第112話 測り残し
「戻ってきてない……?」
ルウナが記録から顔を上げる。
「ああ」
「いつ頃からですか?」
「……ちょうど灰冠竜が出た頃だ」
「灰冠竜って……あのイベントの……」
ルウナが小さく呟く。
「その頃って、測量士も北の方へ出てたんですか?」
「ああ。灰冠竜が近いことが分かってから測量の仕事もかなり増えてな。測量士もあちこちへ出された」
ページをめくる音が小さく続く。
「俺も別の区域を担当していた時期があった。ネモラもその一人だ。北側にも行っていたのは覚えている。ただ、その後は俺も別の仕事をしてたからな」
ビリードは少し考えてから続けた。
「戦が始まってからは誰がどこへ戻ったかまで把握できてなかった。ネモラもそのまま別の測量所へ移ったのか……それとも戻れなかったのか」
そこでページを閉じた。
「記録に残ってないなら俺にわかるのはここまでだ。ただ、あの頃の書類なら他にも何か残ってるかもしれんな」
ビリードが椅子から立ち上がり、そのまま奥の棚へ向かうと、並んだ棚の間へ姿が消えた。
「……私、灰冠竜グラウムとの戦いって、ずっとゲームのイベントとしてしか見てませんでした。でも、あのイベントの前からこの世界ではこういった仕事が動いてたんですね」
「俺も測量士まで北へ出ていたとは知りませんでした」
「――この辺りだな」
棚の奥からビリードの声が聞こえた。
俺たちもそちらへ向かう。
「この辺りが当時の北側区域の記録だ。ネモラの名前がなくても、向こうで使ってた測量図や記録なら残ってるかもしれん」
「分かりました」
三人で棚から古い書類を取り出して順番に確認していく。
しばらくして、隣で紙をめくっていたルウナの手が止まった。
「あ、これ……」
一枚の古い図面を机へ持っていく。
―――――
パラネス山麓東部・旧測量図
―――――
広げてみると、今使われている地図より細い道が多かった。
《パラネス山麓》の俺たちが登った西側ではなく、東側から一本の線が延びている。
「この道、今の地図にはないですね」
「昔の測量路だろうな」
「いつ頃まで使ってたんですか?」
「さあな……。俺がここへ来た頃にはもうほとんど使ってなかったと思うぞ」
線をさらに追っていくと、岩場の近くに小さな文字が残されていた。
――《北側岩場観測点》
「あ……」
ルウナがノートを開く。
「ここ、ネモラさんの記録に出てきた場所じゃないですか?」
「そうだな。測量するなら、どこから測ったかも残す必要がある」
ルウナがノートと旧測量図を見比べている。
「やっぱり同じ場所……です。これ、持ち出したら駄目です……よね?」
ルウナが《一角獣観測記録》を指してビリードを見る。
「構わんぞ。正式な記録じゃない。ここにただ残っていたものだ」
ビリードがノートをルウナの方へ押す。
「必要なら持っていけ」
「え、いいんですか?」
「こういう物は必要な奴が持ってた方がいい」
「……ありがとうございます」
ルウナは《一角獣観測記録》を受け取った直後、驚いたように顔を上げた。
「アイテム扱いみたいです」
そう言いながら、ルウナが記録の情報をパーティへ共有した。
―――――
《一角獣観測記録》
種別:記録
レアリティ:アンコモン
効果:記録された一角獣の観測内容を閲覧できる。
説明:とある測量士が長年にわたり残した観測記録。
―――――
その直後、通知音が鳴る。
「え?」
ルウナと俺の声が重なった。
ルウナの方にも何か表示が出たようだった。
俺の視界にもウィンドウが開いている。
―――――
《後日談クエスト:測り残し》
―――――
「後日談クエスト……? ザンさんの方にも出てます?」
「はい。たぶん同じのが。パーティを組んでるからですかね?」
「ザンさんも初めてですか?」
「いえ、俺はクエスト自体は何度かあります。ただ、パーティでも出るとは……思ってませんでした」
「じゃあ、これ一緒に受けることができたんですね」
ルウナは嬉しそうにこちらを見る。
二人でクエストの詳細を開いた。
―――――
《後日談クエスト:測り残し》
記録に残された地点を調査してください。
調査地点:《北側岩場観測点》
―――――
「北側岩場観測点……」
さっき見つけたばかりの場所だった。




