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厳格な父

◇厳格な父(表向き)



 父はいつだって私を物言いたげに睨みつける。


 私の存在そのものに苛立っているのだろう。


 いつも途中で動きを止めるその手は、もしかしたら私を殴りたい衝動を理性で押さえつけているのではないのだろうか。


 本当はこの家から出ていけと言いたいのを我慢しているのではないか。


 そんなことばかり思っていた。




 家族で領地内の視察に出かけたときのこと。


 街中の露店を馬車で通り抜けようとしていたら、父がいきなり馬車を止めさせた。


 父は無言で馬車をおり、数分後小脇に大き目な木箱を抱えて戻ってきた。


 そして、それはそれは大事そうに木箱を抱えていた。


 心なしか瞳も輝いているように見えた。見たことがないくらい機嫌がよさそうな父につい尋ねてしまった。


「お父様、その箱はいったい何が入っているのですか?」


 私が言葉を発すると、それまで熱に浮かされていた父の瞳の温度が一気に冷めていくのが傍目にもよくわかった。


 ああ、やってしまった。


「お前には……関係ないだろう」


 せっかくの父の気分を害してしまった。


「はい……すみません」


 泣きそうになるのを必死にこらえるため下に俯きやりすごした。



 その時、父がどんな表情で自分をみていたか俯いたミリィは気づくことができなかった。






◇◇◇




 レイス家の当主である彼は足早に自室の書斎を目指した。



 乱暴に扉を開けると、幾重にも取り付けられた鍵を一つ一つ施錠し、室内に誰もいないことを確認してから抱えていた木箱の中身を取り出した。



「ああ、今回も素晴らしいできだな……ミリィ16号よ」



 彼が取り出したのは娘そっくりな人形であった。


 書斎にはミリィ0号から15号までがケースに入れられライトアップされている。赤ん坊から歳を重ねて15歳までのミリィ人形が勢ぞろい。



「ミリィ、いつも辛そうな顔をしてどうした、何がお前を悩ませているんだ。この父にすべて話してみよ……なんて面と向かって言えたらな」


 人形に向かって話しかける美中年。絵にはなる光景だが……なんとも虚しい。


「誰よりも、何よりも幸せになって欲しいのに、私はお前を傷つけることしかできない。美しく、儚いお前に私なんかが触れたらきっとお前は壊れてしまうだろう。なあ、どうしたらお前は笑ってくれるのだ。私はお前が花のように微笑む姿をもう一度みたいのだ」



 人形の頬を優しくなでるその姿は普段から想像もできない、レイス家の当主としてはあってはならないものだった。



「旦那様、気持ち悪いです。いい加減にしてください」


 そんな背中にズバッと冷たく一言浴びせた人がいた。


「うっ!? セバス、いつの間にっ、鍵はしてあるはずなのにどうやって入ってきた!!」


 誰もいなかったはずの部屋に一人の執事が姿を現した。


「執事たるものあのくらいピッキングできなくては。それよりもいいかげんに人形遊びなどやめてお嬢様と向き合ってください。あなたの一言で一喜一憂しては傷ついていくお嬢様を私どもはもうみていられません」


 屋敷のものは気づいている。お嬢様が孤独を感じて今の現状にいたく傷ついていることに。うまく旦那様たちのフォローをしようとしているも、お嬢様が求めているのは使用人の私たちの言葉ではない。家族からのぬくもりを求めているのだ。


「私だって人形ではなく本物のミリィに触れたいさ! あの柔らかそうな黒髪をなでなでして、つるつるもちもちなほっぺにキスして、今にも折れてしまいそうな華奢な体を抱きしめどんなにミリィを愛しているか伝えたい! でもそんなことしたらあの純粋無垢なミリィが壊れてしまいそうで、というか理性が効かずに私自身が壊してしまいそうで怖いのだ!」


 ぜぇはぁ息を切らしながら言う美中年を冷めた目で執事はみた。


「だからって、さっきのあの物の言いようはなんですか。もう少し柔らかい言い方はできなかったのですか。お嬢様、絶対泣いていらっしゃいましたよ」


「いや、あの場でこの人形のことばれたらまずいだろ。自分そっくりの人形を父親が持ってるって気持ち悪いじゃないか。だからばれないように焦ってしまってな……確かに、言い方がきつかったし、また嫌われただろうな……ははは」


 壊れたように笑う主君を正気に戻そうと執事は今問題になっているであろう話題を投げかけた。


「このままだとお嬢様は自分は家族に嫌われていると思い込んだまま嫁いでこの家からいなくなってしまわれるのですよ?」


「は? 何をいっている。ミリィは嫁には行かせないぞ。ずっとこの屋敷で私たちが養うって決めているのだから」


 きょとんとした顔で言い放ったその内容。それはあまりに予想外な内容であった。


「それはあんまりですよ。年頃の、あれほど美しく内面まで綺麗なお嬢様がお嫁に行かず一生をこの屋敷の中で過ごすなんて、そんな不名誉なこと周りが許すはずありません。どれだけお嬢様へのご婚約の申し込みが殺到しているかご存知ですよね! 中には王族からの申し込みもあるのですよ! 全部断っておいて誰とも結婚しませんじゃ納得できませんよ」


「そんなもの全部断るに決まっているだろう。ミリィは私たち家族で死ぬまで面倒みようってマリアもレオンも言ってるんだ」


「奥様とレオン様までもですか?」


 マリアとはミリィの継母、レオンとはミリィの義兄のことである。ふだんはミリィに対してどちらかといえば冷たく当たっているというのにその彼らまでもがミリィを嫁にはいかせないと言っている。


 これから巻き起こるミリィお嬢様のご婚約騒動を思うと胃痛がしてきた有能執事セバスであった。




つづく?

厳格な父(真実)

生まれつき表情が出にくい顔。表情がないため冷たい印象に見えるナイスミドル。美中年。しかし、その真実の姿は娘溺愛の変態親父。

本当は人見知りで臆病。でもそんなことみじんも感じさせない威厳のある見た目で多くの人に誤解されている。

亡くなった妻は彼の内面を理解しており不器用な夫と周囲の人との橋渡し的存在だった。

娘が生まれた時から彼女そっくりの人形を成長にあわせて毎年発注している。普段本人には言えない愛のリビドーを人形に向ける(注※健全な親心ですよ)

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