15・雛のためになるお勉強
更新が遅れました。これからの展開では更新が遅くなっていくかと思われます。
食堂につけばあちこちからお誘いの言葉があったけど断って私とフレイム、ボズ、餓鬼で座った。私はサイズ的にそんなに食べられないだろうから二人からちょっとずつパクれば良いよね。椅子に座ったら絶対背が届かないからテーブルの上に飛び乗り餓鬼のま正面に座った。四人掛けのテーブルは他のテーブルとくっつけ合うことなく置かれていて、整然と列を作ってはいるものの隣り合うテーブル同士の間にはすれ違えるくらいの幅が確保されていた。使役魔を連れて食事を摂るからその場所が必要なんだとか。グリみたいに小さい魔物ばっかりってわけじゃないから当然なのかもね。たとえばラグみたいな。
皆が集まらないと食事にならないからだろう、まだガヤガヤと騒がしい食堂を見回してみれば、私たちが食堂の半分を使って、女の子たちがもう半分を使っているのが分った。きっちりと真ん中で線引されているみたいに交わらない双方を見て首を傾げる。餓鬼のクラスには男子しかいなかった。つまり男女でクラス分けされているんだろう。でもそれにしても、このお互いに不干渉とでも言いたげな態度は何なんだろうか? 仲が良くないのは分ったけど、程度が過ぎる。
「ねーね、にゃんでおんにゃのことわかれてゆの(何で女の子と分かれてるの)?」
「……もう一回」
「なんれおにゃのことわかれちぇるの?」
「ワンモアっ」
「なんでおにゃのことわかれてうの?」
何度言わせる気だ、聞き取れ! て言うかレッツゴーが分らないくせに何でワンモアは分るんだ? どこまでなら通じてどこからが通じないのか……。二度目までならまだしも三度目になればイラっとくるものだ。こっちを理解しようという気がないから何度も聞き返すことになるんだボケが。身近な人間に子供はいなかったのか?
「ああ、そんなことか。女子が俺たちを見下してるからだ。オレたちは三年になってから使役魔を召喚するが、女子はそれより半年早く召喚するんだ。勉強も先に進むから偉そぶってるんだよアイツらは。それに金持ちの娘ばっかりだし……平民だからって馬鹿にしてるんだ」
女子の方が頭良いもんね。公務員試験でも男女の比率を合わせるために頭の良い女の子を切り捨ててそれより成績が下の男を入れると聞くし、男女別クラスにして授業の進度を変えるのはお互いにとって良いことだと思うけど――男子と女子の間を険悪にしちゃうくらいなら混合クラスにした方が良いだろうに。
「ふーん」
女子が男子を見下している、か。見下していると言うより眼中にないってのが正しいんじゃないかな、この年齢だと。やっぱり十歳かそこらになると第二次性徴が現れる子も出てくるもので、胸が大きくなってきただとか胎盤の準備が整っただとかいう変化が起きてくる。心身ともに大人の階段をのぼっている女子に対し男子はまだ子供っ気が抜けず、女子からすれば野蛮で汚い生き物に見え、年上の男子が恰好良く見えるに違いない。男女混合クラスならまだ相互理解のしようもあるけど、普段交流がない状態なら余計にアウトオブ眼中になるのも頷ける。
「失礼するよ」
真っ直ぐこっちへ向かってくる足音がすると思えばアルタイル君だった。グリがアルタイル君の肩から滑り降りてさっきぶりと頭を下げる。アルタイル君は空いた椅子を引いて座り、向かい合う餓鬼とボズにニッと笑んだ。
「いつものオトモダチはどうした」
「毎回友人と一緒に食べているわけじゃないけど?」
「ここはいつもオレたちが使っている」
「どこで食べても味は一緒だよ」
「友人でもない奴と一緒に食べたくないと言ってるんだ」
「僕はミラと友達だけど?」
餓鬼が私を見たから私は頭を振って答えた。私から見て信用できるのはアルタイルであってボズや餓鬼じゃない。たまごからかえる前に暴落した株は簡単に戻らないし戻すつもりもない。底辺の信用を回復するには本人が変わる他ないのだよ。
「ちっ」
餓鬼は嫌そうに顔をしかめ、その肩にボズが手を置いて慰めるような仕草をする。嘆きたいのはこっちじゃ、許したとはいえ自分が誘拐犯であることを忘れるな。餓鬼が今一番優先すべきことは私の身の安全と自由であり、私が餓鬼の『使役魔』であると周囲に思われている以上私と行動を共にする必要がある。私はまだあんたが私のことを『これ「で」良い』と言った貴様の台詞を許していないんだからな。
「さっきは何の話をしていたんだい?」
「おんにゃのことだんちがなかわりゅいりゆう(女の子と男子が仲悪い理由)」
私が視線で女子の方をちらりと見ただけでアルタイル君は理解してくれた。アルタイル君が念話を使えたら便利だろうに……全く宗教の壁とは不便なものよ。
「彼女たちはみんな上流階級の出なんだよ。だからほら、美人が多いと思わないかい?」
言われて見てみれば皆さん美人ばかりだ。将来が楽しみな美少女大集合といったところかね。それにしても何で上流階級のお嬢さんは美人なんだろう? そういえばアルタイル君も美少年だし、昔に上流階級総美形化計画でもあったんだろうか?
「一般家庭では男の子には魔法を習わせようと言う気になっても女の子には習わせないことが多い。だいたい研究機関でもどこでも魔女は冷遇されるからね」
「らんじょさべちゅ(男女差別)!」
「モンスターの世界では女尊男卑なんだよね? でも人間の世界では逆なんだ。魔女になるメリットはあんまりない。ただ魔法使いと魔女の間には子供が魔力を持って生まれてくる確率が上がるから貴族の中では魔女は優遇されるけどね」
勉強のし損じゃないかそれ。中には真剣に魔法を使いたくて勉強する子もいるだろうに、自分の才能を使える場所がないだなんて寂しすぎる。――でも、私がどうにかしようと奮闘したところで簡単に変わるものじゃない。それに私は人間じゃないからどうしても彼女たちの心に沿うことはできない……彼女たちの気持ちを真に理解できるのは彼女たちだけなんだから。
ざわめきが静まった。食堂の前方にある台にふくよかな女性が立ち、食前の祈りを始める。どうやらこれから食事が始まるようだ。
「日々の糧を与えたもう、始祖にして我らの神であるセシカに感謝を」
「感謝を」
どうやら祈りの決まり文句らしい言葉を少年少女の声が復唱すると、前方の出入口から料理を乗せた台を押したメイドさんやら執事さん(っぽい人)が現れた。湯気の立った料理の香りが食堂を満たし自然とお腹が鳴った。体が小さい分音も小さくてアルタイル君にはばれなかったけどグリが気付いてニヤニヤした。獣だから耳が良い……! 肉にして食ってやろうかと念話で言えば顔をひきつらせてぶんぶんと頭を振ったから、もうさっきみたいなことはしないだろう。
アルタイル君からスープをもらったりパンを一欠片もらったり、餓鬼から肉を奪ったりボズからサラダのトマトを摂ったりした。本来なら使役魔用にそれぞれご飯が用意されるらしいんだけど、私がたまごからかえったことの情報が届いていなかったらしく用意されていなかった。元々奪うつもりだったから気にしないけど。明日の朝からはアルタイル君たちの五分の一の量にしたのが出されるらしいから楽しみだ。
人間用の紙ナプキンは私には大きいから千切って口元を拭く。食事を終えた者とまだ食べている最中のもの半々といったところだろうか。アルタイル君は既に終えている。
「さっきの続きだけどね――ミラ、上流階級の人間は皆顔が整っていると思わないかい?」
「うん、おーう(思う)」
「それは上流階級の人間が市井の美人という美人を奥さんにして行った結果なんだ。奥さんが美人ならその子供もたいがい美人になるだろう? 最近は鳴りを潜めたけど、昔はどこそこの娘が美人だと噂がたてば、そこに数十人の貴族が押し掛けたものだよ」
「…………なんちゅーこった」
つまり美人顔の遺伝子をこれでもかと注いだ結果がアルタイル君というわけか。なるほど、アルタイル君の美貌はちょっと人間離れしていると思っていたけどそんな原因が。人工美人と言えなくもないけどコーディネーターじゃなくてナチュラルだから問題ないのかもしれない。
「なまじ自分の姿が美しいと、気位も高くなるものさ」
――つまり。アルタイル君が言いたいのは、彼女たちの貴族としての埃……じゃなかった、誇りだけじゃなく、彼女たちの美貌も男女間に壁を築いていると言うことか。『美しい私に貴方の様なブ男は似合いませんことよ』みたいな。そりゃあ壁も出来るってもんだ。男子クラスは半分が平凡顔だもんね、中には例外もいるけど。