それは私の仕事ではありません
「ソフィとの婚約を破棄するよ」
婚約を破棄された。
理由は・・・
「君は無能だ。使用人達に冷たい。使用人が相談しても『それは私の仕事ではない』と突き放す。しかし・・ゴホン」
「ペティは使用人でも微笑んで会話しているの。貴女に総領娘の座は務まらないわ」
「お義姉様、可哀想、あたし、使用人達を慈しみ。頑張ってルーカス様とハイド家をもり立てるわ。それが亡きお義父様の願いだと思うの」
私は粛々と受け入れて屋敷を去るしかない。
「ソフィ、奉公先を用意したの。寄親よ。さあ、行きなさい。荷物は用意しましたわ」
「はい、お義母様」
「「「ペティお嬢様、おめでとうございます」」」
「ルーカス様とお似合いだわ」
周りにいた使用人達は喜ぶ。
私はカバン一つで屋敷を追い出された。
使用人達の歓喜の声を背にして門を出る。
改めて屋敷を見て礼をする。
私を慕う使用人はいない。
しかし・・・・
「お嬢様、お待ち下さい」
「お嬢様、グスン、グスン」
この家の執事長とメイド長がやってきた。
「お嬢様、お労しい」
「グスン、些少ですがお金を集めました」
私はメイド長が差し出すお金をそっと押し返した。
「お世話になりました」
「グスン、これから私達はどうすれば良いでしょうか?」
「ええ、そうですよ」
「それは私の仕事ではありません。自信を持ちなさい。貴方たちならこの状態を1年保てます。それでも悩んだら、私の所に相談に来て下さい」
お父様が存命中のことを思い出した。
執事長、メイド長がまだ平の役職だったときだ
☆☆☆
お父様は優しかった。
しかし、一度だけ激怒された事件があった。
『お嬢様!どちらにいらっしゃるのですか?』
『お嬢様!』
ふいに隠れんぼをしたくなり。
使用人部屋のベッドの下に隠れたのだ。
使用人達は騒いだ。
やがて、騒ぎを聞きつけお父様がやってきた。
『部屋の中にいない?まさか、誘拐か?!』
『はい、屋敷中を探しました』
お父様の大声で顔を出した。
『お父様!』
『どうしたのだ?ソフィ怪我はないのか?』
『エへへへ、使用人達と隠れんぼしたくなったの』
抱きしめてくれるものだと思ったが。
【馬鹿者!使用人達に心配をかけるな!それは総領娘の仕事ではない!】
一喝された。
「貴族は使用人に心配かけさせてはいけないのだ!」
「旦那様、ソフィ様は子供ですから・・」
「謝れ!」
「お父様、ごめんなさい。グスン」
「いいや、使用人にだ!お前がいなくなったら首が飛ぶのだぞ!」
・・・・・・・・・・・・・・
そんなことがあったわね。
私は寄親のブラント公爵家に雇われた。
ここでは出納係の一番下の役職である。
一応、子爵家での実績が評価されたらしい。
「仮にも子爵家を切り盛りしていたのだろう。手腕を見せよ」
「はい、旦那様」
しかし、淡々と業務をこなすぐらいだ。
ある日、坊ちゃまが来られた。
「ねえ。お小遣いが足りなくなったから、少し都合をつけてよ」
12歳と聞いている。確か養子に来られたクレス様だわね・・・
「では、奥様がかかれた伝票をお見せ下さい」
「急な社交で足りないのだよ。前の奴は学用品の名目で出してくれたよ」
「ダメです」
「何で、融通が利かないな」
「それは私が判断することではございません」
「判断しろよ」
「それは私の仕事ではございません」
「覚えていろ!」
まただ。屋敷でもこんな感じだった。
☆☆☆
『ソフィお嬢様、メイド長が厳しすぎます。朝4時から18時まで勤務です』
使用人達が直接私に文句を言いに来ることが多々あった。
『そう?それは週に1日だけでしょう?他の勤務では15時に終わらせる日もあるわ』
『でも、ペティお嬢様付のメイドは毎日楽ですよ』
『それは私の仕事ではありません。メイド長の仕事です。メイド長に直接言いなさい。メイド長から話が来たら考慮します』
(お嬢様は本当に融通が利かない)
そんな声が蔓延していたわ。
・・・・・・・・・・・・
まただ、同じ過ちを繰り返すのかしら?
案の上、クレス様は。
『お義父上に報告するからな!』
捨て台詞を吐き。その足で旦那様の執務室に向かわれたわ・・・・
☆☆☆
「あの最近来たメイドは無愛想で少しも話を聞いてくれないのです」
クレスは義父にソフィの悪口を言い放った。
公爵はニコニコして聞いていたが・・・
「うむ。返品だ」
「そうでしょう?あの出納係はクビだよね」
「いや、お前だ」
「え、何で・・・」
「クレスは能力があったかもしれないが、性格に難があり・・・か」
「そ、そんな。だって一生懸命に頑張ったからご褒美があって良いはずです」
「クレス君、荷物をまとめて出て行きなさい」
「そ、そんな馬鹿な!」
・・・クレスは元男爵家令息、確か四男だ。成績が良かったから次期公爵として養育しようとしたが、男爵家とは小遣いの規模が10倍以上だ。
身を持ち崩したか。
「クレスの要求を断った出納係について調べろ」
「はい、旦那様」
妻、メイド長、執事長、娘のエリザベートを集めて話合いをした。
「まず。すまない。クレスを私の一存で返品をした」
「ええ、私の所に前借りに来ましたから断っていましたわ。微々たる額でしたが・・」
「お母様、遠い異国の諺に、アリの穴で堤防が決壊するとあります。それがいつしか大きな額になったかもしれませんわ」
執事長が経緯を話してくれた。
「クレス坊ちゃまは、前の出納係が内緒でお金を渡していたようです。名目は学用品です」
「では、メイド長、ソフィの勤務態度について教えてくれ」
「はい、一言で言えば、真面目の一言に尽きます」
「真面目か・・・『馬鹿な怠け者』か、『頭の良い怠け者』なのか判断に困るな」
貴族の格言にある。
人は四種類に分類される。
まず。一つ。
頭の良い働き者、長に最適だ。頭の良い働き者は入念に計画を立て、夜も寝ずに監督の続行に努めるだろう。
二つ。
頭の良い怠け者、現場の指揮官に最適だ。彼は頭の良い働き者の命令を現状に当てはめて、最も労力の少ない方法で命令を実行するであろう。
三つ。
馬鹿な怠け者、彼は頭の良い働き者の命令をかみ砕いて実行できるようにした頭の良い怠け者が出した指示を忠実に守るが、それ以外のことはしない。
それで十分だ。失敗しても容易に修正がきくであろう。
四つ。
馬鹿な働き者、現場を引っかき回す最悪な人種だ。組織にとって有害だから。
殺してしまえ。
ワシは試すことにした。
「ソフィを出納長に昇進させて、クレスに小遣いを渡していた使用人をクビにしろ」
「畏まりました。すぐに解雇を申し渡します」
「いや、クビの宣告はソフィにやらせろ。その様子をカゲに見させろ」
「畏まりました」
・・・・・・・・・・・・・
「ソフィを出納長に任じる」
「はい・・・・」
何故か、出納長に命じられたわ。今までとは扱う額が違う。
「あの、執事長、私には無理です」
「うむ。旦那様の判断である。そして、ソフィ殿、最初の仕事だが・・・」
前の私の前任者に解雇通告だわ。嫌だわ。
「な、何でだよ。坊ちゃんの言われたことをしただけだ!」
私は彼の目を見て話した。
これもお父様の教えだわ。
『いいか、ソフィ、使用人に不利益を話す時は目を見て通告するのだ』
「タビン様、旦那様の判断でございます」
「ウゥ・・・では私はどうすれば・・・」
「もう、お金を扱う仕事でケチが付いたら、どこもお金を扱う仕事で雇ってはもらえないでしょう」
「グスン、グスン、妻と子がいるのに」
「ダビン様、旦那様に心から謝罪の意を表明して何でも良いから雇って下さいと執事長に懇願してください。そしたら道が開けるでしょう」
「グスン・・・グスン」
「それか冒険者になるしかございませんね」
・・・・・・・・・・・・・
「ほお、目を見て解雇通告をしたか・・・、して、ダビンが何でも良いから雇って欲しいと?」
「はい、旦那様」
「まあ、良い。金を扱う職以外つけてやれ。そうだな。トイレ掃除係が良いか?屈辱に耐え。反省の意が確認出来たら、執事見習い。厨房、何でも良い空いている職につけてやれ」
「畏まりました」
ふむ、まずは合格だ。
しかし、妻から報告が来た。
「メイド長の話だと、ソフィの勤務態度は良好よ。しかし、真面目すぎるわ。融通が利かないように思えるとのこと」
「そうか。なら、リディアに仕込ませろ」
「・・・まあ、旦那様もお人が悪い」
リディア、カゲの娘だ。エリザベートの身辺警護を受け持つ。
見た目は派手で信用がおけない雰囲気を醸し出している。
エリザベートに侍るレディスメイドの名目だ。
わざと侮られるように振る舞って油断させるのが得意だ・・・・
リディアを飛び込ませた。
「ちょっと、ソフィ出納長、大変じゃーない。お母様が病気じゃない。緊急貸し付けをして欲しいのだけども・・・」
使用人には病気、怪我の時に金を貸し付ける制度がある。
メイド長、妻の裁可が必要だ。ワシの一存で出来るが、
この日は皆留守であることにした。
「リディア様、数日かかるかもしれません」
「明日にも亡くなるかもしれないの!緊急に聖女様に見て頂かなければいけないじゃーない?!」
「まあ・・・」
ソフィは。
「分かりましたわ。病名は何ですか?」
「ソグド病だって手に負えないって回復術士は言っていたじゃーない?」
「魔力が暴走する病気ですね・・・」
「えっ?!」
本を広げ調べ始めた。
まあ、何とも真面目だ。
「ありました。覚悟が必要です。緊急で金を貸してくれる慈善団体がございます。
一生返せないくらいの借金が出来ますが、1日で金を貸す証明書をかいてくれるそうです。その証書を持ち聖女様に見せれば・・・・・」
「ちょっと、やっぱいいじゃーない?」
けんもほろろに断るでも無し。
リディアの嘘のために動いたのだ。
ここでワシらは顔を出した。
「馬車を手配します・・・・まあ、旦那様、実はリディア様が・・・」
「すまない。まずわびよう。君を試そうとした」
「まあ・・・」
「やや不十分だが、合格だ」
「・・・有難うございます。これからも出納長として微力を尽くします」
「いいや、我が家門の一員になってくれ」
「・・・はい?」
ソフィを養子にした。
ソフィと我が家門の親戚と婚姻させて公爵家を継がせる。
エリザベートは王妃になるのだ。
「あの理解が追いつきませんわ・・・」
「いいから、今日から仕事は使用人に任せなさい。君はエリザベートの義妹として社交をしなさい。顔を覚えてもらうのだ」
「はい・・・旦那様」
「義父と呼べ」
理解が追いつかない。私はお父様の真似をしているだけなのに・・・
『いいか。ソフィ、最後は情が大事なのだ』
「私の義妹ソフィですわ。皆様、よろしくお願いします」
「「「よろしくお願いしますわ」」」
「ソフィ・ブラントです。よろしくお願いします」
令嬢たちはよく笑う。辛い事もあるだろうが、愛されて育ったのが分かる微笑みだわ。
「ソフィ様、貴公子の間で誰がソフィ様を微笑ますか競われていますわ」
「まあ・・・」
輝く場にはなれていない。
その時、義妹の声が聞こえた。キンキン声だ。
「まあ、お義姉様、席を間違えておりますわ。ここは高位貴族の場ですわ」
「ペティ・・・何か様子がおかしいよ」
ルーカスも一緒だ。
「失礼しました。お義姉様、席を立って・・・」
「ペティ、やめようよ・・・」
ルーカスはペティを制御できていないのね・・・
ペティはエリザベート様に喰ってかかったわ。
「お姉様は使用人に愛想を尽かされて総領娘でなくなりましたわ!」
「知っているわ」
「しかも、婚約破棄をされた瑕疵のある女です!」
「知っているわ」
「私こそがその座に相応しいですわ!私が公爵家の一員になれば笑顔が絶えない家門になります」
「それはいらないわ。リディア!」
「はーいじゃない。お嬢様」
リディア様に関節をおかしな方向に決められて会場を連れ出されたわ。
「出ていくじゃーない?」
「ヒィ、やめて」
「フウ、大変ね・・・」
「大変失礼しました」
それから、ハイド家の執事長とメイド長が来たわ。
そうだわ。丁度一年後だった。
屋敷のことをきく。
「グスン、ええ、私が決めた仕事を使用人が奥様やペティ様に直接言って変えさせたりします。しかも、私に事後の報告もありません」
「使用人の間で奥様派とペティ様派で派閥が出来ておりますわ・・・メイド長はいてもいなくても・・・」
「そう、なら、私の元にきますか・・・」
「「はい、是非」」
2人は夫婦だ。私の秘書をやってもらうことにした。その裁量は与えられている。
理解に苦しむ。私はただ使用人のポジションを守っただけなのに。
それから執事長とメイド長がやめてから家政不十分であると報告が来たわ。
「ソフィよ。もう、あの家はダメだ・・・使用人がおのおの勝手に振る舞っている」
「お義父様、申訳ございません」
「寄親として、領地管理人を置くことにした。誰が適任か?」
「それは・・・」
お父様の家門だ。
「元の執事長とメイド長が領地管理人に最適任でございます」
「うむ。手はずを整えよう。で、子爵夫人とペティ嬢とその婚約者ルーカスには屋敷を出てもらう。その通告をしてもらいたい」
「はい、義父様、それは・・・・」
一瞬、言葉を貯めた。父の家門・・・・
「それは私の仕事でございますね」
「うむ」
義父は満足げに頷いた。
久しぶりに言えた。私の仕事ですと・・・
最後までお読み頂き有難うございました。




