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二人のクリス

第三者目線です。


「クリスはいるかっ!?」


静かな午後の一時がゆったりと流れる中、それをぶち破る勢いの盛大な音と共に、部屋の扉が開いた。ジェームズを引き連れ部屋に入って来た人物は、不機嫌そうにズカズカと部屋に入ってくる。その姿に苦笑いしながら、手元にあった書物から顔を上げた。


「やぁ、クリス。また、父上と喧嘩かい?」


硝子張りの壁に囲まれたこの一室は、沢山の植物に囲まれた温室となっており、部屋の中央に置かれた豪勢な寝台の上で体勢を整えた。


「聞いてくれ、クリス!」


「あぁ、父上から聞いたよ。アルフォンスから、ラブレターを貰ったって?」


自分で言っておきながら、笑いが込み上げてくる。相手に椅子を進めて、書物を閉じると小さな金色のベルで侍女を呼び、お茶の準備をさせた。


「ラブレターじゃない、決闘の申し込みだ!全く、あの口の軽い肉団子め。冗談じゃない。」


「じゃあ、断るんだ?」


「何を言うかっ!ここで逃げたら、この剣使いに生まれた誇りが許さん!」


そんな怒る双子の姉を微笑ましく見つめた。月色に輝く美しい金色の髪に淡い紫色の瞳は母譲りで、容姿は彼女とお互い何一つ違わずに生まれ持った。性別だけは違うが、母でさえ間違う程にそっくりな容姿を使って、姉・クリスティアは、弟・クリストファーに成り代わり、王政を担っている。


27年前、長年子に恵まれなかった剣使いの国に、念願の子供が生まれた。子供は双子で、美しい王妃に似た姉弟だった。男性しか王政に関わることが出来ないこの国に、男児が誕生したことは大変喜ばしい事だった。しかし、双子が成長するにつれ、問題が次々と出てきた。最初は、跡を継ぐべき王子より王女の方が、剣の才能に優れていることだった。男勝りな王女と心根が優しい王子。周りの者達は、口々に「王女が王子だったら…」と言ったものである。そんな二人が12になった秋の終わり、クリストファーが流行病にかかってしまった。治らない病気ではないものの、根本的な治療法が見つからず王子が寝たきりとなり、皆が皆頭を抱えた頃「私が王子になるっ!」と身代わりを申し立てたのは姉であるクリスティアだった。王子は剣の腕前を上げ、王女は病気になり離宮で治療に専念していると国民には発表している。そうして月日は経ち、15年という年月が経っていた。


「でも、寂しいなぁ。クリスがお嫁に行ってしまうなんて。」

「なっ!クリスは、私が負けると言うかっ。」


ポツリと呟くと、クリスティアは憤慨して怒る。容姿はそっくりでも性格は全く違うのだから、面白い。


「違うよ。」


自分が病気に掛かってクリスティアは、すっかりいき遅れとなってしまい、もう27だ。彼女が国を去れば、この国は大きく傾くだろう。しかし、そんなことを言ってはいられない。今で頑張って来たのだから、女性として子を持ち、幸せな家庭を築いて欲しいと言うのが、皆の願いだ。


「そんなつもりで言ったんじゃないよ。でも、いつかはクリスティアもお嫁に行かなくちゃいけない。」


「私は、嫁になどいかん!」


出来れば、一緒にいたい。けれど、そんな事は出来ない。ならば、信頼できる男に貰ってもらえばいい。彼なら必ずや、大切な姉を幸せにしてくれるだろうから。


ムスッとしてお茶を飲む姉を見ながら、少し寂しそうに笑った弟は、後数える程しか無い姉弟の水入らずの一時に身を任せた。



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