最終談 終幕
彼女は一人逃げていた。みんな殺された。自分の親友、巾足絹糸に。もう、あのクラスはここに存在しない。ここにあるのはただの絶望だ。
足に劇痛が走り、敷枝はその場に転げてしまった。
「やっと捕まえた!」
敷枝の足には包丁が刺さっている。ドクドクと血が流れ出ている。その血を舐めると、絹糸は敷枝の前に立ちふさがった。
「残念だけど、もう終わりだよ? 君の負けだ」
絹糸は薄ら笑みを浮かべながら言う。
「っていうか、生きてたとしても生きる意味なんてないんじゃないの? みんな死んじゃったし。友人も幼馴染も親も」
「お、親!?」
「そうだぜ、残念ながら君の両親は殺しちゃった」
敷枝は感情が無いように感じた。なんせ、全て失った。生きる意味など、何もない。
「だから、おとなしく僕に殺されな。親友からの願いだ」
絹糸は持っていた包丁を振りかざし、敷枝に刺そうとした。その瞬間、絹糸の腹から大量の血が吹き出た。
「ふ……ふざけないで! あんたは親友なんかじゃない、殺してやる!!」
敷枝の手には足に刺さっていた包丁があった。先程絹糸を切りつけた時の血がついている。
「そ、そんな……」
敷枝は絹糸を押し倒し、再び包丁を刺した。制服に血がにじみ出る。
「ぼ、僕を殺してもいいのか? さもないと……」
言い切る前に敷枝が顔に包丁を刺した。その瞬間、絹糸が絶命した。敷枝は傷ついた足を引きずりながら校門へ向かった。
「なに? あれ」
彼女の前には機動隊がいた。
「犯人が現れたぞ! 構えろ!」
「え、ち、違う!!」
「撃て!!」
大量の銃撃が敷枝を襲った。全て彼女にぶち当たり、敷枝は血まみれでその場に倒れ込んだ。
死ぬのか、私……こんどは、こんなところに生まれたくない……みんなとわらって生きていける世界に、生まれ変われたいな……
少女・高宇土三重根は入学式を終え、自分の席に座っていた。彼女はかつて生きていた苦界敷枝とそっくりだった。そして彼女はカバンから「PRIMEVAL」という本を取り出して読み始めた。
「それ、君好きなの?」
後ろの席から声が聞こえた。彼女はこの声を聞いた覚えがあるような感じがした。
「え、ええ」
「そうなんだ、僕もなんだ。僕は巾足絹糸」
彼女の中で何かがはじけた。思い出した。私は苦界敷枝、死んだはずなのに、なんで……
「生まれ変わっても逃がさないぜ? 見てな、何もかもを壊して、君を絶望の果てに殺してあげるからさ」
終