第107話 パラネス山麓
次のアップデートまではまだ少し時間がある。
Lv50まではあと一つなので、レベリングするのもありだ。
前回のイベントでもらった選択箱もまだ残してある。ただ、何を選ぶにしても、装備用に使うなら二次職が決まってからの方がよさそうだ。
共同討伐後のオークションはロヴェルから送ってもらったリストを見ただけで、結局何も入札しなかった。
その後、届いた分配金はなんと245万Gだった。
最初に見たときは桁を一つ間違えたのかと思った。
かなり良い装備やアイテムが多かったとロヴェルが話していた。
ただ、全体的に相場が上がってきているので、Lv51以降の装備はかなり高いものが多い。
レベルもそうだが、今後装備を揃えるのも先が長そうだった。
そんなことを考えながら、今日は《パーティ募集》を眺めていた。
普段はソロで動くことの方が多いが、たまに知らないプレイヤーの募集へ入ってみるのも嫌いではない。一人では選ばない場所へ行ったり、自分とは違う遊び方をしている人に会えたりするのが結構面白いからだ。
いくつもの募集を流し見していたところで、手が止まった。
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角を折る前の動きを見てほしい(一次職可)
リーダー:ルウナ
募集:1名
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討伐でも素材集めでもない。
角を折ってほしい――でもなく、『折る前の動きを見てほしい』――?
募集レベル帯もぎりぎり合っていたので、気になって参加申請を送ってしまった。
申請をすると、相手にはこちらの名前やレベル、メイン職が通知され、それでよければ承諾されるシステムだ。
ほとんど待たずに承認された。
そのままパーティへ自動加入し、画面の端へメンバーが表示される。
―――――
ルウナ Lv55
《シージレッカー》
―――――
見慣れない職だったので、掲示板で《シージレッカー》について調べてみる。
ドワーフの前衛二次職の一つで、分類は《ファイター職》や《ディフェンダー職》ではなく、《ブレイカー職》になるらしい。
《ブレイカー職》については少しは知っている。
敵そのものへの火力より、一部の装甲や角、脚といった特定の部位を狙って破壊することに長けた職だ。
そんな二次職のプレイヤーが一次職でも可として、一人だけパーティ募集をかけていた。
やっぱり内容がよく分からない。
もう一度読み返そうとしたところへ、パーティチャットが届いた。
―――――
ルウナ:来てくれてありがとうございます。よろしくです
ルウナ:王都から飛べる《パラネス山麓・西登山口》まで来てもらえますか?
ザン:分かりました
ザン:よろしくお願いします
―――――
俺は言われるがまま、王都の転移門で《パラネス山麓・西登山口》を探して転移した。
◆◇◆◇◆
視界が戻ると、転移門から少し離れた石段の横に誰かがしゃがみ込んでいた。
褐色の重装備には赤やオレンジの差し色が入り、背中には体格に似合わない巨大な両手斧を担いでいる。
足元には細い鉄製の杭のようなものが何本か並べられていた。
どれも手のひらより少し長いくらいで、武器にも消耗品にも見えない。
――何に使うものなんだろう。
そう思いながら近づくと、その人が顔を上げた。
「あ、ザンさん……ですか?」
「はい。ルウナさんですね?」
「はい。よかった。来てくれてありがとうございます」
ルウナは足元に並べていた道具をまとめてしまってから立ち上がった。
――すごく小さかった。
背丈は俺のアバターの胸ほどしかない。
透き通ったような薄い茶髪は肩まで届かず、耳の横だけ細く編み込まれ、そこには小さな羽の髪飾りが付いていた。
何本かの短い毛先が少し外へ跳ねている。
髪の隙間から覗く耳も体格に合わせて小さい。そこは普通なんだなと思った。
大きな斧と重装備だけならずいぶん迫力があるはずなのに、小柄な体で普通に背負っているせいか、最初に目が行くのはそちらだった。
ドワーフのプレイヤーとは街や野良パーティでも何度か話したことがある。
ただ、知り合いと呼べるほど付き合いのある相手はいない。
こうしてしっかり向かい合って話してみると、ヒュームとは思っていた以上に体格差がある。
「……どうかしました?」
「あ、すみません。こうして見ると、ドワーフってかなり小柄な種族なんだなと思って」
「あ、なるほど」
ルウナが自分の頭の上へ手を置いた。
「私、ドワーフの中でも小さい方みたいなんです。クリエイトのときに意図的に低めにはしたんですけど、始めてから他のドワーフの人と並んでみたら……思ってたより小さかったみたいで」
「へえ、そうなんですね」
「それに比べて、こっちはどんどん大きくなっていきました」
ルウナが背中の斧を示した。
「確かに……かなり大きい武器ですね」
斧の刃先が後頭部から出ている。
この体の大きさで、この大斧をどう振るうんだろう。
その戦う姿に少し興味が湧いた。
「はい。大きい武器で攻撃するの――すごく爽快なんですよ」
そう言ってからルウナが笑った。
「じゃあ行きましょうか」
ルウナは《パラネス山麓》の奥へ続く道を歩き始めた。
「あ、そうだ。募集に『角を折る前の動きを見てほしい』ってありましたけど、実際に俺は何を見ればいいんですか?」
ルウナは少し考えてから答えた。
「ザンさんには角のある獣型MOBの体の動きを見てほしいんです。脚とか肩とか、角を振る前にどこから動き始めるか……何か分かったら教えてもらえますか?」
「分かりました」
「私が避けながら狙ってると、自分がずれたのか向こうが動いたのか、分からないことがありまして……」
「ああ、それで別の人にも見てほしかったんですね」
「はい。外から見たら何か分かるかなと思って。ただ、見えなかったときはそのまま『見えなかった』って言ってください」
「了解です」
一次職も可で、募集が一人だけだった理由も分かった気がした。
戦力が欲しいわけではなく、自分とは別の位置から見てくれる人が一人いればよかったのだろう。
ただ、何のためにそこまで細かく見たいのかがまだ分からない。
俺はルウナに続いて《パラネス山麓》の緩やかな傾斜がついた山道へ入った。
◆◇◆◇◆
進むにつれて木々は少しずつ高くなり、枝葉の隙間から落ちる光が道の上をまだらに照らしていた。
右手にはところどころ岩肌の露出した山の斜面が続き、反対側は木々の切れ目から遠くまで視界が開けている。
少し登ったところで振り返ると、さっきまでいた西登山口がもう小さく見えた。
その向こうには濃淡の違う緑の山々が幾重にも重なり、さらに遠くでは薄く霞んだ稜線が空へ溶けるように続いている。
気持ち良い風が抜けた。
頭上の葉が一斉に揺れ、木漏れ日まで動いていく。
高いところから聞こえる鳥の声やどこかを流れている水の音も混じっていた。
こういう場所を歩いていると、目的地へ向かっている途中なのに少し寄り道したくなる。
CROはフィールドを歩いているだけでも、ときどき足を止めたくなる景色がある。
「この辺、景色が良いですね」
「ですよね。私もこの山、好きなんです」
ルウナが歩きながら頷いた。
「もう少し上まで行くと、もっと見晴らしがいいですよ」
「それはちょっと楽しみですね」
そんな話をしながら山道を進んでいると、しばらくして《探知》に反応が入った。
「二体いますね」
「近いですか?」
「結構近いです。左前から来てます」
「じゃあ、そのまま行きましょう」
ルウナは特に気にした様子もなく歩き続ける。
木々の向こうから低い唸り声が聞こえてきた。
枝葉が揺れ、その隙間から灰色の毛に覆われた獣が姿を見せる。
少し遅れて、もう一頭が木々の間から出てきた。
俺が短剣へ手を伸ばす。
ルウナも立ち止まった。
小さな手が背中の両手斧の柄に伸びる。
そして、あれだけ大きな斧が軽々と持ち上がった。
第8章開始しました!
【とある攻略サイトより】
■種族:ドワーフ
【初期職】
├─【前衛見習い】
│ ├─〈ドワーフ・ファイター〉
│ │ ├─《ハンマータイタン》
│ │ └─《スチールバスター》
│ │
│ ├─〈ドワーフ・ディフェンダー〉
│ │ ├─《アイアンブルワーク》
│ │ └─《ルーンバスティオン》
│ │
│ └─〈ドワーフ・ブレイカー〉
│ ├─《ギアデモリッシャー》
│ └─《シージレッカー》◀
│
├─【中衛見習い】
└─【後衛見習い】
◎《シージレッカー》
〈ドワーフ・ブレイカー〉から派生する二次職の一つ。
大型武器による重い一撃を得意とし、敵の姿勢や装甲、部位へ大きな負荷を与えて崩していくことが得意な職。
攻撃動作はやや重いものの、大型MOBや動きの少ない相手に対して高い破壊力を発揮する。
もう一つの〈ドワーフ・ブレイカー〉派生――《ギアデモリッシャー》が装甲の継ぎ目や構造、部位を見極めて効率よく壊していくタイプなのに対し、《シージレッカー》は狙った場所へ強烈な衝撃を叩き込み、力そのもので崩していくタイプ。
◎《ギアデモリッシャー》
〈ドワーフ・ブレイカー〉から派生する二次職の一つ。
装甲や構造、部位のつながりを見極め、壊れやすい箇所へ効率よく攻撃を集中させることが得意な職。
力任せに叩き潰すというより、敵の構造を見極めて弱くなった部位を狙い、段階的に崩していくことを得意なタイプ。




