嫌な感じの男の子?
「キュートリック。
」
胸の大きい侍女さん――名前は恐らくアネットさんが少しあきれた感じでわたしの頭を撫でてくれた。
因みにお嬢様はこのアネットさんのことをアンと呼んでいる。
お嬢様がわたしを抱きながら、ソファーに座ると、アネットさんがお茶の準備をし始めた。
わたしはお嬢様の手を抜けだし、代わりにその小さな膝に頭をぺたりとした。
小さいお嬢様ではずっと抱きっぱなしは大変だろうし、何よりこの位置の方がお嬢様が撫でやすいのである。
お嬢様の小さな手がわたしの背中を優しくさする。
う~ん、お嬢様本当に好き。
わたしがそんな風に、ほんわかとしていると、お嬢様とアネットさんが何やら話しを始めた。
なにを言っているのか、まだぜんぜん分からないんだけど、時折出てくる「○○○」という言葉を発する度に、お嬢様の表情が曇る気がする。
わたしの頭に置く手も少しこわばっているし、その「○○○」がどうやらお嬢様を苦しめているようだ。
お嬢様! お嬢様!
ご安心ください!
何者かは知りませんが、お嬢様にそんな顔をさせる輩は、わたしのこの、ドラゴンクローかドラゴンタスクでひどい目に遭わせてやりますよ!
そんな気持ちで、「がぁ!」と一鳴きし、お嬢様の柔らかなお腹にキュッキュと頬ずりすると、くすぐったかったのか、「キャッキャ」とお嬢様は笑った。
だけどその後、なぜか叱りつけるように頭をペチンと叩かれた。
ぐぬぬ、悪戯ではなかったんだけど……。
――
お嬢様のお屋敷に来てから2週間ほど経った。
朝ご飯を食べた後、お嬢様のお部屋にあるわたし専用のクッションの上でのんびり、うとうとしてたんだけど……。
何やら、メイドさん達があわただしいのに気づいた。
「がぁ?」
わたしは寝ぼけた頭を持ち上げてみる。
普段なら、わたしがお昼寝している時は、メイドさんたちも遠慮して近寄ってこなかったんだけど……。
どうも、今日はそれどころではないらしい。
?
よく見ると、化粧台の前で椅子に座るお嬢様も、どことなくそわそわしている。
しかもお嬢様、いつも仕立ての良い服を着ていたけど、今日は一段と華やかな――まさにドレス! という装いだった。
しかも、必要なのか甚だ疑問ではあるけど、化粧までメイドさんにして貰っている。
わたしのお嬢様は傷一つない、つやつやすべすべ卵肌なんだけど、何かあるのかな?
疑問に思っていると、化粧台から立ち上がったお嬢様が、こちらに近づいてきて、わたしをぎゅっと抱きしめた。
よく分からないけど、何か不安なのかもしれない。
わたしはいつも通り、頬ずりをして安心させようとしたけど、アネットさんに止められた。
何故?
あ、化粧が取れるからか。
「 」
アネットさんに何かを言われたお嬢様は、少し顔をこわばらせる。
そして、わたしの背を一なですると、お嬢様はアネットさんを引き連れ、部屋を出ていった。
いったいどうしたのだろうか?
わたしは心配になったけど、とはいえ、付いていっても何が出来るわけでもないので、ただそれを見送るしかなかった。
お嬢様は思いの外早く、戻って来た。
?
どうやら、お嬢様と同い年ぐらいの男の子を連れて来ているようで、その表情は少し曇ってた。
おやおや?
お嬢様達は真っ直ぐわたしの方に向かって歩いてくる。
一緒にいる男の子は茶色みかかった金髪に、透き通るような碧眼の、気の強そうな少年だった。
年齢はお嬢様と同じぐらいだろうか?
女の子の部屋を恥ずかしげも無く堂々と入り込んでくるのは、幼さ故なのか、女の子慣れしているのか、判断が難しいほど大人びた子だった。
わたしは苦手だなぁ、こういう自信満々の子は。
前世の記憶がいまいち思い出せないけど、こういう男の子にいい思い出が無かった気がする。
などと思っていると、突然、頭の角を捕まれたと思ったら、グイっと顔を持ち上げられた。
突然のことに、わたしの体がビクっと震えた。
何だろうこの感覚、流石に中学生以上の精神上、苦手だとはいえ、怖くないはずなんだけど……。
何か嫌なものを……思い出させる。
「 !」
お嬢様が慌てて、男の子を止める。
それに対して、男の子は何やら横柄に答える。
なんだこの子?
ひょっとしたら、お嬢様より良いとこのご子息なのかもしれない。
そうすると、手とかを払うのもまずいのかな?
などと考えていると、お嬢様の説得が通じたのか、男の子は乱暴な感じに手を離した。
嫌な感じだ。
お嬢様は男の子に何かを言いながら、そっとわたしの背を撫でてくれる。
それに引き替え、うちのお嬢様は天使のようだ。
ほんわかとしていると、突然、お嬢様に持ち上げられた。
何というか、両脇に手を入れて、お嬢様の体から少し離すようにだ。
何より、お嬢様に背を向けた感じになっていて、なんか不思議な持ち方だ。
???
「 !」
お嬢様が何か言っている。
だけど、意味が分からないので混乱した。
何かを求められているのではないか?
などと思っていると、急に手が離された。
???
ポスっといった感じに柔らかい場所に落ちた。
下を見るとクッションが置かれていて、落ちた衝撃を吸収していた。
だから、全然痛くないんだけど、お嬢様の意図がさっぱり分からなかった。
突然、大きな笑い声が聞こえてきて、振り向けば男の子がわたしの方に指さし、腹を抱えていた。
え?
何?
何なの?
お嬢様を見れば、何やら悔しそうにされている。
何がどうなってるのか、さっぱりだった。
「 !」
男の子が何やら手をバサバサさせながら、お嬢様の事を煽るように何か言っている。
言っている意味は分からなくても、嫌なものをひしひしと感じる。
どうやら、この男の子、格好いいけど性格は最悪のようだ。
(あっ!)
手をバサバサでピンと来た。
ひょっとしてこの男の子、わたしが飛べないことを馬鹿にしているのか。
そう、わたしの背中には白い翼が付いているのだ。
前世が人間だったこともあり、全く存在を忘れていたけど。
鳥のような羽毛が付いたものではなく、蝙蝠みたいな膜っぽいものだけど、翼は翼だ。
ごろごろ生活に慣れていたので、考えもしなかったけど、ひょっとしたらわたし、飛べるのではないだろうか?
少し気になったので、後ろを見ながら、翼に意識を集中させてみる。
(おお!?)
動く――だけではなく、軽く羽ばたかせるだけで、体が少し浮きそうになった。
流石、ドラゴンウィング!
高性能だ!
わたしはちょっと気になったので、近くにあったソファーの背もたれ部分まで登ると、お嬢様に向かって、「がぁ!」と一鳴きした。
そして、バルコニーの出入り口が開き放たれているのを確認する。




