プロローグ
由緒正しいお嬢様学校である花冠女学園。
その歴史は百年を越えると、巷でも有名な女子校だ。
都心部から少し離れた自然豊かな下鷹市にあるその学校は、広大な敷地面積を持ち、校舎に接したグラウンドも綺麗に整備され、テニスコートは八面、プールは室内外両方に設置。潜水用もある。
食堂は最高級品質のブランド物を調理し、提供しており、一つ一つの教室の冷暖房も完璧だ。
そんな普通の女子校と違うこの女子校には、各界の著名人の娘や企業のご令嬢やらがわんさか通っている。
ふ、ふふふふ、ふふふふふふ…。
ついにこの日が来たぞ…。
俺の野望が叶う日が…!!
「どうかしましたか中島先生?」
「え!?」
「いや急に黙り込んでにやにやしだすから。まさか生徒を見てよからぬ事でも考えてた訳じゃないですよね?」
「滅相もございません!」
鋭い!この中肉中背のぽよんとした教頭鋭い!
いや、そもそも俺が甘かった。
しっかりしろ中島澄!
今日から俺はここの教師なんだぞ!
うっかり出かけた煩悩を必死に振り払い、教頭に愛想笑いをする。
二人して数秒笑い合ってから、教頭はまた窓の外を眺めた。
ちなみに今俺と教頭は職員室にいる。
職員室の窓からは校門が見えるようになっていて、午前八時を回った今では大勢の生徒達が登校してきていた。
「さすが花冠女学園。生徒の数ももの凄い多いですね。」
「一学年11クラスで440人ですから。全校生徒合わせて1320人。全校生徒が集まる時はいつ見ても壮観ですよ。」
あ。あの子可愛い。
あのポニーテールの子も可愛い。
あ!三つ編みメガネっ子発見!可愛い!
てかこの学校レベル高いよな。
「先生またお顔が…。」
「え?あ、あはは。高校生は元気そうでいいですねー!」
俺が高校生だった頃から花冠女子は住む世界が違いすぎて関わることがなかった。
そもそも俺の高校は男子校で、しかも進学校みたいにばりばり勉強する毎日だったもんだから、女の子と関わる機会なんてまず無かった。
やっぱり青春は男女が一緒にいてこそ輝く物なんじゃないか?
いや、そうに違いない!
やっぱり俺はこの女子校でハーレムを作り上げるべきだ!!
死んだ爺さんが言っていた。
『澄。ハーレムを作れ。ハーレムはいいものだ。女でも男でもどんな奴でもいい。お前だけのハーレムというものを作ってみろ。』
『爺さんかっけえええええ!!』
爺さんリスペクトだった俺はその言葉に感銘を受けた。
そして今までどうにかしてハーレムを作ろうとしてきたわけだが、今のところハーレムらしいハーレムはできていない。
友達は多いが広く浅いって感じだし、特別な思い入れのある奴は少ない。
高校時代は置いといて、中学校小学校は共学だったはずなのに、一度も告白なんてされることはなかった。
告白したとしても誰も相手にしてくれなかった。
なんでだ?顔は良い方なのに。
近くの女性教師ににっこり笑ってみる。頬を赤く染めて顔をそらした。
俺を意識した証拠。
問題はどうしたら落とすことができるのかだ。
昔みたいに『俺のハーレムに入らないか!』なんて絶対に言ってはいけない。
汚物を見るような目で見られるから。
くそっ!なんで爺さんは俺にハーレムの作り方を教えてくれなかったんだよ!
一番重要な所だろうが!
天国の爺さんをを脳内で罵倒していると、外から黄色い声が聞こえた。
一人だけじゃない、何十人もの女子生徒が騒いでいる。
「なんですかこの騒ぎ!」
「あー。これもいつもの事ですから。慣れてください。」
「いつも!?この騒ぎがですか!?」
「今日もすごいですね。彼女。」
黄色い声をあげる女子生徒達の視線の先。
周りに女子生徒を群がらせ、次々に手渡される手紙やプレゼントを笑顔で貰う金髪の少女。
その姿はまるで少女漫画やアニメに出てくるような王子様そのもの。
「教頭…彼女は一体…?」
「常盤ハイリさん。この学校の有名人ですよ。ちなみに中島先生が副担任を担当する2年3組の生徒です。」
な、なんだってえええええ!?
こうして、俺の花冠女学園での教師生活は、俺の野望を粉々に打ち砕く所から始まった。