ドラゴン生活初の飛行?
まあ、念のためだった。
力加減が分からないで壁にぶつからない為に、もちろんそんなに飛ぶつもりは無い。
軽く一羽ばたきそちらに向かってジャンプした。
二メートルぐらい飛んでみせるつもりだった。
が、軽くジャンプした後、羽を動かすと、体が思いのほか軽く浮かび上がり――気づいたらバルコニーすら越えて、外に飛び出ていた。
「がぁ!?」
慌てて羽ばたくと、ものすごい勢いで進んでいく!
うぁお!
凄い!
ドラゴンウィング凄い!
さらに羽ばたくと、あっという間に空高く上昇していた。
ひゃっほーい!
そんな事を叫びたくなる気分だった。
実際出たのは「がぁっがぁ~あ!」だったけど……。
まあ、そこはしょうがない。
軽く傾くと、簡単に旋回も出来てしまう。
まるで、飛ぶことをそもそも知っていたかのように簡単にだ。
いや、そもそもこの体自体が飛べるように出来ているってことだろうなぁ。
こんな楽しい事を知らなかったなんて、凄く損をした。
ああ、お嬢様にも体験してほしい。
お嬢様との空のお散歩、きっと楽しいだろうなぁ。
ん?
下の方で、何やら気配を感じる。
視線を降ろすと、おじいちゃん執事であるオントワンさんが何やら慌てた感じで手を振っている。
何をやっているんだろう?
わたしも手――前足? で振り返してみたけど、人間の腕ほど長くはないので、おじいちゃんに見えているのかは微妙なところだった。
んん?
オントワンさんが執事然としたおじいさんらしくなく、大きな身振り手振りで何やら伝えようとしてくる。
降りろってことかな?
よく分からないけど、そんな感じがした。
……降りろって、どうやって?
「がお!?」
飛んだは良いけれど、よくよく考えたらわたし、降り方分からないんだけどぉぉぉ!
突然、体がグラリと揺れた。
「がぁ! がぁ! がぁ!」
わたしは必死に羽ばたかせた。
冷たい物が背筋を流れる。
つい先ほどまで、何も考えなくても飛んでいたのに、降り方が分からないと思ったとたん、そうしていることがたまらなく怖くなってきた。
ちょっと待って!
ちょっと待って!
落ち着いて!
飛行機だって降りられるんだから、わたしが降りられない訳ないから!
あたしは必死になって、飛行機が着陸する様子を思い描く。
もちろん貧乏なので乗ったことはないけど、映像とかなら見たことがある。
確か、着陸する手前で……タイヤを……出せるか!
優秀なドラゴンボディでも、タイヤなんて無い!
無いんだからぁぁぁ!
などと、あたふたしていると、下にいるオントワンさんが何やら屋敷から運び出していた。
お兄さん騎士さんである、アランさんもそれを手伝っている。
どうやら、クッションらしかった。
様々な形や大きさのそれらを、芝の上に並べている。
それが終わると、オントワンさんは、わたしに向かって誘導するように手を振った。
なるほど、あそこに降りろって事ね。
確かに、地面に落ちるより安全に思えた。
それでも怖いは、怖いのだが……。
わたしは旋回しながら速度と高度を下げていく。
そして、クッションの固まりに――ダイブした。
落ちただけでは勢いが止まらず、ころりと転がったけど、それでも何とか、地面に降りることが出来た。
あぁ~怖かった。
ほっとしていると、お嬢様がわっと駆け寄ってきた。
そして、わたしを抱きしめながらワンワンと泣き始めてしまった。
どうやら、お嬢様にも心配をかけてしまったようだ。
ごめんなさい、お嬢様。
わたしはそんな思いを込めながら、大好きなお嬢様の頬に頬ずりをした。
ドラゴンの朝は遅い。
その日、ドラゴンの意識が覚醒したのは巨乳メイドのアネットさんに抱えられた時だった。
ちらりと視線を向けると、お嬢様はすっかり寝間着から着替えた後で、アネットさんの大きいそれをギューギュー押しつけられているドラゴンの頭を優しく撫でていた。
――いつもこんなに遅いのですか?
『わたしはドラゴンですから、着替えといった支度も必要有りませんからね』
――お嬢様は朝の散歩も終わられていますが、それに同行しなくてもよろしいのですか?
『(優しく微笑みながら)素人の方には少々、わかりにくいかもしれませんが、これこそが、〝守る〟ということなのです』
〝守る〟(強調)
――白きドラゴンは理解力が乏しい我々に対しても、親身になって教えてくれた。
『(少し厳しい表情で)確かにわたしが常にそばにいれば、お嬢様の安全は確実に安全と言えます。
しかし、それはわたし達のようなプロからは〝拘束〟とも言え――』
「キュートリック、食事に集中しなさい」
「がっ!」
アネットさんに注意されたので、前世番組風言い訳を中断する。
しかし、わたしの家にテレビが有った記憶がないんだけど、どこで知った知識なのか、少々気になるなぁ。
いやでも、有る記憶だけを総動員しても、テレビをはじめとする電化製品がない家の女子中学生って、貧乏極まったものなのは想像に難くない。
だから正直、記憶は戻らない方が良いのではと最近思うようになった。
というより、前世の記憶なんて今の世でいるのかな?
なんて思ったりしてる。
う~ん。
不思議なのは、記憶にないのは家族とか人間関係の詳細だけなんだよね。
例えば、学校で習ったこと、古文とか数学とか英語とかは、正確に全てとは言えないまでも、覚えている。
図書館で借りた本とか、スマホで読んだWeb小説の記憶もある。
なんだかよく分からないけど、作為的な物を感じた。
何でこんなに中途半端な知識が残っているのかな?
そもそもドラゴンなので、知識チートなんて出来そうにないし、また、仮に人間でも女子中学生の頭で何か出来るとも思えないのだけど……。
そういえば、小説とかの記憶喪失も、人間関係とかのみ消失しているのが多かった。
そもそも、そういうものだとしたら、現状はそれほど不可思議では無いのだけど……。
などと考え込んでいるうちに、目の前に置かれていた朝ご飯を食べ終えていた。
因みに、最近では前足でナイフやフォークを持つことが出来る事に気づき、自分で全て食べるようにしている。
アネットさんに三食食べさせてもらうのも悪いしね。
それを見た皆は目を丸くして、お嬢様は『キュー凄い!』と誉めてくれた。
えっへん!
朝ご飯が終わると、お嬢様には住み込みの家庭教師の先生が部屋にやってくる。
なので、日光浴をかねたお昼寝の時間になる。
執事であるオントワンさんの話では、どうやら今は初夏らしく、日差しはやや強めだが風は程良く涼しい。
なので、庭にあるベンチでゴロリとしていた。
寝過ぎ?
ドラゴンだから良いのだよ!
……とはいえ、流石に寝付けなくって、ゴロゴロと寝返っていた。




