に張り付いている。
ミリィは本を読むことが大好きだ。
特に歴史書を読むことが好きだ。
だが、家の蔵書だけではミリィの知識欲を満たすことができないでいた。
レオンは上流階級の者が通う学園をトップの成績で卒業したと聞く。
ミリィも学園に通ってみたかったのだが両親の反対にあい、強く申し出ることのできなかったミリィは学園に通うことをあきらめてしまった。
そんなミリィに兄は学園で使っていた教本を貸してくれた。中央都市の都立図書館でミリィのために蔵書をいくつも借りてきてくれた。
義兄が自分のためにいろいろしてくれることが嬉しかった。
ただ、レオンはいつも本を届けるとミリィの傍からいなくなる。
ミリィはもっと義兄と話したかった。
歴史書のわからないところを聞いてみたかった。だが、なかなか一歩踏み込めずにいた。
もし話しかけて嫌がられたらどうしようか。でも、ミリィのためにいろんな本を頻繁に届けてくれているのだから、それほど嫌われていないのではないか。
悶々とした思いを抱えつつミリィは屋敷にある書庫に向かった。
書庫には読書スペースが設けられている。ミリィは本に囲まれながら読書できるその場所を好んでいた。数冊お気に入りの本を持ち込み読書スペースに向かうと、そこにはレオン義兄さんがいた。
彼の手にある本はミリィがまだ読んだことがない歴史書だった。
「御機嫌よう、レオン義兄さん。あの、今お読みになっている本、読み終わったら私にも貸していただけませんか?」
普段ならあまり自分から話しかけたりしないのだが、勇気をだして声をかけてみた。
レオンは本から目をはなし、こちらを見たあとまた本をみて再度こちらを見た。
そして目を見開く。
少し驚いた表情のあと、またいつもの無表情に戻る。
そして彼はゆっくりと立ち上がり、ミリィに本を渡すと無言で書庫を出て行った。
書庫の扉がパタンとしまった音だけが虚しく室内に響いた。
「私の言い方が悪かったのでしょうか。ただレオン義兄さんとお話ししたかっただけなのに……」
まさか読んでいる途中の本をミリィに渡し出ていかれるなんて思いもしなかったミリィ。
悲しくなりながらも彼女は渡された本を読み始めた。
そんな彼女の姿を閉まったはずの扉からじっと見つめられているということに気づきもしないミリィであった。
◇◇◇
6歳年の離れた妹のミリィ。
彼女は妖精のように可憐で美しい。
見た目だけでなく心優しく控えめなその性格は得難く尊い存在だ。
全人類すべての清涼剤といってもいい。
妹は俺に似て読書好きである。好みは歴史書だ。そのため各地から妹好みの本を取り寄せてはより面白そうなものを吟味し手渡している。
本当は妹と好きな英雄とか戦略とか王朝の話を語り合いたい。
だがしかし!
はっきりいって妹が可愛すぎて会話が弾まない。
あの可憐な笑顔で「レオン義兄さん」と呼ばれるだけで胸がぎゅんぎゅんしてしまう。
長い時間近くにいると発作が起きるため長居はできない。
近くよりも遠くから見つめている方が安心して見ていられる。
本を開きつつも妹をことを考えていたら妹がすぐ横にいて話しかけていた。あまりの驚きに2度見してしまった。
あまりのことにドギマギしていたが、手元の本が見たいとのことなので手渡してその場を離れた。そして扉を閉じたふりをして扉の隙間から彼女を見つめる。ああ、この距離感落ち着く。
本に囲まれる可憐な美少女。一枚の絵画のようだ。いつかその横に自分も一緒に並べたらと思う。
父はミリィを嫁にはやらないといっていた。
僕が領主になったあともミリィをこの屋敷で面倒をみてくれと。その意見に母も大賛成している。
10年間ミリィの傍にいたがいまだに彼女に慣れない不甲斐ない自分を呪うも、この先ずっと一緒にいるのだから、そのうち、きっと、いつか、彼女と談笑できる日を夢みて今はこの距離感で見守っていたいレオンであった。
つづく?
鉄仮面な義兄(真実)
インテリ美青年。眉目秀麗、成績優秀、運動神経抜群。物静かな雰囲気とともに人を寄せ付けない威圧感を人に与える。その真実の姿はストーカー気質のシスコン兄貴。
妹が妖精や天使にしか見えないため、眩しすぎて長時間傍にいられない。5メートルくらい距離がある方が落ちつける。長時間一緒にいるとハァハァしてくる。自分の死因は妹によるきゅん死にだと覚悟している。
長い年月をかけて徐々に妹に免疫ができてきたため(昔はもっと距離をとっていた)いつかは妹を膝にのせて一緒に歴史書を読むのが夢。