王家鷹狩り会に参加せよ!?
そんな事を考えていると、パパさんが何やら胸を張りながら言う。
「ジェニーが大変だった事は分かっているつもりだ。
だが、わたしの本番はこれからだということも、理解して欲しいな」
「本番~?」
ママさんに胡乱げな視線を送られているにも関わらず、パパさんは何やら胸を張りながら答える。
「そうだ。
家の名誉の為に、わたしとキュートリックはこれから、戦いに赴かなくてはならないのだ!」
……え?
わたしも?
そんな疑問を察したかのように、手を伸ばし、わたしの背をその大きい手で軽く叩く。
「キュートリック、王家鷹狩り会への出場、正式に決まったぞ。
鷹ではないお前が参加して良いか、揉めるかと思ったが、太公も乗り気でな。
お口添えしてくださる事になった。
ふふふ、わたしとお前との初陣、楽しみだな!」
は、はぁ~!?
何言ってるの、この人!
誰が、そんなものに出るって言った!?
顔を顰めたママさんに「何が戦いよ! 結局、あなたが楽しんでいるだけじゃない!」とか言われても「違うよジェニー、わが家の為だ」とか言いながら、ニヤニヤしてるし!
わたしはお嬢様の両膝を、前後の足で抱えるようにしがみ付く。
それを見たお嬢様が、わたしを撫でながら言う。
「お父様、キューは絶対出ないって体勢になっています。
諦めてください」
パパさんは焦ったように言う。
「いやいや、駄目だ!
もう参加を表明してしまったのだから、出なくてはならない!
出なくてはならないのだ!」
「無理です、お父様。
お父様が本人の同意もなく勝手にした事ですから、責任を持ってお断りをしてください」
「いやいや、無理無理!
キュートリック、美味しいお肉を食べさせてやるから!
ちょっとだけ!
一日だけ、頑張ってくれ!」
などと、ギャーギャー言っているパパさんを無視して、お嬢様にくっ付き続けるのだった。
――
城内の広場には、華やかな儀礼用の騎士服姿の騎士さんや、派手やかな乗馬服に身を包んだ貴族さん達が列になり並んでいる。
そんな中、愛馬に騎乗するパパさんも待機していた。
……その左腕のグローブ、その上には残念というか何というか、わたしが乗せられていた。
……辞退、出来なかった。
もう、パパさんのなりふり構わず泣き落としをしようとする姿が余りにも哀れで……。
断り切れなかった。
いやでも、パパさん、それでいいの?
愛娘たるお嬢様も、愛妻たるママさんも――ついでに言えば配下の騎士さんや使用人さん達も、凄く呆れた顔して見てたけど、侯爵様として本当に良いの? って感じだった。
因みに現在のパパさんは、前世女性向け小説の表紙を飾ってもおかしくない、青年騎士様って感じにビシッと格好良かった。
お城の侍女さん達も「素敵……」とか「凜々しいわ」とかウットリと見てる。
お姉さん達、騙されているよ!
キリッとした顔をしてるけど、頭の中は〝竜を従えてる俺、格好いい!〟とかはっちゃけているWeb小説の主人公ぐらいわんぱくな思考の持ち主だからね!
時折、鷹を持った同僚(?)な人たちが「竜をお連れになるとは……。流石、閣下」とか「このたびは閣下に、全て持ってかれましたなぁ」とか声をかけられ「いやいや、扱いにくいだけで……」などと言いつつ、頬が緩むのが止められないって様子なんか、もう、大きなカブトムシを自慢する小学男子だからね!
なんでわたしが、こんな人に付き合わなきゃならないのよぉ~
「がぁ~」とため息を付いていると、どうやら城門が開いたようで、皆がそこから進み出す。
よく分からないけど、この鷹狩りは出発前にパレードのように町の中を進む必要があるとのことだ。
何かしら、政治的意図か、それとも、習わしがあるのかな?
まあ、いいんだけど。
並び順は参加する人の中で、爵位が高い人たちから進むらしい。
パパさんは国王様、太公様に続き、三番目らしい。
凄いねぇ~
城門を抜け、しばらくすると凄い歓声が前から湧き上がっている。
うわぁ~見物人の数が凄い!
わたし達が進む石畳の大通り、その道沿いに町の人達が所狭しと並んでいる。
道を挟んだ建物の窓にも人々が溢れていて、とんでもないことになっている。
そんな皆は、パパさん達を見て嬉しそうに手を振っていた。
この国の貴族さん達は善政を敷いているのか、その笑顔からは邪気が見えない。
心から声援を送っている様だ。
そして、何やらパパさん、女性からの人気が一番高そうだ。
町のお姉さん達、失神しそうなほど黄色い声を上げていた。
まあ、パパさん、顔だけは王子様だしね。
爽やかな笑顔で手を振るパパさんを、ジトっとした目で見ていると、パパさんがとんでもない事を言い出した。
「よし、キュートリック!
軽く飛んで、挨拶をしろ!」
え!?
そんな事して良いの!?
だけど、パパさんはわたしを持つ左手を後ろに引いたので仕方が無く、足に力を入れる。
そして、前に振られたのと同時に飛び立った。
わぁ~! って声援が湧き上がり、びっくりした。
道にいる人達も、建物から見ている人達も、わたしに視線を向けている。
ちょっと怖い。
だけど、皆笑顔で手を振ってくれているので、少し落ち着いてきた。
少し高度を上げると、屋根の上にも人が座っていた!
あ、あのお姉さん!
スカートのままそんな所に登って大丈夫なのかな!?
なんて思いつつ、ぐるっと一周すると、パパさんの元に戻る。
拍手が凄い!
なんだか、ちょっと嬉しくなってきた。
多分、前世だって、こんなに注目されて、賞賛された事なんて無かったと思う。
パパさんも嬉しかったのか、満面笑みでわたしの背中を撫でてくる。
え?
もう一回?
仕方が無いなぁ~
再度、パパさんに飛ばされ、観客の皆の前を飛ぶ。
三歳くらいの女の子が「竜さ~ん!」と手を振ってくれたので、再度前を通り過ぎて、前足を振る。
更に軽く宙返りをして湧かせると、下から何かが飛んできた。
ん?
林檎?
左後ろ足でキャッチする。
足に収まらないサイズだったけど、爪を立てて何とか掴んだ。
その様子に、皆はいっそう沸き上がる。
ふふふ、これぐらいチョロい物だよ!
などと思いつつ、戻ろうとしてハタと思う。
この林檎、そのままパパさんの所に持っていって良いのかな?
まあ、掴んでいる感触からただの林檎だとは思うけど、要人たるパパさんにどこの何か分からない物を近づけたら、良くないんじゃないかな?
でも、捨てるにも人が多すぎて危ないし……。
そんな事を考えつつ、旋回していると、ちょっと偉いっぽい騎士さんが「キュートリック殿、こちらに!」と手を振り、声を上げていた。
わたしがそちらに飛んでいくと、馬に乗ったその人は、慌てた感じに鷹の着地用手袋を装着すると、わたしに向けて差し出した。
わたしが右足後ろ足で何とかそれに掴まると、「恐れ入ります」と林檎を受け取ってくれた。
そして、部下らしき騎士さんに林檎を渡すと、パパさんの方に馬を走らせる。
そして、左手を向けてわたしを渡しつつ、「閣下! 閣下も竜殿も危険ですので、むやみに飛ばすのはお控えください!」と丁寧だが、少々お怒り気味に注意した。
パパさんはわたしを受け取りつつ、少々、決まり悪げに「すまん……」と謝った。
うん、ちゃんと謝れるパパさん、立派だと思うよ。




