第6談
獏はその頃、自室に居た。不知火にかけられた硫酸の後を包帯でしっかり巻いてある。そして、彼は机の上に飾ってあった絹糸の写真の前でつぶやいた。
「光と闇 水と炎 大地と海原 神と魔王 すべてのものについなすものが存在する。世界に対立しているものがあれば均衡が保たれ、世界は続く。この世界にはただひとつ、対なすものが存在しないものがある。それは「孤独」。「仲間」でも「集団」でもない。「孤独」に対成すものは存在しない。」
獏はそのまま外へ出た。数歩歩いたところに、野蠍刃金が現れた。彼が自分の後ろに来たことに、数秒、獏は気づかなかった。
「君、居たのか。」
獏は冷静に刃金へ言う。
「居たさ。さっき会ったばかりだろう?あれを運ぶのに苦労したよ、全く。」
「君があんな趣味してるとは思わなかったよ。君、あれをどうするんだ?」
「獏、君は本当、学校とはしゃべり方が違うねえ。先ほどまではオロオロしていたくせに――っと、話がずれてしまったね。勿論、「解体」するんだ。」
「こいつと話すのは嫌いだ」獏は心の中でいつもそう思った。なんせ、しゃべり方がとても気味が悪い。不気味だ。まるで、心の中に入りこめれるような感じがする。
「「解体」――ね。本当、気味は趣味が悪い。それじゃあ僕は先に行くよ。会う約束がある。」
「ちょっと待ってくれ。君は「New World Order」をしってる?」
「いきなり、なんだよ。」
あきれたように獏は言う。
「「New World Order」、直訳で『新世界秩序』さ。今の世界人口は70億人を超えている。このままでは人口は増え続け、地球の水・食料はどんどん減っていく。勿論、日本も例外じゃない。少子高齢化によって子供が減り、老人が増える。」
「だからなんなんだ?」
「問題は「優秀」な人類と「劣等」な人類の割合だ。今では「優秀」な人類は約3割、「劣等」な人類は約7割。聞いてもわかるだろう?増え続けているのは「優秀」ではなくて「劣等種」なんだよ。。出来の悪い親が出来の悪い子供を生む。その子供がまたできの悪い子供を生む。いずれ、人類から「天才」は消えてしまいかねない。それを食い止めるのが「New World Order」だ。人道掛氏の「ハッシュタルト社」から、耳に埋め込む「携帯電話」――これを、「電話」と呼ぶのがふさわしいかわからないが、この電話がその最初だ。」
「確かに、耳に埋め込む電話はすごいと思うよ。それが一体―――」
「『ハッシュタルト社』が目指しているのは、耳に埋め込む電話――「伝話」とでも言うとしよう。それが進化すれば、『メモリー』を人間の脳内に埋め込むことが出来る。」
「人体に……?」
「これから、人類は調整される。さらにその中から、選ばれる。『優秀な遺伝子』、がね。つまりは「優秀な遺伝子」を持つもののみが子孫を残し、「劣等種」は一生、死ぬまで奴隷として働かせる。」
「そんなことが……出来るわけ…!」
「出来るさ。「劣等種」はバカだ。この世界に流されるだけの存在。あいつらは今もだまされているから――。まあ、その話はおいておいて、続きをしよう。「優秀な人類」が、そう簡単に増えるわけがない。だから、新たな「生命の発現」が行われる。」
「まさか、それは……」
「そのまさか、「クローン」だ。「クローン」を使えば、確実に、適合的に、効率的に、この世界に君臨するものが生まれる。それが、新世界秩序なんだよ。この世界で何が起こっているか、考えるんだ。世界中での独裁国家の民主化運動、東日本大震災、9.11世界同時多発テロ、新種ウイルスの発生、TPP―――――すべて、ひとつに繫がっている。」
「まさか、君がこんなにしゃべるなんて思わなかったよ。じゃあ。」
獏はそういいきると、駆け足で目的地に向かっていった。その姿をひたすら、ずっと彼は見つめていた。
「新世界秩序―――その始まりはこのクラスから始まっている。」
「耳埋め込み型携帯ね――。よくこんなの作ろうと思ったな~」
「そんなことはどうでもいい。早く裏サイトへつなげろ、獅子。」
ヤフーニュースを見ていた獅子に秀十郎が言う。獅子はふてくされながら検索ワードに「―YYMネット―」と打ち込む。
「本当にこんなので出てくんの?」
「出てくるけど、パスワードが必要なんだ。」
秀十郎は、検索して出てきたサイトからリンクを使い、3箇所のサイトを飛んでいった。そして4箇所目のサイトにたどり着いた。画面は真っ黒に染まり、パスワード入力用の打ち込みバーが表示された。そこに秀十郎がパスワードを打ち込んだ。
『new world order』
「開かれた。真実を、探そう。」
秀十郎の冷たい声に、獅子は少し、驚いた。