王女様のお願い
決意を新たにしていると、嫌なのが取り巻きを連れて近づいてきた。
お嬢様が苦手とする、ジョセフ第一王子だ。
お嬢様の顔が微かに強ばる。
イザベル王女様の隣に座るアントワーヌ君もどことなく表情が陰った様に見えた。
彼も苦手なのかな?
そんな事を思っていると、ジョセフ第一王子がイザベル王女様に話しかけてきた。
「お姉様、全く令嬢達にも困ったものです」
「あら?
どうしたの?」
イザベル王女様がにこやかに訊ねると、ジョセフ第一王子はニヤニヤ笑いながら答える。
「虐めですよ、虐め。
身分の低そうな令嬢を虐めている者がいたんです」
「そうなの?
それは良くないわね」
イザベル王女様がその整った眉を寄せると、ジョセフ第一王子が何故か自慢げに言う。
「全く良くないですよ。
まあ、僕が言って聞かせたから、良いものの……。
仮にも貴族がそのような事をするなんて、ねえ」
すると、イザベル王女様がパッと表情を明るくさせた。
「まあ、ジョセフ、虐めを止めさせたのね!
素晴らしいわ!
わたくし、姉として誇らしく思います」
王女様の言葉に、ジョセフ第一王子は顔を赤め、視線を泳がせる。
「お姉様は大げさ!
大したことないですよ!
本当、大したことないですが、令嬢の中心に立つお姉様にはお伝えして置こうかなって」
大したことないなら、いちいち、報告するな――って思うのは、わたしがこの王子が嫌いだからかな?
周りの取り巻き子息、令嬢達に「流石は第一王子殿下!」とか「配下の者として、誇らしいですわ」などと、どう考えてもおべっかに鹿思えない事を言われて、いい気になっているのを見ると、その思いが強くなってしまう。
いや、でも、まあ、虐めを諫めた事は良い事だとは思うけどね……。
イザベル王女様はそんなジョセフ第一王子に訊ねる。
「それで、その虐められていた子は今、どうしているのかしら?」
少し、きょとんとしたジョセフ第一王子は小首を捻る。
「さあ、先ほどの場所にまだ、いるんじゃないですか?
あ、でも、虐めていた令嬢にはしっかり言い聞かせたので、大丈夫ですよ?」
イザベル王女様はうんうん頷きながら、護衛騎士っぽい人に視線を向けた。
頷き、近づいてきた護衛騎士のお姉さんの、その手を借りながら立ち上がったイザベル王女様は、ジョセフ第一王子に言う。
「少し、気になるからわたくしも見に行ってみるわ」
そして、その令嬢のいた場所を聞き出したイザベル王女様は、王子の手を両手で優しく握った。
「ジョセフ、これからも虐められている令嬢を見かけたら、助けて上げて。
令嬢だけでは無いわ。
弱き者を見たら、気にかけて上げて欲しいの。
あなたなら、それが出来るのだから」
「勿論です、お姉様!」
ジョセフ第一王子は少し、高揚した感じに胸を張る。
それに、微笑みながら、イザベル王女様が歩き出そうとした。
お嬢様が慌てた感じに、わたしを抱えたまま立ち上がる。
「お、お供します」
お嬢様の申し出に驚いたご令嬢な女の子達も「わたしも」「お供します!」と続く。
イザベル王女様は笑顔で首を横に振った。
「ありがとう。
でも、大丈夫よ」
そこまで言うと、イザベル王女様は少し考えるそぶりを見せる。
そして、お嬢様に向かってニッコリ微笑む。
「そうね、クリスタリ侯爵令嬢とキュートリック様にはお付き合いを頂きましょうか?」
お嬢様は「は、はい!」と大きく頷いた。
会場から少し離れると、イザベル王女様は一つため息を付いた。
そして、お嬢様に流し目をしつつ、扇子で口元を覆った。
お嬢様が少し緊張した面持ちになり、王女様に近づく。
側にいる王女様の側近ぽい人や、護衛騎士さん達は、注視しつつも何も言わない。
イザベル王女様はお嬢様、そして、わたしにしか聞こえない声量で囁く。
「ジョセフの事だから、〝止めただけ〟で後は放りだしたんだわ。
何の解決にもならない――どころか、下手をすると、悪化する可能性だってあるのに、困ったものだわ」
そして、イザベル王女様は、なんと言えば良いのか分からない顔をするお嬢様に苦笑しつつ、続ける。
「あの子は――単純だけど、悪い子ではないのよ。
ただただ、視野が狭いだけ。
わたくしが側にいて上げられれば良いのだけど……。
将来、他国に嫁ぐ身では、それも出来ないわ。
ねえ、クリスタリ侯爵令嬢――あの子の事を好きになって欲しいとは言わないわ。
だけど、出来れば嫌いにはならないで上げて」
「はい……」
お嬢様がそう答えると、イザベル王女様は柔らかく微笑んだ。
――
帰路を進む馬車の中でママさんが「疲れたわ」と体を伸ばすそぶりを見せた。
パパさんが「そうだね」と同意するも、ママさんはギロリと睨んだ。
「あなたは大公達とお気楽に飲んでいただけでしょう?
わたしなんて、成り立て侯爵夫人だから、もう、ご婦人方に何かと突っつかれて大変だったんだから!」
余りの剣幕に、パパさんは慌てて「ごめんごめん!」と宥めている。
尻に敷かれてるなぁ~完全に。
お嬢様はそんな両親を複雑そうに眺めつつ、膝に乗せるわたしを撫でている。
その撫で心地から、お疲れな事が分かる。
癒やしペットたるわたしとしては、癒やされて欲しくて、「がうぅ~」と鳴いてみたけど「キュー、その鳴き方、気持ち悪い!」と端的に突っ込まれてしまった。
ちょっと切ない。
しかし、ちょっと気になるなぁ。
実はあの後、イザベル王女様と一緒に、虐められていたという女の子を探したんだけど、全然、見つからなかったのだ。
まあ、それだけなら居心地が悪くなって帰った――そう、判断すれば良いのだけど……。
あれから、何人かの高位貴族の子息が虐められていた女の子を救ったと言っていたのだ。
それって、明らかにおかしいよね?
会場直ぐの位置でイザベル王女様を待っていたアントワーヌ君もその一人とのことで、彼の説明によると……。
虐めていたご令嬢達に話を聞いた所、最初に、その虐められてた女の子から慇懃無礼な態度で突っかかってこられたと弁明されたとのことだ。
勿論、自分の虐めを正当化するための方便かもしれない……。
ただね、これ、Web小説を読み込んできたわたしとしては、ね。
嫌な予感しかしない訳なのよ。
これって、あれじゃないかな?
『乙女ゲームのヒロインに転生したわたしは、逆ハーエンドを目指します!』系な事が行われているって事じゃないかな?
いや、勘違い!
勘違いなら良いんだけどね!
あぁ~
もしも、そうなら凄く面倒な事になりそう。
まあ、お嬢様に害が無ければ、逆ハーだろうがなんだろうが、勝手にしてって感じではあるけどね。




