第116話 主角と返し
返しまで待つ動きが全体に共有されると、前衛の攻撃も少しずつ噛み合い始めた。
『今!』
トトロクの声に合わせ、左右から攻撃が入る。
主角担当の二人のブレイカーがそれぞれの武器を根元へ叩き込み、そのすぐ横からドグマルも槍を突き込む。
ルウナは少し外側を回り、返しが通った直後にその根元へ大斧を合わせようとしていた。
でも、踏み込んだところでモノセロスがすぐに体の向きを変えた。
「駄目です……」
ルウナは追わずに離れる。
主角に比べて、返しの根元へ大斧を入れられる時間は短い。
それでも何度か繰り返すうちに、前衛側もモノセロスの動きへ慣れてきていた。
そのとき、モノセロスが前脚を地面へ強く叩きつけた。
今までにはなかった動きだった。
次の瞬間、別の前衛プレイヤーへ体を向け、そのまま一気に突っ込んでいく。
「――そっち行くぞ!」
狙われた前衛が慌てて横へ跳ぶ。
間に合わない。
モノセロスが頭を突き上げるように踏み込み、太い主角が前衛の胴へ真正面から入った。
「ぐおっ――!」
前衛の体がその場で止まり、次の瞬間には両足が地面から浮いていた。
「回復! 急げ!」
後方から回復魔法が飛ぶ。
減ったHPが戻り始めた直後、モノセロスが前脚を強く踏ん張り、巨体ごと後ろへ跳んだ。
主角が前衛の体から抜けていく。
「返し来るぞ!」
周囲から声が飛ぶ。
前衛もすぐに横へ逃れようとしたが――間に合わない。
主角の後ろを通った返しが前衛の脇腹へ深く喰い込んだ。
「っ――!」
モノセロスがそのままさらに後ろへ下がる。
返しに掛かった前衛の体も一緒に引かれた。
「ちょ、待っ――」
足は地面へ届かない。
「外せ!」
「無理だ、引っかかってる!」
直後、モノセロスが体ごと首を大きく捻った。
「うわあっ――!」
返しに掛かった前衛の体が振り回される。
モノセロスがそのまま首を振り上げると、その体も一気に持ち上がった。
次の瞬間には返しから外れ、数メートル先の岩場へ背中から叩きつけられる。
鈍い衝突音。
残っていたHPが一気になくなり、前衛の体が光の粒子へ変わった。
周囲の前衛が一瞬だけ止まる。
『一人落ちた! 刺されたら周りはすぐ脚を狙って! 後ろへ引かせないで!』
トトロクの声で、再び前衛が動き直した。
「今のは洒落にならねえな……」
ドグマルが槍を構え直す。
「角だけ見てる奴から死ぬぞ。返しの軌道までちゃんと見ろ」
言い方は相変わらずだったが、さっきより前へ出る位置は慎重になっていた。
モノセロスは今度こそトトロクへ向かって走る。
トトロクは真正面から止めず、大盾を斜めに構えた。
主角が盾へぶつかり、その勢いのまま縁を滑って横へ抜ける。
続いた返しの先も盾の外まで通り過ぎた。
うまく受けた。
そう思った直後、またモノセロスが首を引いた。
「――トトロクさん!」
一旦盾の外へ抜けた返しが戻り、今度はその内側が大盾の縁へ噛んだ。
簡単には外れそうになかった。
「っ……!」
モノセロスがさらに首を振る。
大盾ごとトトロクの体が浮き、そのまま横へ振り回された。
「うおぉっ――!」
数メートル飛ばされ、肩から地面へ叩きつけられる。
一度大きく転がり、最後は背中から岩へぶつかって止まった。
「トトロク!」
持っていた大盾も少し離れた地面へ転がっている。
トトロクはすぐには起き上がれなかった。
「正面空いたぞ!?」
誰かの声が飛ぶ。
モノセロスは倒れたトトロクの横を抜け、そのまま後衛へ向かった。
俺は走りながらショートボウへ持ち替える。
《ピンポイントショット》
右前脚へ矢が刺さり、踏み込みがわずかに崩れた。
でも、俺の一撃だけでは足を止めるほどじゃない。
「ルウナさん!」
「はい!」
俺の横を抜けたルウナが次の一歩を踏み込もうとした右前脚へ大斧を叩き込む。
さっき矢を当てた脚へ衝撃が重なり、巨体が大きく沈んだ。
突進の向きが後衛から外れる。
「盾、横から入って!」
近くから声が上がる。
別の盾役が側面へ入り、そこへ前衛と魔法の攻撃が重なった。
ようやくモノセロスの足が止まる。
「ルウナさん、離れて!」
俺が叫んだ直後、モノセロスが大きく肩を振った。
避けきれなかったルウナへ、分厚い肩がまともに当たる。
「っ――!」
小さな体が横へ弾き飛ばされた。
両足が地面から離れ、途中で大斧が手から抜け落ちた。
ルウナは背中から地面へ落ち、そのまま大きく転がって岩の手前で止まった。
大斧は別の方向へ滑っていく。
「ルウナさん!」
後方からすぐに回復魔法が飛んだ。
ルウナは少し遅れて体を起こす。
「大丈夫ですか?」
「はい……戻れます」
そう言いながらルウナはまだ減っているHPを確認し、回復薬も飲んだ。
俺が指した先に大斧が落ちている。
拾おうかと思ったが、俺には重たすぎた。
「ありがとうございます!」
ルウナはすぐに走り、大斧を拾って戦線へ向き直った。
その頃にはトトロクも回復を受けて立ち上がっていた。
落とした大盾を拾い、腕を一度振ってから構え直す。
『盾職も主角を流しただけで安心しないで! 返しに噛まれたら盾ごと飛ばされます!』
主角が通ってもすぐには入らず、戻ってくる返しまで抜けたのを見てから前衛が一斉に踏み込んでいく。
俺もその動きを見ながら戦線へ戻った。
しばらくしてモノセロスが別の前衛へ向いた。
俺たちから見ると、長い主角がほぼ真横を向いている。
「主角、今ならいけるかもしれません」
「測ります?」
「はい。今なら取れそうです」
ルウナが大斧を背中へ戻し、測量道具を取り出した。
主角の根元と先端へ光を置き、そのまま二つを視界に収める。
三秒ほどして、モノセロスがこちらへ向き直るより先に光が強くなった。
「取れました!」
モノセロスが別の前衛へ向いたところで、ルウナが表示に一瞬だけ目を落とす。
「……190cmくらいです」
すぐに測量道具をしまった。
「では戻りましょう」
俺たちが戦線へ戻った直後、トトロクの指揮チャットが飛ぶ。
『HP二割切りました! 部位、狙える人はお願いします!』
残り二割。
主角も返しもまだ折れていない。
前衛が一斉に踏み込む。
その攻撃を振り切るように、モノセロスが大きな岩の脇へ駆けた。
――岩を削るような鋭い音が響く。




