第4談
【7月31日火曜日 午前9時12分】
前日の報告通り、学校で集会が行われることとなった。集会が終わり、帰ろうとしていたが、二人が死んだクラスのみ、担任の先攻寺責足によって集められていた。担任はしばらくすると、校長に呼ばれ教室を出て行った。クラスメイトがざわつく中、不知火が教卓に立ち上がり、全員に向かってしゃべりだした。
「昨日、端亜と妖光が殺されたのは知っているな?」
重くのしかかるような低い声でクラスメイト達に語りだす。
「二人を殺したのはだれか。それはこのクラスのだれかだ。だれかっていうと、そいつは…獏、お前だ!」
その言葉とともに、不知火の手下の3人・機捲自蔵、灰克九九美、滋野限海月が獏をおさえる。クラス中がざわめきだした。獏は3人の拘束を解こうと大暴れしだした。
「ぼ、僕じゃない! 本当さ!僕は、ひ、人殺しなんかじゃないんだ!!」
その獏の必死の叫びは不知火に一切届かず響かず、不知火は懐から透明の液体を取り出した。激しい刺激臭がする。塩酸だ。これは全く水で薄めていない濃塩酸である。これを人間にかければ、一瞬で皮膚が焼かれてしますほどの威力がある。
「獏く~ん? これが何かお分かりですか?」
「お、おそらく塩酸?」
「正解! 100点満点!ご褒美にこれをまずは腕にかけてあげましゅね~」
そうすると不知火は濃塩酸を腕に吹っ掛けた。「ジュー」と皮膚が焼ける音がする。痛みに耐えられず、獏が大きな声を上げる。
「熱い…いたい! うわああああああああああああああああああああああ!!」
そこへ担任の責足が教室へ入ってくる。
「お前たち! 何をしているんだ!!」
隙を開けた瞬間、獏が教室から飛び出す。
「な、何もしてませんよ、先生。不知火君は獏君と話していただけです。」
席を立ち上がり、不知火をかばうために城嶋晶子が責足に向かって言う。
「そうです先生。僕たちは獏としゃべっていただけです。別に、何も、悪いことなんてしていません。」
「それなら、いいが。なんだこに臭いは。おい、窓を開けてくれ。」
「危なかったね」晶子が不知火に小声で言う。
「やばかったな。もうちょっと気を付けねえと。」
「那珂鴫妖光君と哉気端亜君のお通夜は明日、行われるそうです。みんな制服を着ていくように。…そして夢造華金さんが黄泉泉総合病院精神科に入院しているので、またみんなでお見舞いに行きましょう。それでは、今日はここまで。みんなこんな時だが、いい夏休みを過ごすように。」
学級委員長の円翳祁翆が号令をかけ、クラスメイトが教室を出て行った。だれもいなくなった教室に3人の人影が集まる。滋野限自蔵、竹谷円円刃、宇藤大輔の3人。例外にもれず、彼ら3人は不知火の部下だ。
「円刃、宇藤、獏を殺すぞ」
真面目な顔で自蔵が2人にいう。
「不知火さんのためだ。やってのけねえとな!」
円刃が笑顔で言う。まるで今から人間を殺すようなことをする人間の顔とは思えない。
「俺が学校を探す。自蔵と円刃は外を探してくれ」
宇藤が最後に言った。
「わかった。じゃあしらぬいさん―――――――」
円刃の声が途切れた。彼らは何が起きているのか理解できなかった。ただわかるのは、円刃のカッターシャツに血のシミが現れた。すなわち、刺された。円刃の後ろには黒いフードをかぶった「誰か」が立っていた。腕には包帯が巻かれ、顔にはマスクがかぶせられている。
「俺…し…ぬのか?」
円刃がその場で倒れこむ。床に血が広がっていく。
「う、うわああああ!!!!!」
円刃の死を見た二人が教室から逃げ出した。今までにない全速力で。
円刃の持っていた携帯にニュースが流れていた。
【兵庫県公立東山路高等学校2年9組の全クラスメイトが失踪して約1か月がたつも、いまだに手掛かりはででこず、警察も捜査は難航】
【人道掛元アップルジャパンCEO、新会社ハッシュタルト設立へ】
【大阪府黄泉泉市の高校生殺害事件の犯人、手掛かりはなし。捜査難航】
悲鳴を聞いた責足が教室へはいってきた。
「おい、だい…た、竹谷円!? 大丈夫か!? 糞! 早く警察と病院をっ!?」
責足の頭部に刃物が突き刺さる。責足は絶命した。その場に遺体が倒される。
「し、死ぬのは嫌だ……だれか、だれか助けて!!」
廊下を自蔵が走り抜けていた。今日はすでに多くの教師が帰り、学校はもぬけの殻となっていた。彼の悲鳴はだれにも届かない。助けは来ない。待つ者は絶望のみ。まるで「地獄」のように。
「しぬのはいや・・しぬのはい・・・」
自蔵が走りをやめる。目の前にいたのは黒いフード、マスクをかぶった「何者」か。
「ごごごめんな…さい…ころさなで。お願い…しぬのばいやだ…」
正へすがる自蔵。そんなこともしらず「何者」かは金槌を振り上げる。
「いやだいやだいやだ…」
金槌が振り下ろされ、頭に亀裂が走り、血が噴き出る。それを見て「何者」かは満足し下げに言う
「不要物……処理」
一方宇藤は男子トイレの一番奥の個室に隠れていた。息を殺して、殺されないようにひっそりとドアにもたれかかる。すべてのドアを閉めておいたのでばれにくくなっている。廊下に「コツ…コツ」と足音がなる。宇藤は今まで以上に声を殺した。
一つ目のドアが開けられる。
二つ目のドアが開けられる。
ばれた……!!
コツ…コツ…と足音が遠くなっていく。「た、助かった…」思わず声を出してしまった。しかし、足音は戻ってこない。
「こんどこそ…」
安堵した瞬間、胸から刃が出る。ドアごと、宇藤の体が貫かれた。心臓を切られ、思いっきり血が噴き出す。数秒すると刃が抜かれ、もうろうとしていた宇藤の体が便器の中へ落ちる。血が、水にしたたり落ちた。血は水を次々浸食していった。
まるで、殺されていく2年4組のように。