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鐘の音

サブタイトルは、(かねのね)と読みます。

ゴォンと重い鐘の音が、試合の始まりを告げた。


「手加減は無しだ。」


愛剣をアルフォンスに向け、クリスは真っ直ぐに彼を見つめた。


「勿論、そのつもりだ。」


何が嬉しいのか、アルフォンスは先程から終始笑顔だ。


―気味が悪い。


そんなことを思ったが、クリスは目の前にいる相手に集中し、切りかかった。

背は比較的高いクリスだが、体格の良いアルフォンスに真っ向から挑めば簡単に負かされてしまう。そのため、向こうから仕掛けてくるのを待つ。体格が良いなら細かい動きは出来なくなり、剣を振るのも大ざっぱになってくる。その隙を狙って相手を倒す。

しかし、なかなか仕掛けてこないので、時折こちらから挑発していく。

カァンカァンと剣が交わる音が響き、辺りから歓声が湧く。


仕方がない、こちらから動くか。


あまりに剣を受けるだけのアルフォンスにごうを煮やして、クリスは仕方なしに回り込んで背後から剣を振りかざした。しかし、瞬時に振り向いたアルフォンスに受け止められてしまった。


「なんだ、やっと本気を出してきたか?」


「うるさいっ!貴様が何時までも生ぬるい事をしておるからだ。」


頭の上から振り向いていた剣を息も着かせないほど早く、横に切った。

ヒュンと乾いた風を聞る音が響き、対象物がそこにいないことを物語った。


「逃げるなっ!正々堂々、真っ正面から切りかかってこいっ!!」


そのことに全く気にせず、瞳をギラギラと怒らせてクリスは細かく切りかかる。


「はは、愛する女性に切りかかるなんて事出来ないさ。」


「その減らず口が叩けぬようにしてやろう。」


ははー、と余裕に笑うアルフォンスを見て、余計にしゃくに障ったのか、足元を崩しに掛かった。

その様子を見ていたクリスの両親。ゼウスⅡ世とその妻アリス。


「ねぇ、アリス。まるで夫婦喧嘩みたいだね。」


「あら、恋人同士の痴話喧嘩と言ってあげないとまだ若い二人には失礼よ?イヤだわ、あなたったら。ほほほ。」


「そうだね―、あはは。」


まるで二人の周りに花が咲いたような、のほほんとした会話に隣に座っていたクリストファーはそっと溜め息をついた。試合は相変わらず姉が一方的に攻めている。


「やる気があるのかっ、貴様!」


「勿論さ。まぁ、そろそろ頃合いだろう。」


イライラと聞いてきたクリスに、にこやかに返事をしたかと思えば、なんの前触れもなく反撃を彼は開始した。


「昔にした約束覚えてるかい?」


クリスを隅に追い立てながら、彼は余裕で聞いてくる。


「昔の約束だぁ?」


「そう、ほら。ちょうど僕らが十歳の頃にしただろう?」


必死に剣を受け止めながら、クリスはさっと思考を巡らした。が、そんなような記憶は蘇ってこない。


「何の約束だ?」


「なんだ、おぼえていないのかい?」


少し寂しげに顔を曇らしたアルフォンスだったが、直ぐに嬉しそうにそれを語ってくれた。


クリスティアとクリストファーの双子の姉弟と、アルフォンス達三人は、互いが3つの時からの付き合いだ。良縁を結んでいる国同士の為か、はたまた単に互いの両親達が仲が良かったからか。理由は多々あるが、とにかく幼い頃から三人はいつも一緒だった。

出会いは3つになったアルフォンスが、初めて両親と年の離れた兄に連れられ、剣使いの国に来た時。初めてあった同い年の姉弟には強烈な印象を受けた。何せ、普通男性の後ろに立ち将来夫を支える役割になるはずの女性が、弟の背に跨がり玩具などといえない剣を片手に、上機嫌で3つの弟を男泣きさせていたのだから。

ここでアルフォンスが普通の子供だったならば、なんて野蛮な王女と気弱な王子だろうう思っただろう。

「さすが剣使いの国と呼ばれるだけあって、御子も威勢がよくらっしゃる。」

「なんて元気なご姉弟だろうね。」

双子を見てそう感想を述べた両親と兄。そんな家族に囲まれて育ったアルフォンスだから、クリスティアを見て、なんて素敵な女性なのだ!と一目で恋に落ちたらしい。

そんな恋する男アルフォンスの片思いは、鈍感なクリスティアに気づかれることなく続き、気づけば彼女も自分も互いに27という年になっていた。しかし、十歳の時に一度アルフォンスはクリスティアにプロポーズしていた。


「クリスティア、君を愛してる。成人したら僕と夫婦になってくれないか。」


「私は自分より弱いやつとは結婚しない。お前は剣を扱った事がないらしいではないか。そんな奴などごめんだ。」


念の為言っておく、彼らはまだ十歳である。噴水のある綺麗な庭で、真っ赤な薔薇を大きな花束にして、大人顔負けのプロポーズをしたアルフォンスをクリスティアは鼻であしらった。しかし、ここで諦めるアルフォンスではない。


「ならば、君より強くなって誰よりも優ったら、お嫁さんになってくれるかい?」


「望むところだ。」


当時の自分はよっぽど負けない自信があったのか、胸を張って答えたらしい。


「そんな約束したか…?」


あくまでとぼけようとするクリスティアに、アルフォンスは一層笑みを深くした。


本当なら、成人した時に正式に結婚を申し出ようと思っていたが、成人を目の前にしてクリストファーが病に倒れ、クリスティアが代わりを買って出たため、結局長いことまともに相手をしてはくれなかった。

仕方がないから、めったに手に取らなかった剣を手にクリスティアとの約束を思い出していた。

そして閃いたのだ。

自分を高めるのを好きなクリス。腕を磨いた自分が戦いを挑めば、きっと彼女も喜んでくれるはずだ。


「わ、私は知らぬぞっ。」


じりじりと逃げ腰のクリスをさらに追い詰めたアルフォンスは、確実に彼女の逃げ場をなくしていく。


「おや、責任転換するのか?」


「違う!」


「じゃあ、僕と結婚しよう。」


「それこそお断りだっ!」


「頑固だねぇ。」


カキンっと爽快な音がクリスの耳に届いた時には、手元にあった愛剣はアルフォンスによって遥か遠くに弾き飛ばされていた。


「この勝負は貰ったって言わなかったけ?」


笑顔を顔に張り付けているアルフォンスを見て、クリスはこれが何かの冗談であるようにとひたすら願った。



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