鎖と風と人
バルニア王国には三人兄弟の王子がいた。
その政治の手腕は前王をも遥かに越え比類無き王の器と剣技を持つ第一王子である長男。
人より何倍も何十倍もずば抜けた頭脳を持ち様々な道具を発明しその魔術の腕は神のごときと敵方にも言わしめた第三王子である三男。
さて、ではこの二人に挟まれた第二王子である次男、フィールといえば。
剣技はそれなり、魔術の腕はそこそこ。まぁ、苦手な者よりは上手いだろう。突飛した能力は無かった。得意なこともそれを専門とした者には劣っていた。
だがフィールは自由であった。生き方も性格も考え方も、魂の底から自由な者であった。好きな風に人生を浪費し、好きな時に好きな所へ、気分気ままに旅をした。風のような男であった。
第二子といえど王子。けれど身軽に外を旅していいのかと詰め寄る者はいなかった。王と、第一王子と第三王子自身が許していたからだ。たとえ詰め寄ろうともフィールは上手く言葉を返しただろうが。
誰よりも王に相応しい第一王子と誰よりも賢い第三王子がなぜ王子らしからぬフィールの自由さを許しているのか。王は第一王子と第三王子の有能さとフィールが愚か者ではないからこその我が子にかける許容だが、二人の王子は少し違った。
フィールは第一王子と第三王子の理想や望みが人の形を取ったような存在だった。
鎖は彼を捕らえられず、いかなる時も彼は風のように心のままに進んでいく。
第一王子と第三王子は賢いからこそ気付いていた。誰よりも王子であったから知っていた。決して望もうとも自身は掴むことの出来ない生き方がフィールなのだと。決して自分は手に入れることの出来ない物。だからこそ二人の王子はフィールの好きにさせているのだ。自分は、手に入れることは出来ないから。
自由な風のフィールに、ほんのりと自分を重ねては羨み、その都度尊く眩しく感じる。
バルニア王国には三人兄弟の王子がいた。
三人の王子の仲は悪くなく、むしろ良好といえた。
第一王子と第三王子は才能に恵まれた。第二王子は才能には恵まれなかった。
第一王子と第三王子には多くの者が仕え、敬われた。第二王子は多くの景色を見て巡り、同じくらい出会いと別れの機会に恵まれた。
第一王子と第三王子は神に愛されたと言われた。第二王子は神の目に留まらなかったと言われた。
はたして神に本当に愛されたのは、どちらか。
ただ確かに言えるのは、第二王子の笑顔はそれはそれは溌剌とした生命溢れるものだったらしい。まるで、太陽のような。