ドラゴンは鷹ではありません!
ふむ、少し体を動かそう。
わたしは起きあがると、ドラゴンウィングを広げ、軽くジャンプをした。
わぁ~お!
二、三回羽ばたかしただけで、お屋敷の二階付近までに到達した。
流石、ドラゴン!
風はそこまで舞っていないから、ひょっとしたら、前世Web小説で良くあった、魔力的何かで飛んでいる部分もあるのかもしれない。
ちらりとお嬢様のお部屋を覗くと、家庭教師っぽいおばさんの話に耳を傾ける愛らしい女の子が見えた。
机に向かって何かを書いている姿は真剣そのもの、八歳ぐらいなのに凄いなぁ、なんて思いつつ、落下に任せて下降、翼を広げてグライダーのように滑空した。
勿論、高さがあまり無いので、何度か羽ばたくと、あっという間に屋敷から距離を開ける。
いやぁ~空飛ぶって気持ち良い!
風は心地良いし、何よりドラゴンウィングが優秀だからか、全然疲れない。
どこまでも飛んでいけそうな、圧倒的開放感に酔いしれそうだ。
まあ、もっともドラゴンとはいえ小さいから、このお屋敷以外では絶対に生きていけないだろうし、今の環境を手放すつもりもない。
なにより、お嬢様を初め、皆の事が好きだから、飛んでいったりはしないけどねぇ。
……しかし、このお屋敷、本当に大きいなぁ。
上から見ると、なおのことそれを実感できる。
それに、ここに入る時、寝ていたので気づかなかったけど、そこそこ広い土地を高い塀が囲っている。
その中が敷地とすれば、前世に学校行事か何かで行った日本有数規模の遊園地、それに匹敵しそうな大きさだ。
その中に、お屋敷や鍛錬所、庭園などがある。
もし、前世のわたしが端から端まで歩いたら、多分、次の日は筋肉痛で倒れてしまいそうだ。
いや、ひょっとしたら、途中でリタイアするかもしれない。
そう思えるぐらいには広大だ。
もっとも、このドラゴンウィングを持ってすれば、一周ぐらいならさほど時間をかけずに出来そうだ。
まあ、もしも疲れて飛べなくなったらと思うと怖いので、やらないけどね。
そんなことを考えながら、お屋敷の周りをグルグル旋回していると、下からパパさんの声が聞こえてきた。
?
ニコニコしているパパさんがこちらに向かって手を振っているのだけど、なんだろう?
左手に何か付けているみたいだ。
わたしはゆっくりと降りていき、パパさんの近くの――芝の上に降り立った。
近寄ってきたパパさんが、例の左手をこちらに向けてきた。
???
それは、山吹色の動物の皮で出来ている厳つい手袋だった。
手袋――というよりは、掃除用のゴム手袋の皮版? みたいな感じで、パパさんはわたしの足を上に乗せ持ち上げた。
あぁ~これ知ってる。
パパさん、わたしを鷹狩りの鷹みたいにしてるんだ。
そう考えると、わたしのサイズ的にも体つき的にもぴったりだ。
わたしはお嬢様でも抱えられるぐらいの大きさであり重さだし、後ろ足も地面に付けるというより、枝とかに掴めるような細長い指をしていた。
実際、立ち上がったパパさんは片手で苦もなく持ち上げているし、わたしは簡単にバランスが取れていた。
ん?
ってことは、この世界には元々わたしみたいなドラゴンで狩りをする、ドラゴン狩り? 竜狩り? みたいなのが有るのかもしれない。
そうすると、ただの居候からジョブチェンジすることになるのかなぁ。
う~ん、働きたくないけど、全く働かないってのも肩身が狭いか……。
などと考えていると、パパさんがわたしに話しかけてきた。
「いいか、キュートリック。
手を離したら一周してわたしの所に戻ってくるんだぞ」
指で円を書きながら指示をする。
ふむ、働かない事を選択するのであれば、出来ない所を見せた方が良さそうだけど、お嬢様のドラゴンとして恥ずかしくない所も見せなくてはならないか……。
仕方がない、後者を優先するかな。
「行くぞ!」と言ったパパさんは、振りかぶると、思いっきり腕を振った。
わたしはそれに合わせて翼を羽ばたく。
なかなか良いタイミングだ。
自画自賛をしながら旋回をして、戻ろうとしたけど、パパさんの手に捕まり損ねて、落っこちた。
いや、落っこちた所をパパさんが抱えるように受け止めてくれた。
ぬぬぬ。
普段、飛んでも柔らかな芝の上に降りていたので、手の上に止まるってのが地味に難しかった。
悔しい、パパさんもう一度!
「がぁ!」
「よし、行くぞ!」
わたしの思いが通じたのか、すぐに二回目をしてくれる。
(集中、集中……)
などと思いながら、パパさんの手に向かって、後ろ足を伸ばす――も、掴みきれず失敗する。
むっきぃ!
三回目、四回目も失敗、くそう!
意外と難しいなぁ。
五回目、六回目は掴むも乗ることは叶わず、蝙蝠みたいにぶらりと逆さになり、落っこちた。
なんでぁぁぁ!
鷹は出来るのに、ドラゴンたるわたしが何故出来ぬ。
十五回目に失敗した時、お嬢様が心配そうに駆け寄ってきてくださった。
どうやら、お勉強は終わったようだ。
「大丈夫、キュー」
心配そうに、パパさんの腕にいるわたしに声をかけてくださるお嬢様は本当に天使だ。
しかし、今はお嬢様に甘えている場合ではない。
竜族の威信に懸けて、鷹なんぞに負けられないのだ。
「がぁ!」と促すと、何故か妙にうれしそうなパパさんが「行くぞ!」と腕を振った。
「おお!」
「すごぉ~い!」
三十回目になり、ようやく辛うじてパパさんの腕に乗る事ができた。
ふ、鷹ごときが出来ることを、ドラゴン様に出来ないはずがないのだ!
わたしは胸を反り、誇って見せた。
さて、いっぱい飛んだから、あとはお嬢様に抱っこされながら、お昼までの時間を潰そう♪
などと思っていると、パパさんがなにやらイケメン騎士であるアランさんに指示を出していた。
?
「よし、キュートリック!
次はあれを掴むのだ!」
芝の上にはタオルが丸めて置かれていた。
……あれ、獲物の代わりかな?
っていうか、パパさん本気なの?
本気でわたしを鷹狩りの鷹にするつもりなの?
何だろう、激しくめんどくさくなってきた。
よくよく考えてみると、パパさんってわたしを三十回も放っているけど、全然平気なところを見ると、結構鍛えているのかな?
いや待って。
わたしはパパさんの顔を凝視する。
碧眼の目がキラキラ輝いていた。
このイケメン……体育会系か?
「行くぞ!」
パパさんが有無を言わさずわたしを放ったので――わたしはUターンをして椅子に座って様子を見ていたお嬢様の足下に着陸した。
そして、ピョンと飛び上がると、お嬢様の膝の上で丸くなる。
「キュ、キュートリック!
もうちょいだ!
もうちょい頑張ろう、な!」
などと喚いている残念イケメンを無視して、お嬢様に撫でられるのであった。




