第9談
警察は高校生連続殺人事件の捜査を拡大し始めた。それに伴い町には厳戒令が出され、町の境界線には関門が設置、捜査本部も置かれ住人の外出が厳しくされた。勿論、高校生全員が外へ出ることが許されなかった。町はゴーストタウンのようになってしまった。
「関門にはいまだに犯人と思われる人物は現れません。黄泉泉町外の渡利島町、飛花町、佐渡祀町の捜査はいまだに続いております。」
「そうか、ありがとう。これ以上被害を広げるわけにはいかない。がんばってくれ。」
「分かりました。」
苦界警部とその部下はパトカーに乗り込み警視庁へ向かった。多くの捜査官が葬式会場で捜査を行っている。被害者・明日葉美弥の顔がぐちゃぐちゃになったため、警察は身元が判明できていなかった。現場に残された大量の血痕からDNA鑑定が行われている。しかし、一向に犯人の証拠は全く出てこない。捜査は全くと言って良いほど進んでいなかった。唯一分かったのは、犯人が複数存在している、と言うことだけだ。なぜなら、学校で殺人が行われた際4人の被害者が同時刻にばらばらの場所で殺害されているからだ。
「何故、犯人たちはクラスメイトを殺害しているんですか? クラスメイトに虐めにあった者が復讐しようと?」
「いや、クラスメイトに虐められていたという巾足絹糸はすでに自殺している。」
「まさか、幽霊の呪い……?」
「馬鹿なことを言うな。」
「す、すみません。」
『苦界警部へ報告。2年4組のクラスメイトが墓場で殺されていることが分かりました。すぐ向かってください。』
部下が苦界警部へ視線を向ける。
「またか……」
「それで、あなたはこの少年と会話したんですね?」
「あーはい、そうですが」
「いつごろですか?」
「確かねえ~たしかきのうの2時ごろかな。この子がお墓参りしてたんで、褒めてやってんですよ。」
「分かりました。ありがとうございます。」
苦界警部が老人にお辞儀をした。老人はそのまま自分の家へ向かっていった。
「ということはあの後すぐに殺害されたことか。」
現場には血痕が大量に残っていた。すぐに鑑識にまわし、殺害された少年が月島秀十郎だと言うことが分かった。そして、秀十郎の携帯電話が犯人によって盗まれていた。すぐさま居場所を確認しようとしたが、すでに携帯電話は壊されていた。その上、最後の使用場所が墓場だったことが分かった。
「少年がお参りしていたのはここか……」
「巾足家の墓、ですか」
「彼女と月島君は幼馴染だったと言われている。死んだことを相当悔やんでいたろうな。失礼な話、私は月島君が犯人だと思っていたよ。」
「何故?」
「幼馴染を虐めていたクラスメイトに復讐するため―――とかな。まあ、この子が殺された今では全く違うが。」
「犯人いったい誰なんでしょうか―――」
「なんだかな、これ以上関ったら私たちも危ない気がするよ。」
――――――――――――――――――――――――――――――
敷枝は自宅のベッドで寝ていた。現時刻は12時。一向に起きようとしない。なぜならば、クラスメイトが3日間で7人も殺されたことに心が、精神が耐えられなくなった。完全に心を閉ざしてしまった。母親の声にも反応しない。このまま、クラスメイト全員が殺されてしまうのではないか、そんな不安が頭を駆け巡っていた。部屋に光は差し込んでこなかった。
不知火は自分の部屋で昌子と電話で喋っていた。あの5人が殺されて以来、彼の怒りは頂点に達していた。彼はついに、獏の殺害計画を企てていた。人間、窮地に追い込まれると必ずしも正気を保っているわけでない。正気は狂気と成り、人道から乖離し、人外へと変貌する。伐誤不知火もそのうちの一人だ。つい最近まで、お遊びとして人間壊しを楽しんでいた彼は本気で人間壊しを行う心へとスライドした。
「今日の深夜、10人くらい連れて黄泉泉駅に集合だ。」
「分かったわ。警察がうろついてるけど、大丈夫?バットとか持ってたらヤバくない?」
「そこらへんは大丈夫だ、父さんに頼んで何とかしてもらう。」
電話を切るとそのまま、自分の父・伐誤炊火に電話をした。すぐに会話は終わった。
「おい、誰か! 助けてくれえええええええええ!!!!!」
家の外から断末魔が聞こえてきた。警戒令が出され、警官以外は誰も道路を歩いていない。先ほどの叫び声はおそらく警官の一人だろう。不知火はカーテンを開き、外の光景を確認した。そこには心臓が抜き出された警察官が3人、倒れていた。
ガチャン! と家中に鳴り響く。誰かが侵入した。不知火は部屋に備え付けられている電話と取り、家政婦に連絡をとった。
「おい! ババア、どうしたんだ俺の家に何があったんだ!!」
「そ、それが坊ちゃんのお友‥‥‥ゲバァ」
喋っている途中に首を掻き切られたのだろうか、血が受話器にこぼれ落ちるような音がした。
「獏か、獏かぁ! てめえこの野郎、ぶっ殺してやらあ!!」
不知火は隠し持っていたサバイバルナイフを机から取り出し、部屋を飛び出る。叫び声が聞こえた2階へ駆け下りる。そこは血の海と化していた。