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プロローグ

はじめまして、もしくはお久しぶりです。


今回のお話は「めぐる季節」シリーズから rencontrer と ほたるのこえ という作品をお読みいただくことを推奨します。ほたるのこえ については、第2部だけお読みいただければだいたいわかると思いますが、このお話は rencontrer に深く関わっておりますので、こちらについてはできるだけ全編お読みいただいてから、この作品を読んでいただきたいと思います。


シリーズの説明文と矛盾するような作品を書いてしまいすみません……(汗)。


以上の注意事項を前提として、読んでくださる方は、どうぞよろしくお願いします。

 全体に見て平均的な基準から逸脱した存在は否定されることが多い。特にこの国ではそれが顕著だと思う。素晴らしいとたたえてもてはやすよりも、得体のしれない異質なものをはじくことが優先されるからだ。見方によっては不変性の保護とも取れるが、彼は違うと思っている。

 そこにある感情は、ただの恐れである。

 変化への、ルーチンワークを壊されることへの、つたなく根拠のない、本能に近い恐怖。それがことの本質だと彼は言う。

「新しい街へ急に引っ越すことになった子どもみたいなものですよ。そういうときって、大抵自分がどうすることもできないものだから…ええ、うーん。そうですねぇ。引っ越しの概念はまだちょっと説明しづらいかな。すみません」

 もっといいたとえはないかな…。そう言って拳を口元にもってきて考えている彼は、私の知り合いである。知り合いというと他人行儀か。しかし友人というにはどうもしっくりこないので、私は彼を知り合いだと定義づけることにしている。もっとも、実際の付き合いの中でそんな関係性における上っ面の名前はこれっぽっちも必要ではないから、私はさほど気にしていない。

 やがて、彼は晴れ晴れとした表情でこちらを見上げた。

「ああ、ありましたよ。なんで気づかなかったんだろう。こんなに簡単で身近なたとえがあるのに」

 彼は嬉しそうに笑った。彼は誰かに何かを説明するときに、ありとあらゆる手法を凝らして自分の思考を正確に相手に辿らせようとする。場所が空き地であれば木の棒で地面に絵を描き出すこともあるし、持っているものを小道具として使ったりもする。あるいは噛み砕いた言葉で、もしくは直接的で実に単純な比喩を使って。今回はそれをようやく見つけた、といったところだろう。

「俺、ですね。彼らが俺をはじきたいと思うことと同じ。実にシンプルだ」

 その表情から、言葉以上の意味を酌み取ることが私は苦手である。人の表情など私には彼以外関わりのないことで、読む努力をしていない、とも言う。それを後悔するのはこういうときだ。

 その、一見シンプルでしかし用いるにはあまりに様々な感情が付随してくるたとえ話を回避しようとしたからこそ、最初は別な角度から、多少回りくどい比喩を使ったのではないかということを、私は危惧しているのだと思う。

 私には想像することしかできない。彼の世界は私のそれと比べてはるかに複雑で形式ばっていて、そのせいか生きているだけで窮屈に感じてしまいそうだ。それを彼は確実にわかっていて、だからこそこうして私と話をしに来るのだろう。互いの世界を足して二で割ればこの世は平和になるのにと、たしかそんな話をしたこともあった気がする。無意味な仮定だ。実際にはできないことを語るさまはいっそ滑稽である。しかし彼が言うには、それが人間というものであるらしい。

 彼とする話は私と彼の世界が共有する部分の認識のすり合わせである。そしてここにおいては、どちらかといえば「意見を出し合う、自分の世界観を語る」ことに重きを置いていて、「調整する」こと自体はさほど重要ではない。なぜなら、そのふたつは交わらないからだ。足すことも、まして二で割ることもできないふたつ。

 同じにしたり、理解しあったりする必要はなくて、ただふたつを見比べている、と言ったほうが正しいかもしれない。それは、私が先ほど危惧した事柄と同じ理由から、あまり良い傾向とは言えないけれど。

「そういえば、佐藤さん」

 出会ったときから、彼は私をそう呼んだ。ちなみに、私の名前は佐藤ではない。ただし、別に大した意味もない。せいぜい、この国で最も「平均的」な苗字であるくらいだ。自らを「異常」に分類する彼の、私に対するささやかな誠意のようなものかもしれない。

 目線を下にやり、首をかしげてやると、彼もまた同じように首を傾げた。

「今日、夕飯一緒に行きませんか」

 なるほど。実にいい。こんな夕日のさす寂しい住宅地の片隅で世界の不条理を語り合うより、よっぽど意味のある行為だ。私は無言で音もなく立ち上がり、彼の隣へついていった。彼は小さく笑うと私の頭をなでた。

「佐藤さんにはかなわないなぁ」

 そう言って苦笑して見せる彼に私は小さく「なぁ」と鳴いた。

 しっぽをひょんひょんと揺らし、塀の上を器用に歩く。夕日に照らされ伸びていく影をときおり視界に収めながら、まるで友だち同士、遊び疲れて家に帰るように。


 夢でもかまわないから、人は何かを願うのだろう。

 ちょうど、無意味な仮定を頭の中で繰り返すみたいに。


 たとえば私が、彼と同じ人間だったら、なんて。

 黒と茶色のぶちをもつ猫の私は、ふとそんなことを考える。





いつもより更に読みにくい文章をここまで読んでくださりありがとうございます。しかもなんかイタイ感じですねいや違うんです信じてくださいここからちゃんとした話になるはずなんです…!


前書きで散々注意を促したくせに全然問題なく読めてしまったのではないでしょうかすみません。でもあらすじとか、本文にもかすかに「そういうことか」と思っていただける部分があるんじゃないかと思いますので…続きもよろしければお付き合いください!


相変わらず不定期な更新になりますがよろしくお願いします。

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